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ワインってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点

(第二回)産業としてのワインってサステナブルですか?

タイトルの真意は「サステナブルであってほしい」です。念のため。

プロフィール欄にあるように、私はWSET(Wine and Spirit Education Trust)のLevel4 Diploma in winesという資格を取りました。WSETはロンドンに本部のあるワインなどアルコール飲料の教育機関で、世界中でワインなどアルコール飲料およびその産業についての教育を行い、資格を認定しています。

ワインについてのDiplomaというのは、認定資格の最高位になるのですが、試験は6科目に分かれていて、全ての科目に合格すると資格が認定されます。全科目英語で試験が行われるということもあって日本人は受験者が少ないようで、2023/24年度前半までで日本人の資格保有者は140人程度と言われています。

WSETのDiplomaはワイン産業を一応理解したという、免許かな

WSETのdiplomaは、ワイン用ブドウの栽培・醸造から世界各地のワイン、小売り・飲食・ツーリズムなども含んだマーケティングまでをカバーしていて、この資格を持っているということは、今のワイン産業の川上から川下までを一通り理解した、という免許のようなものを持っているということだと思っています。

ワインやワイン産業を理解するために、共通の物差しを提供してくれています。フランス産の一本100万円の超高級ワインについても、コンビニでボトル500円で売られているようなお手軽ワインについても、同じアプローチでそれぞれの存在意義を明らかにしながら評価することができます。

この資格を取ったからワインが分かったなんて、とても言えません

別に、この資格を持っているから私は一般ワイン愛好家(単なる酒飲み)とは違うぞ、とかマウンティングをするつもりは全くありません。ワイン造りについては実際に畑に出てブドウを栽培し、収穫して醸造している人の経験値にかなうわけがありませんし、飲食店で提供されているワインについてはソムリエとしてサービスしている方々に比べてテイスティングした量は足元にも及びません。

でも、試験は大変でした…

私たちが美味しくワインが飲めるのは、ワインにかかわるすべての人たちのおかげだという感謝の気持ちを持ち、ワイン業界全体を俯瞰しながら、ワインのあれやこれやをお話しできればと思います。とはいえサラリーマンしながらの試験は本当に大変でしたので、どのくらい大変だったかは、そのうちネタがなくなったら書くかもしれません。

ワイン産業とESGに親和性がある、というのが今日のお話

アルコールに興味のない人にとっては、それがどうした、というお話ですが、ワインを産業として勉強してみたときに、前回お話ししたESGの話と相当親和性があると思いました。今回はその概論をお話ししてみようと思います。(第一回のリンクはこちら↓)
ESGってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点|わこさん (note.com)

ブドウ畑の美しい絵は地球環境への貢献のイメージ?

ワイナリーとかブドウ畑、と言われてイメージされるのは、青空の下できれいに整列した葡萄の樹にキレイな緑色や紫色に色づいた房がぶら下がっている、といった画でしょうか。これだけだと自然と共存して地球環境に貢献して、ワインを通じて人々の暮らしを豊かにしてくれている…なんて見えるのですが、さにあらず。

ブドウ栽培は様々な形で環境負荷に

大体、ブドウの樹を植えるために整地して土壌改良して、場合によっては水はけ改善のためにパイプを埋め込んで、樹を植えて施肥したり、雑草対策で除草剤まいたり、病虫害対策で農薬使ったりするわけです。もっと言うと、作業用のトラクターとかガソリン燃やして温暖化ガスを出してます。

アルコール発酵自体が地球温暖化要因

さらに、もともとアルコール発酵は、糖分を酵母菌の働きでアルコールと二酸化炭素に分解する化学反応ですから、酒作ること自体が地球温暖化の促進要因になりえます(笑)。さらに、品質保持のため、重たいガラス瓶とかに入れて運びますので、輸送のための燃料とかも必要です。地球環境の敵かもしれません。いずれまたお話ししたいと思っています。

赤ワインの発酵の様子。ブクブクと二酸化炭素が発生しています

ワイン製造から流通に及ぶ様々な環境配慮の取り組み

もちろん、これらに対していろいろな理由で環境配慮しようという動きはあります。
IWCA(International Wineries for Climate Action)という国際的なワインメーカーのイニシアチブ(取り組み)があります。加盟しているワインメーカーの生産量は世界の2%くらいに相当するそうです。

そこが出している温暖化ガス削減の取り組みを紹介したレポートによると、ワインの生産から販売までの温暖化ガス排出量を計測した時に、ワインメーカーが直接コントロールできる排出量(専門的にはScope1です。なじみのない方、すみません)が15%、外部から購入した電力など間接的な排出量(Scope2)が6%、瓶買ってボトル詰めしたりするワインメーカーから小売店など流通まで(Scope3)が79%となるそうです。

このイニシアチブに参加しているワインメーカーをはじめとして皆さん取り組みを進めてるわけです(もちろん、入っていなくても取り組みしているところはたくさんありますので、誤解なきように)。

温暖化ガス以外の環境負荷も

環境関連は温暖化ガスだけじゃないです。上にも書いた農薬とか、土壌改良とかは生物多様性にもかかわってきます。人間のために微生物を犠牲にしていいのか‼ってことです。難しいです。

さらに言うと、ワインの醸造や熟成に使う樽やタンクなどはきちんと洗浄しないと雑菌が繁殖してワインの質を悪化させる懸念が高まるのですが、そこで洗剤使います?使ったら環境が…ね。最近は高圧熱水が増えてるらしいのですが、それでも水は使いますよねぇ。

Copilotに「ワイン醸造タンクを高圧洗浄している画像を作って」と頼んで作ってもらった絵

この辺りって、ESGのEの表裏の話と近いものを感じていただけるとありがたいです。

労働者の人権や賃金と関連が出てくると「不都合な真実」?

Sになると、やや不都合な真実に踏み込む話になってきます。ワインの値段って、人件費とかかわりが深かったりします。

そんな中、たとえば、カリフォルニアのワイナリーで、ブドウの房を手摘みで収穫しようとすると、できる限り安く働いてくれる人手が足りなかったりします。どうしましょう?

ロスのすぐ南には国境ってのがあって、その向こうからアメリカで働きたい人たちが、こっそりごっそり来るわけです。フランスでも、欧州内を渡り歩いている国籍のはっきりしない移動型民族(ジ〇〇ーは最近差別用語という説があるため、使わないでおきます)と言われる人たちがその季節になると集まってきたりするそうです。

今では、この辺りは改善していて、ナパバレーあたりでは、不法移民で入ってきた人も含めてそうした人を教育などの面で支える取り組みはできてきているようですが。この辺りも、別途お話したいところではあります。

飲酒は社会的には悪とされる面も

さらに、飲酒は社会的に悪とされる面があったりします。
日本では、一時期はやったストロング系缶チューハイ(アルコール度数9%とかいうやつです)はあんまり広告されなくなりました。手っ取り早く酔っぱらえるということで人気になりましたが、急性アルコール中毒や依存症の原因になるという批判が強まりました。

同じように、大手ビールメーカーは直営レストランなどでの飲み放題をやめました。そして今年になって、厚労省がアルコール摂取のガイドラインを出しました。健康志向の高まりでアルコールへの需要は長期減少傾向にある中、こんな流れになっております。

ライフスタイルの変化で需要構造に変化が出ている面も

世界的にも、アルコールなどの依存症患者が増えることは、医療費的にも社会的にもコストがかかるということで、様々な制限がかけられています。また、ライフスタイルの変化などでじっくり時間をかけて食事を楽しむことが減ったりして、ワインの需要構造に変化が出てきたりしています。この辺りもいずれ深掘りしたいです。

でも国は税収ほしいし…

ただし、酒税は各国政府にとって重要な財源だったりします。
おやおや、また話がややこしくなりそうです。

企業はアルコール作っていいの?が問われる企業統治(G)

そんな状況の中、それでもワインとかアルコール作って売って金儲けするんですか?

そこでワインメーカーの矜持が問われるわけです。まさにGですね。おいしい食事においしいワインを合わせたりすることで、ワインは食卓を豊かにしてくれたり、マウンティングするやつがいなければコミュニケーションを深めてくれたりする(場合が多い)わけですから、お客様の生活の質を上げるためにどういった飲み方を提供するのか、単なるマーケティングの枠を超えた考え方を持つことも必要かもしれません。

消費者として店頭に行ったり通販でクリックしたりするときには残念ながらそこまでは考えませんけど。すみません。

需要と供給が様々な要因で大きく変動していて、関連する企業にとってはさらに複雑な状況に

さらには、ワインが儲かりそうだ、ってんで世界中で生産量が増えたり、プレミアムワインの値段が上がったりしました。

その反面、現状では世界的な供給過剰と価格高騰の反動が起きています。オーストラリアなどで大量生産ワインのためにブドウ栽培をしている業者は値崩れに苦しんで畑をつぶすことを考えています。

また一方ではフランス・ボルドーのプレミアムワインのアンプリムール(簡単に言えば先物です)の2023年の価格は前年比で2~3割下落したりしています。2023年の質の評価が落ちているわけじゃないです。

その一方で、世界の異常気象の影響も出ています。ワイン生産量世界一をフランスと争うイタリアの2023年の生産量は、南部で生産される普及品価格帯のブドウを中心に3割くらい落ち込んでいます。

日本にいる消費者としては、その状況に円安や輸送コストの高騰などの状況が重なって、無茶苦茶複雑な状態になっています。輸入業者さん、本当に大変だと思います。

いろいろあってもワイン産業がサステナブルになっていてほしい!!

いずれにせよ、この形をサステナブルに、つまり持続可能な形にしないと、ワインメーカーも飲食店も小売店もそして流通や我々酒飲みの生活もサステナブルにならない‼ということです。

ややこしや、ああややこしや、ややこしや。

ということで、また長くなっちゃいましたがESGとの親和性、感じていただけましたか?こんな調子でワイングラスを片手にしながら「それってサステナブルですか?」を考えていきたいと思います。次回以降はもう少しトピック絞って短めにします。

とりあえず飲めればいいじゃん、めんどくせーと思われる方はご自由にお飲みください。
また、ご意見などあればぜひお寄せください。この場で議論させていただきたいと思います。

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