ボジョレー・ヌーヴォー祭りってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~
(第十五回)身の丈に合ったワインの飲み方の中で「一区切り」としての楽しみが定着すればOKでしょう
前回の話は深掘りするとはまりそうでした
前回、トランプ次期大統領を誕生させた状況について愚考しましたが、トランプ氏が人々の現状に対する不満や満たされない思いを上手く汲み取ったということでもあるでしょう。その中に、きれいごと言ってんじゃねえよ、という思いがあったことで、ちょっとエリート臭のするカマラ・ハリス氏やアメリカの民主党左派に対する反感が強まって、振り子が大きく振れたということもあったのかな、と思います。それは日本での最近の既存政党への逆風にも通じるものがあるのかもしれません。その不満を生む根本が何なのかを考えだすとはまりそうなので、やめます。
MAGAってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~|わこさん
今回は軽く、ボジョレー・ヌーヴォーのお話
で、今回は11月の第3木曜日、ボジョレー・ヌーヴォー解禁について、それこそグラス片手に軽く語ってみましょう。
昔はニュース番組でコメントしたこともあったっけ
昔に比べると、ボジョレー・ヌーヴォー祭りって、目立たなくなってきましたよね。昔々、とってもお世話になったニュース番組で11月の第3木曜日の朝にコメンテーターとして出演させていただいたとき、ニュース項目の中に「ヌーヴォー解禁!!」てのがあって、番組内でテイスティングさせていただいたことを懐かしく思い出します。
日本人の初物好きに目を付けた大功労者デュブッフ氏
目に青葉山ホトトギス初鰹、なんて言うように、日本人は初物が大好きで、新酒も大好きで、だからワインの新酒も売りやすい、ってことで上手―くマーケティングをしたのがフランスのボジョレー地方のジョルジュ・デュブッフ(Georges Duboeuf)さんになります。もともとフランスでも新酒フェスはあって、彼はそこに向けて1960年代からボジョレーの新酒を売り出していたわけですが、それを日本人の初物好きに上手に合わせてきました。2020年に亡くなりましたが、日本人にワインの楽しみ方を一つ教えてくれた功労者ですよね。
航空運賃の分お高いヌーヴォー
ボジョレー・ヌーヴォーは、フランスのブルゴーニュの南(広い意味ではブルゴーニュ地方の一部)にあるボジョレー地方で作られた新酒です。ブルゴーニュの南なのですが、土壌が違ったりするので、ブルゴーニュで主に栽培されているピノ・ノワールとは違う、ガメイ・ノワールという黒ブドウの品種を使います。醸造は新酒を作って楽しむための醸造方法を使うので、その結果フルーティーで軽めの飲みやすいワインができます。値段がややお高めなのは、新酒を11月第3木曜日に日本に届けるため航空便を使うからです。それだけのコストをかけても、新酒をマーケティングしたいわけですね。
今年の収穫量激減の中でどんなワインが出てくるか楽しみでした
フルーティーで軽めの、しかもちょっとバナナやイチゴキャンディみたいな独特の香りもする飲みやすいワイン、ということで値段の割に安っぽいとか飲み応えがないワインじゃないかということを言う声もあります。でも、ヌーヴォーはその年のブドウの出来を測る一つの指標にもなりますので、とりあえず味見くらいはしてみましょう、と私は思ってます。実際、今年のフランスのブドウの収量は大きく落ち込みました。生育時期の雨などで生育が悪く、病害も出たようです。ボジョレーを合わせたブルゴーニュの収量が前年比3割減といった予測もあります。
普通はクオリティ落ちると考えます
生き残ったブドウを大事に育てて収穫時期も例年より遅めにしたので、収穫したブドウの品質は熟度が高い、とかいった負け惜しみのようなコメントも伝わってきますが、収量が3割落ちたら平均的にはクオリティも落ち気味になると思った方が良いでしょう。売上金額=単価×数量です。超一流生産者はクオリティにこだわってぎりぎりまで収量を減らします。値段を上げてもブランドネームを買ってくれる人がいるのでトータルの売り上げは何とかなります。が、普通の生産者は値段がそんなに上げられないのでクオリティをある程度妥協して量を確保する必要もありますからね。そんな中でどんなワインができたのか、楽しみです。
テイスティング・コメント前にネタを二つ
テイスティングのコメントをする前に、ボジョレー・ヌーヴォーについてよく聞く話と止めてくれ!!って思う話を一つずつさせてください。
ボジョレーのワイン=ヌーヴォーではない
ボジョレーのワインの典型的なスタイルがボジョレー・ヌーヴォーだ、って思っている人が相当数いらっしゃいます。レッドチェリーやラズベリーのような赤系果実が前面に出たフルーティーで軽めの、しかもちょっとバナナやイチゴキャンディみたいな独特の香りもする飲みやすいワイン、と表現されることが多いと思います。このスタイルを作る醸造方法がマセラシオン・カルボニック(炭酸ガス浸漬法、MC)なわけですが、ワインの教科書ではないので、詳しく説明はしません。
早く飲んでね、という作り方なんです
簡単に言えば、二酸化炭素が充満したタンクの中で酸素と触れない形でいると、ブドウの粒の中の「酵素」が酵母菌とは違うアルコール発酵を始めて独特の香りと味わいの要素を作り出す、ということです。このスタイルは、作り手としては長期熟成して楽しんでほしい、というものではなく、買ったらすぐ楽しく飲んでくださいね、ってワインです。
ヌーヴォーのスタイルは全体の3割程度
ただ、このヌーヴォーのスタイルで作られるワインはボジョレー全体の25~30%です。残りのワインはMCではなく、きちんと醸造してしっかりとした赤ワインが作られます。とはいえ、ボジョレーのブドウは房ごと手摘みにして、房ごと醸造樽に入れる全房発酵なので、房の茎の部分に守られて二酸化炭素に触れずに残ったブドウの粒の中でMCが起きることがあり、ヌーヴォー的なスタイルになってしまうことはあるのかな、とも思います。
ガメイさんのワインでも長期熟成はあります
実際、ガメイさんのワインは品種特性で酸味が高めなので、作り方によってはしっかりとワインの骨格を作って熟成できるスタイルもあります。酒屋さんで、ワイン棚に「ボジョレーBEAUJOLAIS」と書いてあるワインを見つけたとき、ラベルに「ヌーヴォー NOUVEAU」って書いてあるかどうかはちゃんとチェックしてください。「NOUVEAU」って書いてない、少し年数の経った(バックビンテージ)ワインが棚にあった時に、「あー、この店わかってねえじゃん」と思ってしまったらあなたが恥をかくかもしれません。逆に、来年春くらいに酒屋で「BEAUJOLAIS NOUVEAU 2024」お安くなってたとしたら、黙って通り過ぎてください。酒屋さんだって在庫何とかしたいんです。
「ボジョレー・ヌーヴォー 紅白セット」は止めて、お願い
それから、やめてほしい話。「ボジョレー・ヌーヴォー 紅白セット」
ボジョレー地方で栽培される品種は96%ガメイ・ノワール。白ワインはシャルドネから作っているそうですが、ワイン生産量の1%くらい。これでどうやって紅白セット作るんでしょう???教えて偉い人。
「紅白揃うとめでたい」にも限界はあります!!
セット販売されている白ワインはたいていマコンというブルゴーニュとボジョレーの間の地域のシャルドネだったりしますから、ご近所で目くじら立てなくてもいいじゃん、と言われそうですが。紅白でめでたいから、とかいう気持ちはわかるし、それをマーケティングに使うのも(安易だけど)わかります。
でもやめようよ。お正月のご挨拶にどうぞ、とか言われても、ねえ。
ついでのネタ
ついでに。以前、某東北地方のドライブイン(道の駅?)で、超プレミアムの日本酒◯◯代が買える、って聞いたので寄ってみました。夏場でした。勇んで行ってみたところ、ありました❢2本セットボックス入り❢
よく見ると、◯◯代と一緒に入ってたのは、前の年のボジョレー・ヌーヴォーorz
そのまま帰りました…
今年のボジョレー・ヌーヴォーのテイスティング・コメント
ということで、作り手さんの狙いや願いを受け止めて、ボジョレー・ヌーヴォーをいただきましょう。
きりっと引き締めてくれる心地よい酸味
見た目は薄めの紫です。
香りの強さは中程度からやや強め、教科書通りのラズベリー、レッドチェリー、イチゴキャンディ、バナナのカワイイ、フルーティーな香りが、1年ぶりの「あ〜、コレコレ☺️」。
酸味がやや高めでキリッと引き締めてくれるので飲み口はスッキリです。ボディは軽めでアルコールは中程度。
懐かしいボジョレー・ヌーヴォーに再会した気分
果実味が凝縮してなくて、今年の栽培の天候要因が厳しかったのかな、って思わせてくれます。だけど、わこさん的に正直に言うと、懐かしいボジョレー・ヌーヴォーに久しぶりに巡り会えた♥って感じです。
難しい年だからこそ結果的に抑えめの作りに
このところ、「今世紀最高の果実感!!」とか「凝縮したフルーツの味わい!!」とかいうキャッチコピーで、果実味を売りにしたヌーヴォーが多かったと思います。実際、天気が良かったのと、もしかしたら地球温暖化の影響もあって、イチゴバナナ風味の葡萄酒みたいな印象の残る年が結構あったかな、と。それに比べれば、少し口当たり軽めだけど、「新酒🍷!!」って感じです。
言われている通り、今年が難しい年だったとすれば、それを確認する意味では、やっぱりボジョレー・ヌーヴォーを飲む意味はありますね。
新酒感が出せる限りヌーヴォー祭りはサステナブルになりそう
当たり前のようですが、これがボジョレー・ヌーヴォーの存在意義でしょう。この「新酒🍷感」が出せる限り、ボジョレー・ヌーヴォー祭りはサステナブルでいてくれるんじゃないでしょうか。おまつりをどのくらい派手にブチ上げるかは、輸入や販売に携わる方がマーケティングコストをどのくらいかけられるか、によりますが1年通じてワインが生活に根付くための一つの区切りとしてヌーヴォーを飲む、ということになればいいんじゃないか、と思います。
今回のワインについて追加コメント
今回買ったワインは、エノテカさんで買ったものです(カバー画像にもしてます)。これに関しては、フレッシュ&フルーティーと言いながら、少しタンニン分を感じさせるところがあります。ラベルにVieilles Vignes(古木)と書いてありますので、樹齢が上がって収量が落ち気味になる分、味わいが凝縮して飲みごたえが足されたのかなと思います。
一方で、ちょっと粘性を感じるところがあり、裏ラベルを見たら安定剤としてアカシアが使われてました。もともと色が薄めなのでそこのところを安定させるために使ってるのかな、大量に売るものなので品質は安定させなきゃいけないんだろうな、と思いますが。いずれにせよ作り手さんの様々な努力を感じながらおいしくいただきました。
今回は捻り無く素直な仕上がりになりましたが、それは果実味をキレイに出した今年のボジョレー・ヌーヴォーのおかげかもしれません(笑)