人見知りと、緊張と、恐怖。
私は、小さい頃から極度の人見知りで、馴染みのない人、馴染みのない場所には緊張しまくっていた。
父の仕事関係の人の家に招かれたことがあった。
父と母は幼い私を連れて訪問した。
そこは広い庭に黄色や白の大輪の菊がたくさん栽培されていた。
きっと父に自分が丹精して育てた菊を見せたかったのだろう。父が庭で菊を見せてもらっている間、母と私は部屋でお茶を頂いていた。
目の前に出された菓子鉢には、美味しそうなお菓子が数々入っていた。
その前で私は緊張で固まっていた。隣に母が座っているだけで緊張するのに、知らないおばさんがニコニコして私を見ている。まして今まで来たこともない家の一室に座らされている。
緊張MAXだ。
おばさんが「ゆう子ちゃん、お菓子食べてね」と優しく言い、菓子鉢を私の方へと寄せてくれたが、私は手を出せずにいた。私がすぐにでもお菓子に手を伸ばしたなら、母になんて言われるかわからない。
恐ろしい。
おばさんはもう一度「どうぞ」と言ってくれた。
すると母が「もらい」と一言。
その一言で、私はそーっと手を伸ばし、一番小さなおかしを一つ手に取った。
『待て』と言われお預けされてる次の瞬間『よし』と言われて目の前のおやつを食べる。そんな感じ。
私は犬か。
でも、そんな私を母は、『借りてきた猫』やなあんたは。と言った。
犬やけどほんまは猫なんか。
私は自分から人に声をかけられない、いわば『大人しい子ども』だった。
それでも幼稚園や小学校では友だちもいたし、一人でポツンと居ることはなかった。それもこれもみんなが私に話しかけてくれるところから始まっているから。
小学校1年生の初日。
出席番号順に席に座らされて緊張してる私に、前に座っていた子が話しかけてくれた。それから話をするようになり、お互いの誕生日が一日違いだとわかり、より一層仲良くなった。それから中学、高校とずっと仲が良かった。そして今でも変わらず、大切な友だちになった。
私のそんな人見知りなところは、三男に受け継がれてしまった。
三男が3才くらいの時。実家に連れて行くと緊張しまくっていた。
母が「お菓子食べ」と言って出してくれても、頑なに手を伸ばさなかった。
母がお菓子を手のひらに乗せて三男に「はい、食べ」と差し出しても、母の手からお菓子を取ることはなかった
そこで、私がそのお菓子を手に取って三男にあげたら、やっと取って食べた。
三男も極度の人見知りではあったが、その時ばかりは今思うと人見知りだったのか、単に母が怖かったのかは定かではない。
大人になった今、三男に聞いてみたら「覚えてないなー。怖かったんちゃう?」と言って笑っていた。
私の人見知りは三男に引き継がれてしまってるけど、じゃあ私はいったい誰から引き継いだのか。
いまだ謎。