MAGAってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~
(第十四回)企業がサステナブルであろうとすることが結果的にドナルドを支えちゃう?
トランプ氏返り咲きのお話の前にちょっと振り返り
前回は、ワインメーカーにとって、脱炭素に関した「緩和と適応」に取り組むことはマーケティング面で意味があるからこそ、取り組みが進んでいる側面があるというお話をしました。直近でもチリのコンチャイトロがガラスボトルの重量を400g以下にするという目標を発表したり(ちなみに平均的には550g位らしいです)、いろんな取り組みが出てきたりしてます。その前の回でお話ししたCOP29という「脱炭素祭り」は予想通りの低調さで一週間経過しているようです(会期は11月22日までですが、延長で合意文書がまとめられるのが恒例なので、何かあれば終わった後でまた書きます)。
ワインメーカーの「緩和と適応」ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点|わこさん
今年の脱炭素祭り(COP29)ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~|わこさん
ワイン片手にどう語りますか
で、今回はやっぱり米大統領にドナルド・トランプ氏が返り咲きした、という話題をワイン片手に語らにゃいかんかな、と思うわけです。とはいえ、差別化しづらい話題でもあるので、切り口変えてみたいなと思いながら書いていきます。
MAGAの本当の意味って何でしょう
トランプ氏がスローガンにしている「Make America Great Again (MAGA)」というフレーズですが、これって本当のところ何を意味してるんでしょうね。考えれば考えるほど自己矛盾の塊に見えてきます。第二次世界大戦後の覇権国だった時の「尊敬される強いアメリカ」ということであれば、「世界の警察官」として強大な軍事力を背景に世界平和に貢献する、ということですが、NATOなど同盟国に対しては「自分の身は自分で守れ」と言ってます。まあ、軍事費なんてムダ金に見えますからね。
アメリカの需要は一貫して世界一、アメリカ企業の供給力は強い
経済的に強いアメリカというのも、定義がぼんやりです。国内の消費関連需要の強さをみれば、アメリカの内需は相変わらず世界一が続いてます。アメ車を世界中に売っていたことに象徴される供給力の強さを取り戻したいということなのかもしれませんが、第二次世界大戦後、アメリカはほぼ一貫して貿易赤字です。つまり、アメリカ製品が世界を席巻していた、というのはある種の幻想です。冷戦中はアメリカの覇権を後ろ盾に、冷戦終結後はグローバリゼーションの恩恵を受けながら、アメリカ企業が海外に出て行って、アメリカの旺盛な国内需要と世界の需要を満たしてきた形です。だから、アメリカ企業が世界を席巻していた(それなら今もある程度言えますよね)ということです。
アメリカの製造業の復権、ってどういうこと?
そんな中で製造業の復権とか言ったって、海外(含むメキシコ)で安く作るのが当たり前の企業は困っちゃいます。それと関連しますが、「モノづくり」をしている筋骨隆々のアメリカ人のオッサンたち(イメージです)を増やそうったって、今のアメリカで製造業の雇用者って、非農業の雇用者のうち8%くらいです。こいつらを増やすことが労働者を豊かにするということなんですか?もっと言うと、テスラのイーロン・マスクもエヌビディアのジェンスン・ファンもアルファベット(グーグル)のスンダー・ピチャイもアメリカ出身じゃないんですが、移民排斥して良いんですか?
要するに、黙って言うこと聞け!ってことですか?
こんな理屈には、うるせえ、黙れ、お前はクビだ出ていけ、って言われます。要するに、「世界一の経済規模のワシの国で商売したければ、ワシの言うことを聞け!!いいから聞け!!返事はハイかイエスか喜んでだ‼」を実現しよう、ってのがMAGAのような気がします。で、言うこと聞かないと関税かけられる、と。
理屈では間違いなくブーメランですが
それでどうなるか、というと、理屈で考えると間違いなくブーメランです。例えば中国からの輸入品の関税率を60%にするとか言ってますが、輸入品(仕入れ)のコストが上がって、S&P500企業の来年の増益分が吹っ飛ぶくらいのインパクトになるかもしれないって試算している証券会社もあるみたいです。
トランプ「MAGA2.0」を取り巻く楽観と警戒、問題は高い代償か - Bloomberg
第1期は「ご都合主義的保護主義」
価格転嫁したら、インフレになって間違いなく消費は落ちます。トランプ氏大統領第1期の米中関税合戦で、中国から輸入しているおもちゃに関税かけたらクリスマス商戦に影響しそうだから関税引き上げのタイミングをずらす、なんて「ご都合主義的保護主義」をやってたのを思い出します。今だったら、あの頃よりインフレ圧力が残っているので、インフレ再加速します。そういう悪影響が出ることをトランプ氏は(多分)わかってるんです。でも、言うこと聞かせたいんですね。
貿易統計だけ見た上っ面の議論
で、第1期政権の時、中国に関しては、アメリカの国別輸入額も貿易赤字額も一番大きい、アメリカが負けてる、ケシカラン、と上っ面の議論を展開したわけです。実際は、アメリカの消費財関連企業(製造業も小売業も)が、生産コストの安い中国で作ってそれをアメリカに売るために持ってきたら国境を越えちゃって貿易赤字としてカウントされちゃっただけで、アメリカ人は別に負けてなかった(むしろ安くクリスマスプレゼントが買えてハッピーだった)わけですが。
今、輸入額だとメキシコからが一番多いですが、どうします?
その後、安全保障の問題(通信機器にスパイウェアが仕込んであるんじゃないか、とかとか)などもあって中国からの輸入は減りましたが、最大の赤字国ではあります。一方、輸入額でいうと今はメキシコがトップ‼もちろんこれも、メキシコ自体が強いわけではなくて、USMCA(北米自由貿易協定)を利用してアメリカ企業をはじめとする各国企業がアメリカの消費者に製品を供給するためにコストが安いメキシコで生産したからです。トランプ氏、これどうします?アメリカに生産拠点を戻すために自由貿易協定を破棄してまで関税かけますか?まあ、不法移民問題と合わせて圧力はかけるんでしょうね。
アメリカ製品を買え、という話にもなります
貿易収支に話を戻すと、貿易赤字を減らす(「負け」を取り返す)ためには相手国からの輸入を減らすか、相手国への輸出を増やすかが必要です。なので、関税上げながらアメリカ製品を買え、という話にもなるわけです。
でもアメリカ製品で買いたいものありますか?
?さて、ここで問題。アメリカが輸出しているもので、国際的に競争力のあるものはなんでしょう?
競争力があるのは農産物と医薬品と航空機くらいじゃないですか?
国全体で見たときに、世界への輸出品で競争力があるのは農産物と医薬品と航空機(もっと言うと武器)くらいでしょう?輸出品目の構成では、機械とか自動車とかが上位を占めてますが、これはUSMCA(北米自由貿易協定)のおかげでカナダとかメキシコといった、北アメリカ経済圏の中でアメリカ企業が垂直分業して自由にモノを動かしている側面が大きいです。
貿易収支を勝ち負けにすると、アメリカは負け続ける可能性高い
そう考えると、国としてはアメリカは負け続ける可能性が高いです。だってアメリカから買うものないんだもん。いや、買ってもいいですよ。小麦とか大豆とかトウモロコシとか牛肉とか。あとボーイングの飛行機も買うよ。これが第1期の時に米中間で手打ちした内容です。まさか中国に武器売るわけにもいかないし。
企業の損益の延長線上で国の優劣を考えるからこうなる
わこさんなりに整理すると、企業の損益を考える延長線上で、国の対外収支を国の優劣の指標として誤解すると、トランプ氏的な思考回路が出来上がって、摩訶不思議な政策がマガり通るということでしょう。
企業行動が合理的ならMAGA的な考え方はサステナブルに
問題は、このMAGAがサステナブルなのか?ということですが、上に書いた、企業行動とマクロ経済を同列に扱う思考パターンが続く限り、MAGA的な考え方はサステナブルになりうると思います。企業は、様々なルールや規制を考慮しながら、その時その時で最善のサプライチェーンを作ろうとします。それは製造業でも非製造業でも同じです。関税や規制がかかれば何とかそれを回避して、利益率を維持しながら自社製品やサービスをできる限り売っていこうとします。中国の諺「上有政策、下有対策(上に政策あれば下に対策あり)」みたいな感じですね。
企業はグローバルに利益を上げようとします
完全にブロック経済になったり、全ての国が鎖国したら別ですが、産油国の石油会社は(たとえば)石油を売らないと国が成り立ちませんから鎖国はないですよね。なので石油会社は石油を売り、それを輸入して加工する化学製品の会社も素材を売り、それを材料にて様々な製品を作る会社もモノを売っていきます。それぞれの段階で企業は利益を上げます。
企業活動が国境越えたら国家間で不均衡は生まれます
それぞれの企業は自社のビジネスをサステナブルにしたいわけですから、今存在している企業にとって、この行動は合理的です。ただ、この活動のどこかで国境を越えるでしょうから、そこで必ず貿易黒字/赤字は発生します。それが不満だと思う人がいる限り、このMAGA的考え方が続くのではないでしょうか。それが今回のサブタイトルの意味するところです。国って何なんでしょう、とちょっと考えちゃいますね。
ワイン片手のお話をしないとクレーム来そうなので
このまま終わると、「ワイン片手じゃない」というクレームがまた来そうなので、二つほどワインにつながるお話を。
EUワインに対する関税復活は流れ弾的にはあるかも
ワイン業界のニュースレターとかを見ていると、EUワインに対する高関税が復活するのではないか、と恐れおののくコメントがいろいろ聞こえてきます。条件次第ですが、ワインは狙い撃ちにされるというよりも流れ弾に当たるということではないかな、と思ってます。トランプ大統領一期目の時に、EUワインをアメリカに輸出するときの関税率が25%に引き上げられたのは確かです。ただ、これはエアバスとボーイングのシェア争いの中で、ターゲットとされたものです。ボーイングの航空機はアメリカの数少ない輸出競争力のある製品ですから。
ボーイングの経営危機を何とかするのが先
だとすると、またエアバスがケシカラン、という話になると同じ事が起きるかもしれませんが、今ボーイングはエアバスとのシェア争いとか言ってる状況じゃない、というのはご存知の方が多いと思います。経営危機です。品質不良の影響で納入が遅れまくっている中で、債務拡大。そんな中で大幅賃上げを要求する労働者のストもやっと収束したくらいです。まずは自社の立て直しが先のはずです。それをわかっていれば、トランプ氏はエアバスの航空機に制裁関税をかける前にボーイングの立て直しに手を貸す方が大事でしょ、となります。まあ、そうならないかもしれないので皆恐れているわけですが。(細かく言うと、アメリカの対EU貿易赤字のうち、国別だとエアバス関係ない対ドイツの赤字の方が大きいんですが、関係ないっすね)
ワインに関税かかったら供給過剰の低価格帯への影響大
仮にEUワインに関税をかけられた場合、一律の関税率だと影響は低価格帯により大きく出ます。南イタリアとか南仏とか、きっとボルドー(AOCボルドークラス)とか、供給過剰の影響が出ている価格帯の米国市場での競争力がなくなります(涙)。格付けのボルドーとか、ブルゴーニュみたいな高価格帯ワインに対する需要は変わらないでしょうけど。
国境管理厳格化で労働力供給が絞られると価格上昇要因に
もう一つは、以前も書きましたが、また国境管理が強化されて、メキシコからの安価な労働力供給(適法か違法かは置いときます)が抑制されたときに、ナパバレーのブドウ栽培・収穫に影響が出るかもよ、って話です。ブドウの栽培・収穫コストが上がるということになると(絶対表には出ませんが)薄く広くナパのワイン価格は上がるでしょう。
飲めるうちに、美味しいワインをいただきましょう。次回、11月第3木曜日を挟むのですが、今年高そうだからどうしようかな。
今回のタイトル画像は、Copilotに「アメリカの国旗をバックに"Make America Great Again"のイメージの帽子の画像を」とリクエストして出てきたものの切り取りです(正方形の画像出してくれたので、長方形にして、って言ったら自分で加工しろ、って言われたので)