知る人ぞ知るブラジルに本社を置くデザイン会社Casa Rexとブラジルの歴史。
東京オリンピック・パラリンピック。ポジティブなイメージばかりをメディアで報道していますが、廃墟化、治安の悪化など開催後のネガティブなニュースを見ることも多いと思います。
『2016年夏季五輪の開催地、ブラジル・リオデジャネイロの治安悪化が深刻になっている。五輪のためのインフラ投資と景気悪化が重なり、州財政が悪化。警察官らの配備がままならず、凶悪犯罪の増加に歯止めがかからない。その影響で消費も低迷。04年の五輪開催が経済危機の一因になったことで知られるギリシャと同様、ブラジルも「後遺症」に苦しむ。』日本経済新聞2018年2月19日より
さらには、
『「ブラジルの悲劇」は、起こるべくして起きたブラジル国立博物館の至宝が焼失した必然。
9月2日夜、貴重な歴史的遺産を豊富に収蔵するブラジル国立博物館が火災で焼失し、ブラジル国内は悲しみに包まれた。この博物館は、スプリンクラーシステムがなく、長年にわたって財政不安にあえいでおり、今回の火災は「起こるべくして起こった悲劇」となった。』ロイター2018年9月4日より
200年におよぶ成果、研究、知識が一夜にして灰になってしまいました。ブラジルにとって計り知れない損失でしかないですよね。
2020年東京オリンピック・パラリンピックが国際都市東京に与えてくれる影響がポジティブなものであることを願います。
Communication ArtsやCore77、HOWといった人気雑誌から称賛を受けているサンパウロに本社を構えるデザイン会社Casa Rexの代表Gustavo Piqueiraの作品を紹介したいと思います。
20世紀初頭のブラジル人のライフスタイルや価値観をビジュアライズした歴史的にも価値のある活版印刷による書物「Catálogo de clichês」は、当時D. Salles Monteiroによって制作されたもので、その復刻版が2003年にAteliêe Editorial(アトリエ・エディトリアル:質の高い出版物を発行する1995年創業したブラジルのアート系出版社)により出版された。
「Catálogo de clichês」の当時のブラジルの価値観やライフスタイルを表現したイラストのみを使用し、Gustavo Piqueiraが再解釈しまとめあげた「Clichês Brasileiros」。
今ではオフセット印刷が主流であるが、15世紀から20世紀まではヨーロッパでヨハネス・グーテンベルクにより発明されたと思われる活版印刷術が主流の印刷方法でした。活版印刷は現代とは違いテキストコンテンツをメインとしており、その補完的な役割として挿絵(イラスト)が活用されていました。「Catálogo de clichês」は活版印刷の挿絵集といった趣です。
Gustavo Piqueiraよって新たに表現されたブラジルの歴史(よく知られたブラジルのイメージ)であるポルトガルの植民地時代、アフリカ系黒人の奴隷労働、砂糖の時代、金の時代、コーヒーの時代など今日まで語り継がれるブラジルのよく知られたイメージをはじめ、高度経済成長による都会化、交通渋滞、借金、マンション乱立による閉塞感などを「Catálogo de clichês」のイラストだけを使用した素晴らしいグラフィックと彼特有のニヒリズムにより描かれています。
サンパウロに本社を置くデザイン会社Casa Rexの代表Gustavo Piqueiraは、460を超える国際グラフィックデザイン賞を受賞している世界でも有名なデザイナーの一人です。彼の特長は対話をデザインの重要な要素として捉えているため、一般的なグラフィックデザイナーの領域よりも社会的に大きな幅のなかで活動しています。
リオ五輪公式ポスターを依頼された13人のアーティストにも選ばれ、Gustavo Piqueiraは古代オリンピックの月桂樹のリースをモチーフにした作品を発表しました。
芸術家が現代人が抱える課題と解決した未来をつなぐメディアであるならば、デザイナーは芸術家と大衆をつなぐメディアではないでしょうか。