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エシカル消費ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~

(第十八回)必要なのは啓蒙なのか企業努力なのか

企業が環境や人権に配慮し続けられるかのポイントは「エシカル消費」

グローバルなワイン産業がサステナブルになりうるか、という問題を考える際の軸として、前回はOIV(国際ワイン・ブドウ機構)100周年のお話をしました。
OIV100周年、次の100年もサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~|わこさん
ワイナリーが気候変動問題に対する「緩和と適応」を続けるためには、それがマーケティングコストとして吸収できることが必要ではないのか、というお話もその前にしました。
ワインメーカーの「緩和と適応」ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点|わこさん
ワインに限らず製品を供給する際に「この製品は環境や人権に配慮した形で製造・販売されています」といった売り文句をつけることは供給側では広がってきていますが、企業がそうした作り方、売り方を続けることができるかどうかのポイントの一つとして「エシカル消費」があります。

エシカル消費とは、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動

エシカル消費(Ethical consumption)、直訳すると倫理的な消費ということですが、消費者庁のサイトによれば、「エシカル消費とは、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のこと」です。例えば、児童労働を排除したカカオ豆を安値で買い叩いたりせず正当な労働対価を支払う形で企業が購入し、それを原料として生産されたチョコレートを消費者が買って食べます(これはフェアトレードでもありますね)、といったことです。

「善悪」でいえば「善」といえます

経済活動について善悪の価値判断を示すことは正直好きではないのですが、エシカル消費が「善」か「悪」かと言われれば、商品のサプライチェーンの各段階において関係する企業や人に様々な利益をもたらすという観点で「善」ということになるでしょう。ただ、問題はそこに追加的なコストが発生し、最終価格に転嫁すると価格が上がるということです。最終需要者(チョコレートで言えば消費者です)がそれを受け入れられるのか、ということが非常に大きなポイントになります。

今回は、最近発表された消費者庁のサーベイをネタに

日本ではエシカル消費が欧州に比べて遅れている、とか批判されていますが、大体エシカル消費ってどのくらい根付いている考え方なんでしょうか。これについて最近消費者庁がサーベイ結果を発表しました。なかなか興味深いので、今回はコレをネタにします。
「令和6年度消費生活意識調査(第3回)」の結果について

令和6年度消費生活意識調査(第3回)の結果抜粋。「エシカル消費」が浸透しているとはとても言えない

普通の日本人はそんなもん知らん

まずは「エシカル消費の認知度」です。受け止め方はいろいろだと思います。ただ、言葉も内容も知らない、という回答が72.6%。ということは、普通の日本人はそんなもん知らん、ということです。

クリティカル・マスは大まかには3割程度と言われる

クリティカル・マス(Critical mass)という考え方があります。新しい商品やサービスがマーケットを拡大していくときに、保有率や認知度があるレベルを越えると浸透度が加速度的に上がるようになる、というマーケティングの考え方です(元々は物理学(原子力)の用語ではありますが)。

お隣が持ってるからウチも、となるレベルのこと

過去の例でいえば、いろんな耐久消費財がマーケットを拡大していくときに、あ、隣の家も(冷蔵庫とかテレビとかエアコンとか)買ったからウチも買おうか、とかいう心理になるレベルということです。大まかには3割程度と言われています。

上場企業に求められる多様性浸透にも重要

脱線しますが、上場企業には、女性取締役の比率を2030年までに3割にすることが求められています。取締役会全員が社内叩き上げのオッサンになっているとモノの見方が偏って固定化され、世の中の変化についていけなくなるかもしれない。なので、それを変えるためにいろんな考え方の人を入れるべきだ(=多様性を取り入れよう)、ということで、こんな話になりました。で、ただ女性が入れば良いか、といってもその存在が認識されて話聞いてもらわなきゃいけないです。その時にこのクリティカル・マスの考え方を参考に、まずは3割くらいいれば話も聞いてもらえるし、結果として多様な考え方が反映されるのでは?ということになったのかな、と勝手に思ってます。

現状の認知度は、放っておいても加速するというレベルには微妙

本題に戻ります。エシカル消費についての認知度、言葉を聞いたことがあるという答を合わせても27.4%。クリティカル・マスの考え方からは微妙な水準ですね。ただ、前年、前々年と比較しても上昇トレンドというのは無理があります(5年前は12.2%でしたからそこからは上がってますが)。このまま放っておいて、浸透度が順調に上がるという状況だとは言えなさそうですよね?

手段はともかく、まだまだ啓蒙は必要

別の調査項目では、SDGs やESG投資など他の言葉の認知度も調べていて、SDGsは言葉だけは知っているという答えを合わせると8割くらいだったりするのですが、エシカル消費の認知度は間違いなく低いです。どんな手段でやるかはわかりませんが、まだまだ啓蒙が必要です。

若い世代のエシカル消費への意識は相対的に高い

あと、良く言われる話で、若い世代の意識が高い、とか言われてる話があります。言葉と内容の両方を知っている、という回答は、10代(14.2%)が全体の平均値(7.5%)の約2倍なので、確かにそんなことも言えるかもしれないのですが、絶対値は14.2%とかいう状況で、若い人たちがエシカル消費を引っ張るとかいうのは無理があると思うのですが。

ストーリーへの共感や周りがやっているから、という理由は今後のポイントに

一方、若い世代のエシカル消費をしている層に理由を聞いたら、もちろん明確に環境などの意識を持ってやっているという回答が多いです。それに加えて、ストーリーに共感するとか周りがやってるからとかいう答が相対的に多い。SNSでバズった商品がヒットするとかいった、今の若者の消費行動と整合的にもみえるので、ここがエシカル消費を拡げるときのポイントにはなりそうですね。

消費全体の行動変容につながるかはよくわかりませんが

ただ、それが特定の商品のプロモーションでとどまるのか、消費全体の行動変容につながるのかは正直よくわかりません。例えば、チョコレートはエシカルが格好良いけどコーヒーは関係ない、みたいになってしまうかもしれません。

エシカル消費に取り組んでいると答えた人に理由を聞いてみました。明確な目的を持っているのに加えて、若い世代ではストーリー性などが相対的に重視されているようです。

追加的なコストを受け入れてくれますか?

あと、さらにとっても大事なことは、エシカルな商品を作るために追加的なコストがかかるわけですが、それを受け入れる腹づもりがあるか?ということです。

食料品は割高でも許す、という回答が4分の3

エシカル消費につながる商品を今後購入したいと回答した約6割の人に対し、エシカル消費につながる商品価格がどの程度なら割高であっても購入したいか聞いたところ、割高でも許す、という程度が一番高かったのは「食料品」で77.0%、最も低かったのは「自動車」で 60.5%でした。

とはいえ10%超の割高感には拒否感も

ただし、逆の見方をすれば10%を上回る価格転嫁についてはいずれも拒否感がありそうです。電力は原油・天然ガス価格で電力料金が変動しますから、変動に紛れてなんとなく転嫁できちゃう部分もあるかもしれませんが、他はどうですかね。

どのくらい割高なところまで許す?0%であってくれれば良いですけど…

消費者が牽引役となるエシカル消費はサステナブル?

エシカル消費をしたいと言っておきながら、そのコストはあんまり負担したくない、ということのように見えます。やや残念な結果という感じではあります。まあ、この状況だと、消費者側を牽引役としてエシカル消費をサステナブルにしていくのは難しそうですね。

環境対応が全てに優先するわけではないというのは欧州も同じ

環境問題出羽守の皆様が、欧州では日本と違って意識は高くてエシカル消費は浸透しているとよくおっしゃるのですが、欧州でも電力料金が上がって消費者心理が悪化したりしてるわけですから、環境対応が全てに優先するということではないんでしょうね。

6カテゴリーでの環境面での課題

ちなみに、ここに上がっている6カテゴリーで、主な環境面の影響を簡単に書いておくと、食料品(農薬や耕作地拡大に伴う環境負荷)、衣料品(染料、耕作地拡大に伴う環境負荷、化学繊維作成のための石油使用)、その他生活用品(原料生産に伴う環境負荷。パームヤシのプランテーションとかを想像してください)、家電(生産や使用に伴う電力消費や製品廃棄時の環境汚染)、電力(石油石炭天然ガス使用)、自動車(生産時や利用時の環境負荷など)。

人権面での課題

一方、人権面でも強制労働や低賃金労働などが起きやすい分野が多いと言えます。家電とか自動車についても、原材料に使用されるレアメタルなどの採掘にあたって、劣悪な労働環境で働かせるなどの人権侵害が問題とされています。

企業努力も啓蒙も、って当たり前じゃん

じゃあ、どうするか?当たり前ですが、コスト上昇を価格転嫁しても受け入れてもらえるように商品の付加価値を上げていくとか、マーケティングをしていくということになるんでしょうね。そうすると、その商品のストーリーがいかにエシカルかを訴求するような工夫、データ開示も含めた製造工程の可視化が必要でしょう。一方で、お上やインフルエンサーなどによる啓蒙も続けて強化していかなきゃいかんということでしょう。

ワインはエシカル消費のストーリーと親和性が高そう

なんだかありきたりの結論になってしまいましたが、こうやって考えると、改めて、ワインってエシカル消費につながるようなストーリーと親和性が高くなりやすそうですね。さあ、年末年始は環境・人権などに配慮するストーリーを語ってくれるような素敵なワインと過ごしてみませんか?

今回のカバー画像は、お久しぶりのCopilot 作品。エシカル消費のスローガンを壁に貼っているワインショップの絵になります。それ以外にもなかなか面白いのを作ってくれました。せっかくだから貼っておきます。

微妙に誤字があるところが笑えたりします。Human Lightt?
それぞれよく見るとジワリます

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