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池内恵「ガザ危機と中東の激動」(東京大学Webサイト 2024年2月9日)
(2023年)10月7日に大規模な越境攻撃が行われたと伝わった瞬間に、湾岸産油国を含むアラブ諸国の側には、これがイスラエルに対する攻撃であるだけでなく、パレスチナ問題を放置してイスラエルとの国交正常化交渉を進めていたアラブ諸国に対する反発の噴出でもあるという認識があり、一部にはある種の罪の意識も芽生えたようです。
アラブ諸国では、10月7日を機に、パレスチナ問題の解決なしに地域の平和と安定は望めないと人々が認識を切り替えています。
(中略)
未だ終着点は見えませんが、パレスチナ問題を解決させるのであれば、なんらかのパレスチナ国家の樹立を含む二国家解決を到達点とする新たな合意を、イスラエルとパレスチナのそれぞれの政権・指導部が受け入れなければならないでしょう。
(中略)
そのような解決を受け入れることは、イスラエルとパレスチナそれぞれの現政権が、内政上の抵抗により難しいため、双方の政権の入れ替えまでもが議題に上るでしょう。
2024年2月、アメリカ・バイデン政権時に「ガザ危機後」の展望を示した論稿。
その後、トランプ大統領の再選や25年1月の停戦合意など、大きな状況の変化はあったが、アラブ諸国が自国とイスラエルの二国間関係だけでなく、パレスチナ問題の解決に認識を切り替えた、というのは重要な指摘に思える。
周辺諸国に加えて、諸大国がより大きな目標に向かって合意を目指すのには、相当な時間と困難があるだろう。
しかし、二国家共存によるイスラエル・パレスチナ問題の合意の枠組みを取り決めないことには、地域での暴力の連鎖は収まらないように思える。
筆者としては、ハマースが戦闘以外に何を求めているのか、封鎖の緩和なのか、それを実現するにはイスラエルと何を合意すべきなのか、また、パレスチナ人が一体になることは本当に不可能なのか、知りたいと思っている。