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続・オーセンティックなBAR

  前回はこちら。

 さて、盟友の超かおりんとともに名駅北口から歩くこと10分、目的のオーセンティックなBARの門口に辿り着いたのだったが、その前に腹ごしらえすることになり、我々は道を挟んで向かいあったイタリアンに入店した。

 二階に通された。黒っぽくて粗い木目のテーブル。なんだか雰囲気がある。ルパンと大介がパスタを奪い合っていたようなああいう店だ。メニューの他に本日のおすすめパスタというのが4種類あり、その中から聞き慣れない(ペスカトーレとかボンゴレとかだったらわかるけどもうちょい聞いたことがない単語の入った)パスタをそれぞれ注文した。

 隣りの席は家族連れのようだった。といっても50代くらいの夫婦に20代半ばの息子というアダルトな構成で、三人で楽しげにアヒージョをつつきながら赤ワインなどを飲んでいる。三人ともなんだかオシャレである。
 ふーん、20代の男がこういう店で親と食事したりするんだ、へーえ、ニューファミリーってやつですかね、と眺めているうちに、この店で酒を入れるつもりはなかったのだが、せっかくなのでやはり赤ワインの一杯も飲みますか、ということになり、二人してポッターエリスロッソという赤ワインを注文した。
 このポッターエリスロッソという赤ワインがなんとも飲みやすくて旨く、後から調べたら楽天やヤフーで980円くらいの安ワインなのだが、怖ろしいコスパのワインもあるもんだと思った。もっともアルパカやコノスルだって相当に旨い、とソムリエ系youtuberが絶賛していたので、安くて旨いワインというのはいくらでもあるのかも知れない。

 そうこうしているうちに、超かおりんが海鮮の盛り合わせカルパッチョを注文した。
 おいおいこの店はサッと腹ごしらえするため立ち寄っただけやぞ? と思っていたら今度は超かおりんが酒を追加した。ハイボール。もはやイタリアンですらない。
 余談だが超かおりんと飲み食いしていると彼はサイドメニューをバカスカ注文しどんどん酒をおかわりするので、そこらの大衆居酒屋でさえたいてい数千円では収まらず、二人で五桁いくことがザラにある。この独身貴族め!

 しかしまあ、ワインも旨いし、カルパッチョに乗っているエビもホタテも魚卵もたいへん旨く、パスタがこれまた会話を忘れてむさぼるほど旨かったので、すっかり気分が良くなり、ネットではとても書けないようなサイゼリアdisなどで会話が弾み、いっこうに席を立つ気配がない。

 それにしても、隣席のファミリーを見ているうちにつらつら過去のことが思い出されてきた。
 僕の子供時代は実家がたいへん経済的に逼迫しており、その理由は以前のブログで書いたこともあるが、外食といってもせいぜいスカイラークにたまに連れて行ってもらえる程度だったし、おそらく今でも父は、回転寿司やファミレスやコメダや王将(以上が子供の頃に連れていってもらったことのある店のすべてだ)よりランクの高い外食を知らないのではないだろうか?

 10年ほど前に、父と二人してかっぱ寿司へ行ったら、テーブルの向かいに座った父が「鋲太郎くん、おいしいね」満面の笑顔で言ってくるのにはどう答えていいかほんとうに窮した。
 「うん、おいしい!」と即答できたら僕も大人だったろうが、そうは出来なかった。「あのねえ、こういうところのものをそんなに大喜びしてはいけないんだよ」みたいなことを父に向かって言ったと思う。なんという恥知らずな息子だ。父に食文化が乏しいのは、他でもない僕や妹たちの養育費や学費にお金を注ぎ込んだからではないか。
 ああ、あの日に戻ってやり直したい。あの日に戻って、父が「鋲太郎くん、おいしいね」と微笑みかけてきたら、すかさず「うん、おいしい!」と満面の笑みで返したい。

 そういう環境で育った僕は、当然ながら食文化やファッションなどに極端に無知で、高校や大学、新社会人あたりではあきらかに周囲から浮いていた。ゼミの段階でまだ母親に買い与えられた、スーパーの2階のワゴンで一着1000円とかで売っているような一時代前のチェック柄のシャツなどを着ていたし、デートにしても、マクドナルドやケンタッキーではない、それなりのお店というのをどうやって捜せばいいのか、どうやったらそこに辿り着けるのかさっぱりわからなかったのだ。

 そんな僕も、20代あたりで背伸びをしては恥をかくということを繰り返しながら、まあどうにか人並みに外食だとかファッションとかがわかるようになった。
 その日にしても、こういうわりかし気の利いたイタリアンやらオーセンティックなBARやらを、とくべつ気合いを入れるでもなく普通に行くというのは、自分のなかで隔世の感がある。

 隣りの席の息子は、幼少時から親がこうしていろいろ連れて行ってくれたんだろうな、服にしてもあれやこれやの文化にしても、きっと苦労して身に付けたって感じじゃないんだろうな、とちょっと羨ましくなったのだった(念のために言うと、勝手に想像が膨らんだだけでそんなにジロジロ見ていたわけでも聞き耳を立てていたわけでもありません)。

 しかし僕は、自分の両親が好きだ。そういう文化資本を子供に与える余裕がなかったとしても、それで同世代の友人・知人よりだいぶ後方からスタートしてえらい苦労したにしても、まったく恨みはない。
 クラスメートに「蹴ったら倒れそうな家」と揶揄されようとも、極度に切り詰めた食事ばかり出ようとも、友達とあきらかなおもちゃ格差・小遣い格差を感じて悲しくなっても、とにかく学費だけは出してくれたのだから、恩義しか感じない。また生まれてもこの両親の下に生まれたい。

 さてそうやってイタリアンの店で思わず長居してしまったあと、いよいよ目的の、オーセンティックなBARに入ることになるのだが、すでに1000字どころか2000字さえ超過してしまったのでそれはまた次回に書くことにします。それではまた(・ω・)ノ🍷

 


 

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安田鋲太郎
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