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女狐

第一の生き物はししのようてあり、第二の生き物は雄牛のようであり、第三の生き物はひとのような顔をしており、第四の生き物は飛ぶワシのようであった。

(黙示録3:7-6)

どんな仕事も受けた。精肉店で牛の小腸を切る役。草刈り代行の役。家の中の遺品整理の役。ソーラーパネルを組み立てる役。現代アートのオブジェを管理し、利用者を数える役。廃品回収の役。早朝温泉掃除の役。
 
俺の体を労ったクライアントのばあさんが、アパートに米や野菜を届けてくれた。

段ボールの中に白くて美しい陶器の花瓶が入っていた。

「ほら野ぶどうで作ったブーケをあげるわ。部屋に飾ってね。山に行ったり、森に行って収穫した訳じゃないけど。これは、神戸の別荘の横にある空き地で偶然見つけて摘んだものなのよ。あっ何?ああ、それ??それは花瓶よ。なるほど花瓶に描かれてる絵が気になったのね。それは女狐の絵よ。あなた、教訓として覚えておきなさい。ずっとずっと長い間、お金の心配をしてらっしゃるわね。なーに、酷い時代はいつまでも続かない。いい時が必ず来るわよ。だけど一つだけ忠告しておくわ。それはね。どんな時代も、生きた女が1番怖いってこと。あなたの弱みにつけ込んで、女狐が住み着いたら最期。人生ごと乗っとられてしまうわ。怖いわよー。幽霊よりも」

サツキと出会ったのは、田舎町にあるフィリピンパブ。



俺は便利屋をしながら、プロのギタリストを目指し、ニュージーランド、ネルソンでのバスキング旅の渡航費や活動資金稼ぎのため、主に観光果樹園のスタッフとして働いていた。

葡萄係りだった俺は、収穫までの間、ゴルフ場での受付スタッフもこなし、8ヘクタールに及ぶ敷地の草刈りも担った。公にできない夜間帯の営みもあった。数ヶ月で8キロも痩せてしまう。それほど炎暑のした、

虫を殺すための農薬が人体にもするどく作用する。

目の痒み、アレルギー。時に喉が、痛むほどの罵声をあげて叫び出したいほどに、過酷な仕事であった。当時、音楽家としての仕事は交通費も出ない事が多々だった。

さつきが住んでいる部屋へ。割り切って体の関係に燃えていた2人。夜風の窓際で激しくまさぐりあいながら、揺さぶりあってはこのまま窓から突き落としてやろうかと思ったことさえある。

エアサロンパスとペパーミントを足して割ったかのような香り、その喘ぎ声はまるで発情期の蛙。暗闇のさなか、そのいとけなき白い体は味気ない窓の外の街灯に照らされていて、透けているように見えた。

そして口を開けないほどうめく!車体が地面に擦れて火花が散るように。女から、消え入りそうな掠れた声が聞こえた。時に赤褐色に弾け。時にくすんだ瑠璃色に沈んでいく。それを繰り替えしているうちに、藤の花びらの舞う山道へと思考がワープしてゆく。

【なるほどあなたは私に愛情を求めているのね。けれど私もあなたもその反対側へしかいけない。快楽に支配されて、真実からかけ離れていくの。願いはあなたを腐らせて、祈りはあなたを堕落させる。異臭を放つ宝石。このお布団にふった香水がいくらしたと思ってるの。群がるハエ。私を殺すくらいの蜘蛛のような、セックスもできない。

神よりも普遍。腐りはしないお金

にたかる虫ケラ、ただ無重力空間な暗闇をふたりで泳ぐの。電気を消した暗がりでしかやれない恥ずかしがり屋。それがあなたの日の目を見ない性生活。わたしに保護監視されている男奴隷】

ニックドレイクの歌が、カーステレオから響いた。

点が線になり、円を描き、そして球体となって宇宙空間に浮かぶ。俺の罪とその意識は一体、どれほどの重みをもって、果てしないブラックホールへと沈んでゆくのか。暗闇への螺旋。上と下は一つに繋がっているのか、その真実を確かめた人類は

一人たりともいない。


肩書きを見つければそれを参考に審査する観衆。そんな奴らは目の前にバッハが現れてオルガンでカノンを弾いても本物と気付かないだろう。

シーズンオフ。バイトリーダーの水田さんと俺、2人でささやかな打ち上げをやった。

見栄の張り合いが祟ってのみすぎた。名ばかりの肩書き。表面的で空回りするプロ意識。知識マウント、苦い水割り。気づけば俺はフィリピン人の女の肩を噛んでいた。そして深い傷跡を残した。

同じ顔した人は1人もいない。同じ顔した人は1人もいない。同じ顔した人は1人もいない。同じ顔した人は1人もいない。

同じ顔した人は1人もいない。

同じ顔した人は1人もいない。同じ顔した人は1人もいない。同じ顔した人は1人もいない。

なるほどあなたは私に愛情を求めているのね。けれど私もあなたもその反対側へしかいけない。

快楽に支配されて、真実からかけ

離れていくの

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