藤野よはつ

音楽家としての初仕事は、13歳のとき、 バンドメンバーが書いた英詞をパンクソングにする…

藤野よはつ

音楽家としての初仕事は、13歳のとき、 バンドメンバーが書いた英詞をパンクソングにすること。地域で、多くの事故や事件【からの】生還。その生きた記録を中心に オーストラリアツアーを敢行。
Gold Coast、Brisbane、Pigabeen、Melbourne などで演奏。

最近の記事

ステージ【ショートショート】

以前暮らしていた実家のことを、何かにつけふと思い出す。どんな家に住んでいたか、近辺にどんなものがあったか、そんなことを。例えば実家を追い出され、最初に僕が住んだのは、寺家町商店街なん丁目、おなじみのニッケパークタウン前の小さな小さなアパートだった。コロナ禍が始まってまだ間もない頃だ。まあ今となればあの時の労苦をみんな何事もないことのように忘れ去ってしまったが、ぼくは次にパンデミックがきた頃には、一人火星に移住するだろうな。 初めての一人暮らしなのに、母さんは電子レンジやヒー

    • セッション【ショートショート】

      Alexander Williamと中本集の共通点を一つだけあげろと言われたら、ぼくは笑顔だと答えたい。それも幸せをふんだんに含んだ笑顔だ。 たとえば、コンサートが始まるとき、ステージの袖から現われて、客席のぼくたちにお辞儀するAlexの微笑み。それは幸せという言葉がぴったり来るではないか。確かに舞台に立つ人のなかには、たった一度の笑顔で、ステージと客席を親しいものに結びつける人物もある。しかしAlexの笑顔には、親しいというだけではない。もっとなにか、別な、いわば特別なも

      • ふれる(2)

        夜の海と半月。そんなムードを半ケツになって壊すような男さ。だけど色香。ピンクのハートが似合うような男。自分の容姿に自信があるやつがしがちな。過剰なスキンシップや、ベタベタがないから、涼しい雰囲気をかもし出していて、魅せ場の作り方がうまいから、女にもてた。 19歳で付き合った女は既に3ケタ。いいことなのか、悪いことなのか。 夜光虫とさざなみ。MOON LIGHT JUMPER 海ギリギリのとこにバイクを2台とめて、ボクサーパンツ一枚で、俺らは泳いだ。 落ちているガラス瓶で

        • ふれる

          ワタシは太古の恐竜のように化石としてその形骸だけが巨大さを語る存在でしかないんだ。(漫画 BLOW UP 第2巻より) この人生でわたしから あなたをふることはない 付き合って欲しいですが、私はあなたと付き合うためには、あと3度は人生を過ごさなきゃですね。えー若いいいいいいいい大変失礼ですが、ご年収は?私たちマッチングアプリで出会って、今日はじめて会いました。えーカップルに見えたって?????うそーあはははー。 もういいかい まだだよ そう君が言ってくすぶっていたのだ

        ステージ【ショートショート】

          女狐(追記)

          感情を失えば、どれほど人生は楽だろう。 お前は求めていたのか?蝋人形になった俺とのSEXを ★ 女にロボトミー手術を勧められたが、抵抗しきった。眼帯の上にアイスピックを差し込み、前頭葉の皺を切除するなんて、俺にはできない。 その手術は主に統合失調症の改善のためのものだった。 しかし1970年代にはあまりの悪評のため、事実上廃止、薬物治療がオーソドックスとなる。ロボトミー手術後に無気力無感情におちいる事もあり。 ケネディ大統領のじつの妹、ローズマリーもその被害者となっ

          女狐(2)

          イカって便利なものさ。冷凍保存ができるし、好きなタイミングで刺身にして食べることが出来る。生姜と醤油でさっぱり頂く。アオリイカとかなんとかいうイカだ。そして何より驚きなのが、イカ釣りの世界にプロがいるってことだ。バイト先の先輩が大きなイカを釣って、釣り雑誌の表紙を飾ってた。あの野郎、俺には内緒だったけど。奴さん、実はプロだったんだな。 年月が過ぎて、俺は寺家町商店街の隅にある安アパートに移り住んだ。ギターを持って大阪の喜連瓜破にある居酒屋に酔客相手の流しのオープンマイク。名

          女狐

          第一の生き物はししのようてあり、第二の生き物は雄牛のようであり、第三の生き物はひとのような顔をしており、第四の生き物は飛ぶワシのようであった。(黙示録3:7-6)どんな仕事も受けた。精肉店で牛の小腸を切る役。草刈り代行の役。家の中の遺品整理の役。ソーラーパネルを組み立てる役。現代アートのオブジェを管理し、利用者を数える役。廃品回収の役。早朝温泉掃除の役。   俺の体を労ったクライアントのばあさんが、アパートに米や野菜を届けてくれた。 段ボールの中に白くて美しい陶器の花瓶が入

          完全挙手制の恋愛(5)

          「やっぱり!私は、たけのこの里が良かった」 って言ってくる彼女。しつこくもなく 悪意もないのだけど、ドドドどことなく心のどこかで こっちがつまずいたんだ。 「こっち?そっち?どっち?そこ?どこ?ここ?あれ?だれ?なに?それ」 僕のせいだって自分を悪役にすると腑に落ちるスッキリしない案件。そんな風に僕をキープしていたらいいさ そして彼女はいつもなんでこんな時まで、さりげなく僕をつっつくんだろう。きっと女王になりたいんだな。この女王蟻。僕の人生を食い尽くせゲシュタポ

          完全挙手制の恋愛(5)

          完全挙手制の恋愛(4)

          それはあまりに突然のことでした。ですが私には大したことに感じませんでした。その時大きな声がしました。私は振り向きました。でもでもそれじゃあまりにあまりにも不公平じゃありませんか。天秤にかけるのですか?私の人生を、あなたの天秤にかけるのですか。それでもいいそれでもいいと思えるような恋だった。だけど声が聞こえたのです。神様の声でしょうか。その時私は悟ったのです。あなたとの恋は全て宇宙服だった。凡人の私には全く無関係だけど、お近づきになるだけで、ステイサシー。そして身に纏う事ができ

          完全挙手制の恋愛(4)

          完全挙手制の恋愛(3)

          そばにいられなくてもいい。音楽が聴こえるだけで、なあ十分だろ。この言葉が綺麗ごとなら、そう音楽なんて必要なかった。僕が表彰台に上がる時、めいいっぱいのおしゃれをしてきてくれ。君が表彰台に上がるとき僕はみずぼらしくしていくさ。その心はその心は全てが舞台だからさ。君がいてくれるだけで 日常は壮大なファンタジア。 ★ それから、いささか静かな初夏をすごしたが、その恋の香りは決して消えることがなかった。真夜中の高速道路で明かりを消して止まった車のように。その夏の終わり、この魂は

          完全挙手制の恋愛(3)

          完全挙手制の恋愛(2)

          僕は君の奴隷になるさ。 なぜなら人類は鶏の奴隷だからさ。 君も僕もニワトリの支配から逃れられない。 「人より、鶏の数の方が多いなんて、なんだか皮肉。地球が滅んだら、トリは宇宙空間へ、飛び出すよ。火星に移住すんだろな」 初めての東京ライブは地獄だった。 アコースティックギターを背負って、空を見上げてるだけで、街行く人に笑われた。 ★ 不幸は重なるものだしかし ★ 東京から帰った週の暮れ、納車予定日に事件が起きた。 手に入るはずだった新車が置いてあった場所の屋根が

          完全挙手制の恋愛(2)

          完全挙手制の恋愛

          塩の使い方で、全く持って世界は変わる。だってそうだろ。海が乾いても塩はのこるし、塩がなけりゃぼくたちは存在しないそうじゃないか。塩がなけりゃ、おむすびは味気ないぜ。ご飯に砂糖をまぶすのかい? 君は塩が存在しない世界をまだ本当にはイメージできていない。僕だってそうさ。 塩がうまいということは、その日がいい1日だったってことさ。だってそうだろ。汗水流して働いて結果残しても、世界から塩がなくなってしまったら、君はどうやって塩味をとりもどすのさ。強いて言うなら僕は君の塩でありたい

          完全挙手制の恋愛

          音楽戦争(3)

          その音に私の魂は魅せられ、いつしか思うようになる。そんな錯覚は甘い罠。わたしが自分の心に迷っているうちにすでに、彼女は次の扉を開けて外に出ては、中庭で蝶々を追いかけていた。 その姿はまるで、ミツバチたちの讃歌。 彼女を自分に引き寄せることはできない。そして私がバタフライに寄ろうとするとするりするりとすり抜けて、しきりと私から離れていってしまう。そう女はネイティブダンサーだった。 それは透き通った空気に対して、空論を仕掛けるようなものだ。もはや孤独な願望だった。 どうにか

          音楽戦争(3)

          音楽戦争(2)

          少女の鳴らすミュージックは、いわゆる一般受けするものではなかった。そして他のミュージシャンとならすには、いびつで難解ながら、成立したしろものだった。譜面やBPMで縛ることの出来ない未知の領域に足を踏み入れていた。 月を目指して浮かぶ水晶の船のように。 おぼろけなオール。力をつかうことなく、物事を刺し通すような鋭利な刃物、シャープな音使いをできる船体であった。いやむしろ音楽戦隊だ。 時を止めたガラスの海は、時をかけていく。そして人々は船をおりて、新たな世界へと歩みをはじめる

          音楽戦争(2)

          音楽戦争

          天才は主体であると同時に客体にもなり、詩人や役者であると同時に 観客にもなるからだ。ニーチェ『悲劇の誕生』(1872年)より さびしくなると人は音を鳴らすのだろうか。 その村にある施設のなかでは、身寄りのない小さな子供たちが、訳あって本当の父さん母さんから、引き離されて暮らしていた。村人はどことなくよそよそしく、自然の豊かさに相反して自分のことでいっぱいいっぱいな奴ばかりだった。人に濡れ衣をかせることを楽しみとしている輩まで存在しており。 伝言ゲームは3人目で作り話に変

          京都大学(4)

          晴れ間が差していた午後とは打って変わり、あまりにしつこい積乱雲がひしめきあい、ひとつふたつ雲と雲がディープキスをし、巨大な大きな曇り空へと変貌し、やがては雨を降らし、そしてあげくの果てには、地をしたたかに濡らしはじめた。 ぼくたちは、瑠璃光院を目指してバスに乗っていた。京都のまちに一切慣れているわけではない。なのでバス停がどのあたりにあるのか不安で仕方ない。前の席には蛾のような服を着たペチャクチャおばはんが2人。まわりの空気をわきまえず、喋り散らかしているし、後の席では、キ

          京都大学(4)