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ワイン産業のサステナ基準ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~

(第二十回)世界各地のサステナビリティ基準の「違いを可視化」する方向に

食用コオロギを受け入れられるかは多様性の受け入れにもつながる

前回のお話は、食用コオロギの話だったせいか食いつきがあまりよろしくなかったみたいです。ただ、この話を受け入れてもらえるかどうかは、本質的には多様性を受け入れられるか、と通じるところもあると思ってます。もちろん、コオロギを食べろ、ということではなく、食用コオロギを(アレルゲンに配慮しながら)タンパク質の補助として飼料や食材に使う可能性を認められるか、という意味です。この「エシカル消費」関連の話はいろいろな話題がありそうなので、いずれ別の観点でも取り上げます。
食用コオロギビジネスってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~|わこさん

ワインのサステナビリティ基準は世界中でいろいろ

今回は、ワイン産業のサステナビリティについての話です。世界中にはワインのサステナビリティ基準が70程度あると言われています。全部を網羅しているわけではなく(するつもりもないですが)断定的なことは言えませんが、栽培において農薬や肥料を減らす・使わないといった生産者側の「自然環境を活かした、環境に逆らわないブドウを作りたい」という想いから来ているものもあれば、脱炭素のような地球の環境配慮的な考え方に重きを置いたものもあるんだろうな、と考えられます。

「ビオディナミの伝道師」は超ド級ワインの作り手

フランスのロワールで「ビオディナミの伝道師」と称賛されるニコラ・ジョリーは、「おいしいワインである前に、その土地固有の繊細さを表現した本物のワインでなくてはならない。」という考え方のもとで、フランスでビオディナミ農法を最初に始め、その考え方が世界に広がりました。彼のアイコンワインであるクレドセランは、ロワールという地域からなんとなくイメージされる、どちらかと言えば硬質な白ワイン、といった想像のはるか上をいく、熟した果実の凝縮感とミネラル感、高めのアルコール度数と瓶熟成からくるハチミツのような味わいとやや粘性を伴った長い余韻で心身に染み渡る、超ド級なワインです。

手元にこんな画像しか残ってないのですが、持ち込みワイン会やった時の「クレドセラン」です。本当に圧倒されました。

ワインのストーリーにつながるならマーケティングもしやすいが…

そこまでいけば、ビオディナミ認証(あるいはそれに準ずるサステナビリティ基準や認証)はプレミアムワインの証として、小売り段階でストーリーも書きやすくマーケティングツールとしても使えて、価格上乗せもできるでしょう。ただし、問題は、国や地域によってサステナビリティ基準に違いがありうる、ということとその基準がどこまでワインのクオリティや味わいに影響しているのかもよくわからないところがある、ということです。

「ユーロリーフ」は欧州のオーガニック認証

このところ、欧州産のワインの裏ラベルに星マークで輪郭された葉っぱの形の模様をよく見るようになりました。これは、EUの「ユーロリーフ」というサインで、ブドウに限らず、有機栽培され、遺伝子組換え作物は使っておらず、人工肥料、除草剤、殺虫剤の使用制限をしている農産物が95%以上使われていった基準を満たすオーガニック認証になります。

「ユーロリーフ」、見るからにオーガニックなイメージにデザインされてますよね

「ユーロリーフ」=良いワイン?

このマークがついていれば良いワインか?というと、そうとも限りませんよね。環境配慮したブドウを使っている、という話にはなりますが、そのあとのワイン製造の過程がどうなっているかを保証するものではないですし、ましてや味は?

アメリカにも独自の認証マーク

さらに、アメリカにはこういった認証マークもあります。

アメリカ農務省のオーガニック認定マークです。デザイン的にはEUの方が美味しそうですが笑

厳しい基準をクリアしていただける認証

こちらも農産物の栽培・加工・取扱いについての厳しい基準をクリアして、化学肥料や成長ホルモン、遺伝子組み換え原料を使用していないことや環境に配慮した製造工程を経ていることなどが条件のようです。

「ナパ・グリーン」という認証にはウォッシュ批判も

一方、ワインの名産地、カリフォルニアのナパでは独自の「ナパ・グリーン」という認証団体が2004年から活動しています。こちらも環境配慮をうたっているのですが、認証を受けたワイナリーの3分の1が除草剤を使用しているといった第三者による調査もあって、「グリーンウォッシュ」つまり見せかけの環境対応ではないかという批判を受けていたりします。

サステナ基準が異なっていると、わかりにくいし売りにくい

ということで、これらの認証やサステナビリティに関する基準が国によって違うのはいかがなものか、という話が出てくるのはある意味当然です。消費者にとってもわかりにくいし、小売店としても売りにくいです。

SWRという業界団体の活動

ということもあり、国際的にワインを産業としてサステナブルにしたいという業界団体Sustainable Wine Roundtable (SWR)が動いてます。サムネールの画像は、SWRのロゴを切り取ったものです。ワインメーカーやワイン商社、スーパーマーケットなどの小売店が加盟しています。ワインビジネスが共通の課題に取り組むことを促す取り組みです。ワインボトルの減量の取り組みもこのSWRが音頭を取っていますが、その話題はまた別途。

様々なサステナ基準の共通点、相違点を可視化しようとするGRF

SWRは今、グローバル・リファレンス・フレームワーク(GRF)というものを作ろうしています。それぞれのサステナビリティ基準の相違点を年次で評価していこうという取り組みです。詳細なポイントや評価は、お金払って会員にならないと見られない、とのことでよくわからないのですが、少なくとも世界統一のサステナビリティ基準を作ろうということではなさそうで、それぞれの地域特性に見合ったサステナビリティ基準の、ここが共通で、ここが違っている、ということを整理して可視化しよう、ということのようです。

地域特性などに配慮した形で話が進んでいるようです

ああ良かった。当然のことながら、ブドウ栽培は自然相手ですから、産地ごとに天候要因で必要な栽培技術は変わってきます。例えば、「灌漑をすることが水資源にダメージを与えるからサステナブルなワインづくりにとってよろしくない。排除しろ。」とか言われると欧州以外のワイン産地は終わるところ続出です。

認証付きで相違点がクリアになるとマーケティングにも使いやすそう

一方で、ワインを販売する側にしてみると、例えば南アフリカのサステナビリティ基準で認証を受けているワインとアルゼンチンの同じようなワインがどう違うのか、ということが整理できれば、それが広告宣伝するときに使えたりするかもしれません。多分、結果的にそれはワインの教科書に書いてあることと大して変わらないような気もします。ただ、そうだとしても、後ろに認証マークが控えていると説得力は増すでしょう。そうしたところも考えるとこの取り組み自体は、ワイン産業の取り組みをわかりやすくしてくれて、サステナビリティには十分貢献するものになるんじゃないかと期待してよさそうです。

企業のサステナ基準のルール作りは欧州が先行してせめぎあい

脱線します。
ワイン以外の企業のサステナビリティ基準に関しては、ルール作りで国際的なせめぎあいが何度となく起きています。環境問題や人権など社会課題については、欧州がルール作りで先頭を切って走り続けています。課題を特定したり、それらへの対処方法も含めた開示についてもいろいろ細々規則を決めようとしてくれています。

企業に対して環境対応や人権対応の要請を強めるEU様

脱炭素に取り組まない国からの製品に、欧州で二酸化炭素排出削減をしてコスト高になっている製品との差額分を課金しよう(CBAM(炭素国境調整メカニズム)って制度です)とか、大手企業に対してサプライチェーン上での環境や人権対応についての影響評価を行って開示することを義務付けよう(CSDDD(コーポレート・サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)ってやつです)って動きをEU様がなさっています。

ルール作りで先行して欧州企業に有利にしようという思惑

基本的には欧州各国や欧州企業が抱えている問題意識をベースにして、ルールを策定しようとしています。欧州が先に取り組んで、それに対応するために他国の政策を変えて世界に欧州のルールを広げて、ついでに先行している欧州企業に有利に働くルールにしてやろう、という狙いがあるとも言われています。この欧州型のルール作りで世界を抑えてやろう、という取り組みへの対応で日本企業もいろいろ苦慮してます。

「正しい」ことをやって利益が出るのか、が問題

ただね、そうやってルール作りで先行しているはずの欧州の企業って環境問題などにしっかり取り組むことで儲かってるんでしょうか?この問題だけではないけれど利益の伸びが日米などに比べて強い、ということはないです。CBAMにしても、なんだかんだと抜け穴探しが行われているみたいです(本格導入されたらみてろよ、と凄んでいる輩はいるみたいですが)。結果的に「正しい」ことはやっているわけですが、実質的に効果があまり見られない規制で、自分たちが利益を得られない、というのは何なんでしょうね。

ワインのサステナ基準も「正しい」ワインづくりには良いですが、美味しいワインになるかは別問題では

同様に、ワインのサステナ基準に関しても、(もうちらちら書いちゃってますが)それで結果的に「正しい」ワインや「良い」ワイン、もしかしたら「身体に優しい(身体に良い、とは絶対書けません笑)」ワインを作ることはできるかもしれません。ただ、それが美味しいワインになるのか、プレミアムワインになるのか、儲かるワインになるのかは別問題ですよね。

品質の最低水準は上がるけれど、むしろ差がつきにくく?

比較可能なサステナビリティ基準に基づいて各国のワインがコントロールされるということになるので、世界的に品質の最低基準は上がっていくことになると期待できます。コンビニワインが、きっと、もっと、ずっとおいしくなります。一方でストーリーの語れるプレミアムワインは別の世界を走り続けます。

だとしたら供給過剰の中でサステナビリティは?あれ?

GRFの狙いは、全体の品質底上げとともに、中くらいのレベル感のワインをサステナビリティ基準の可視化で整理しようということでもあると思うのですが、結果的にそこの差別化がうまくできるのか、それともクオリティの底上げで差が出にくくなることによってマージンが取りづらくなってしまうのか。全体供給過剰の中でどうでしょう?基準の相違点の可視化だけでワイン産業のサステナビリティが高まるのか、書いているうちになんとなくもやっとしてきました。あれあれ?

2024年、ありがとうございました。

これで2024年の私のNoteは打ち止めです。2025年もワインと経済と企業(と、これまであまり書いていなかったのですが金融市場)のいろんな動きがサステナブルですか?という視点でいろいろ書いていきたいと思っていますが、来週は冬休みとさせてください。よろしくお願いします。

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