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EUのワインラベル新規則ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点

(第八回)ワインのロマンは残るのか?夢は消えるのか?

今回はワインのラベル新規則の話とワインセミナー講師デビューのお話

毎回お付き合いいただいている皆さんには、ESGにしてもワインにしても、EUってのがいろいろカギを握っているというのがお分かりいただいてきたのではないかと思います。第五回でEUの共通農業政策(CAP)への反発が農業の脱炭素をアンタッチャブルにしているというお話を書きましたが、これに関連して、ワインを語ろうって奴らにとって、ちょっと重要なお話が引っかかってきましたので、今回はそのネタを。
第五回はEUの農業脱炭素政策ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点|わこさん (note.com)

EUではワインのラベルに栄養表示などが求められる

2021年の前回のCAP改定でEU議会と理事会はワインについての新しい表示規則を決め、2年かけて細則を制定して2023年12月にこのラベル規則が発効しました。この中では、これまでの原産地呼称(PDO)や地理的表示(PGI)、アルコール度数などの表示に加えて、スパークリングワインの糖度、栄養表示、成分リスト、アレルギーの原因となる物質、脱アルコール製品の賞味期限などを表示することが要求されています。

2024年産のワインからEUへの輸入ワインも含めて適用

で、このラベル規則は2024年産のワイン以降、EU内で流通するすべてのワインに適用されることになっています。つまり域内生産のものも、EUに輸出されるものも対象ということです。ただし、すべてを表面のラベルに記載する必要はなく、裏面ラベル、あるいはQRコードなどでワインメーカーのサイトに誘導してそこで開示するということでも良いみたいです。例によって、必要であれば原典を参照してください。

「ワインとの出会い」に水を差されそう

さあ、みなさん、どう感じられますか?
ワインが「食品」であるということなら、栄養表示など他の食品同様の情報開示をすることは当たり前、という意見は正論です。なんでこれまでやってなかったんだろう、位の話です。
ただ、ワイン飲みの皆さんは、いくつかの点でちょいと複雑な思いかもしれません。
特に、「ワインとの出会い」という楽しみに水を差されそうです。

ワインのラベルを読み解くときのワクワク、ドキドキが…

WSETのお勉強をされている方であれば、LEVEL2の教科書に「Wines: Looking behind the label (ワインのラベルを読み解く)」と書いてあったことをご記憶かもしれません。ワインのラベルには産地やブドウ品種など様々な情報が盛り込まれていて、自分の薄っぺら~い知識と合わせてそれを読み解きながら、このワインがどのようなワインなのかと思いを巡らせるのです(ワクワク)。そして買います(ドキドキ)。

実際に飲んでみると、予想通りだった(ヨシヨシ)とか、思っていたのと違った(アレアレ?)、ということが起きます。とかいうところから経験値を高めて(沼にはまり込んで笑)いくわけです。この「出会い」がワイン飲みの楽しみの一つだと思います(逆に、だからワインは難しいとか堅苦しい、などと言われる所以でもありますが)。

ワイン一本飲んで500Kcalとか言われたら?

今回のEUのラベル規則に従うと、(ボトルに貼付するか、QRコードなどで参照させるかは置いておきます)このワインは一本飲むと500Kcalで、砂糖(糖質)12グラム、タンパク質や脂質は微量(じゃないとやばいです)、原料はブドウと酵母菌とSO2(二酸化硫黄)やビタミンCなどの添加物で、酒石酸やリンゴ酸、乳酸などがそれぞれ××㎎含有…とかいう情報が公開されることになります。

どんな表記になるんでしょう?

添付画像は、カリフォルニアのRidge Vineyards のウェブサイトから拝借してきた裏ラベルの説明です。これだと、Dのところにこのワイン作りのストーリーが書かれていて、ワクワクが増幅します。Eのところに原材料表示がありますが、今回のEU規則は、これに栄養表示とかを書きなさい、ということで、この裏ラベルに記載するなら、多分Dを減らしてEを大きく膨らませることになるのかな?

Ridge Vineyards のウェブサイトから拝借してきた裏ラベルの説明です。Eの部分が拡充されるようなイメージですかね?

糖質多いから飲むの止めよう、とかならないと良いですが

Dの部分は良いとして、Eの拡張版の情報見せられて、ワインの味わいについてイメージが膨らんでワクワクが増しますかね?カロリー情報とか逆に雑音じゃないか、とすでに頭の先まで沼にドップリはまり込んだオッサンは思っちゃいます。ワイン1本500Kcalということは、ご飯2膳分くらいになるのに、もっと糖質の多いシャンパーニュ飲んだら太るかもしれないから止めとこう、とかになるかもしれません。SO2とかの酸化防止剤を毛嫌いする人には安心感になるのかもしれませんが。

ちょっとだけSO2のお話

ちょっと脱線します。
SO2は頭痛の原因になるとか体に有害だとか言う方々がいます。少量でも特定の物質にアレルギー反応を起こす人がいますので、〇か×かで言えば×(有害)なんでしょう。ただ、大多数の人にとって、ワインに添加される量は健康に悪影響がないと科学的に認められている範囲です。そこに目くじら立ててSO2のメリットを否定する意味はないと思います。SO2無添加でも飲みすぎれば間違いなく有害ですし。

意図する品質とのバランスで無添加を選択するべきでしょう

大体、SO2はブドウが発酵する過程で自然に発生しますので、「無添加」はありますが「含有ゼロ」はあり得ません(「不検出」はあり得ますが)。添加するおかげでワインにとって望ましくない酸化や細菌の繁殖が抑えられて品質が安定しますので、作り手の意図するワインを消費者に届けられます。ある程度量を流通させたいワイン生産者にとっては毛嫌いすべきものではないです。特に甘口ワインでは不可欠でしょう。少量生産者が「ボトル差」という名のもとに、品質が不安定になる危険性も含めて「自然派」として意図して添加しない、というのであれば止めませんが。

すみません。ワインの味わいに戻ることにします。

ワインの味わいは成分表示ではわかりません!!

ワインの味わいはこのような栄養表示とか成分リストで決まるのでしょうか?NOです。
ワインの成分を無理やり分解すると、一般的なスティルワイン(スパークリングでも酒精強化でもない)では最大約85%が水、最大約15%がアルコール(カロリーは一部ここに入りますね)、残り1%程度が酸(0.3~1%)とか香りや風味成分(0.2%以下)とかタンニンと色素(0.4%以下)です。ワインの味わいを決めるのはなんでしょう?

「1%」に含まれるワインのロマン

そう、この「1%」がワインのロマンだったりします。
アルコールだけ(あるいは薄めたアルコールだけ)飲むんだったら、いわゆるエチルアルコールで酔っ払うだけです。ワインだとか日本酒だとかは関係ないです。じゃあ、そこにフルーツのフレーバー足します?炭酸足したらチューハイです。うぇーい。

ワインメーカーの努力の結果を反映するワインの「香り」

こういうお酒とワインの差を作っているのがこの「1%」ということですよね。
ワインの香りを最初に嗅いだ時に、例えばグレープフルーツっぽい香りとか、少し甘やかなバニラの香りとか、もしかするとドライフルーツのような香りとか、ワインによっていろんな香りが感じられます。香りの成分は分析されてわかってますから、化学的に作ることはできるかもしれません。ただ、このそれぞれの香りにはワインメーカーの栽培・醸造・熟成の努力の結果が反映されています。

ただ、意図したコントロールは難しい部分も

グレープフルーツっぽい香りは、ブドウそのものの成分とその発酵から出てくる香り、バニラの香りは発酵後に樽熟成する過程でオーク樽から出てくる香り、そしてドライフルーツは瓶熟成の結果あらわれてくる香りと整理されます。ただ瓶熟成の結果としてあらわれてくる香りは、瓶の中での無酸素ないし低酸素下で化学反応していた結果の物質が、抜栓して酸素に触れた結果出てくるものだったりするので意図して完全にコントロールするのは難しいでしょうね。

赤ワインのタンニンの熟成による変化も意図した調整は難しい

同じように、赤ワインを飲んだ時に感じるタンニン分についても、熟成に従って瓶の中でタンニン分とその他の物質が重合を起こして変化します。熟成した赤ワインがまろやかに感じるのはそのためです。ただ、その重合の結果も偶然の産物という側面が強いです。ものによっては揮発性の香りが出てくることもあります。意図したコントロールはできないでしょう。

瓶熟成については成分表示では説明しきれないのでロマンは残るでしょう

抜栓してグラスに注いだ時、どんなワインになってるんだろう、というワクワクドキドキは、こうした瓶熟成の結果を味わうことができるワインについてはいくら細かく成分表示しても説明しきれないでしょう。この1%に永遠のロマンは残ります!!

瓶熟成ではなくても、作り手との対話ができる、という夢が

一方、世界で作られているワインのうち9割以上は瓶熟成させずに購入後すぐ飲む方が美味しい、と言われてます。それでも、ラベルに作り手や産地が書かれているワインについては、それぞれの土地のその年の天候を反映したブドウを、作り手がこう味わってほしいと思う形のワインに醸造してくれています。栄養表示もアル中も気になりますから、飲み過ぎにはくれぐれも注意しながらですが、飲むことによってワインの作り手と対話ができたら、夢がありますよね。

EUの新ラベル規制とサステナブルなお付き合いしましょう

ということで、EUの新ラベル規則が発効しても、ロマンは残っておいしくワインが飲めそうで、サステナブルなお付き合いができそうです。

わこさん、ワインセミナー講師デビュー

ところで、WSET Diploma取得したので、その知識とか未熟ながら経験とかを活かしたい、と思っています。先週、初めてワインのセミナーをさせていただきました。仙台のワインバー・オーヌマさんで、Diplomaの先輩、安田まり先生とジョイントの形で行いました。大沼さん、安田先生、お世話になりました。
ブラインドテイスティングを通じてボルドーの様々なワインを感じていただく、というテーマです。

12名ご参加いただいて、計6種類のボルドーワインを2種類ずつ比較テイスティングしてもらい、産地による味わいの違いや、格付けによるレベルの違い、製法による複雑性の違いを感じていただきました。ご好評をいただきましたので、また次の企画ができれば、と思います。

今回、ブラインドテイスティングしていただいた6種類のワイン

伝えることで自分の勉強にもなりました

人前でしゃべることは慣れてますが、まだまだ伝え方に工夫すべき点とか、整理しきれてなくて安田先生にフォローしていただく点とか、いろいろ改善点も見つかりました。
ワイン、やめられまへん笑

次回は、今のところ元株屋ネタに振りたくてたまらないのですが、少し考えます。

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