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お客様の想像を超える旅を。パッケージツアー企画担当者が語るツアー造成の舞台裏と旅への思い

旅行に行きたいと思ったときに、パッケージツアーのパンフレットが目についたことはありませんか。JTBでは、お客様に素晴らしい旅の体験を提供するため、日々パッケージツアーの企画・造成に取り組んでいます。しかし、そのツアーがどのように企画され、作られているのかご存知の方は少ないのではないでしょうか。

旅の舞台裏を支えるひとりが、房間 稔ふさまみのるです。JTBのパッケージツアー「旅物語」の企画から販売管理まで幅広く担当し、ツアー作りに情熱を注ぐ房間に、パッケージツアー造成の裏側や仕事の魅力について語ってもらいました。
 

パッケージツアーの舞台裏。アイデアから実現までの道程。

房間 稔(ふさま みのる)
エスコート商品販売事業部 海外旅行部 企画一課に所属。2016年に新卒でJTBメディアリテーリングに入社し、西日本事業部に配属。「旅物語」の電話販売を1年間担当したのち、国内旅行を中心とした添乗グループへ異動。2018年から国内企画造成を担当し、2023年から海外旅行の企画に携わる。2024年4月東京に転勤となり、今はフランス、オランダ、ベルギー、スペインなどヨーロッパを中心に担当。

―― はじめに、パッケージツアーの企画・造成の流れを教えてください。
パッケージツアーの造成は、まず市場調査から始まります。他社の動向や自社の既存商品を分析しながら、既存ツアーにはないような面白いツアーを作れないかとアイデアを練ります。

次に、ポイントとしてどのような要素を入れたいかを考えます。この段階で最も大切なのは、現地の情報をしっかりと集めることです。視察として現地に行くこともありますし、各国の政府観光局が主催するセミナーへの参加やランドオペレーター※との対話を通じて、その土地ならではの魅力や隠れた観光スポットを発掘することもあります。自分の目で見ることや現地の人の声を聞くことを大切にしています。

※ランドオペレーター:旅行会社からの依頼を受け、現地のホテルやレストラン、ガイドなどの手配や予約を専門に行う会社のこと

企画担当者によってこだわるポイントは少しずつ違うのですが、私はいつも「一貫したコンセプト」を設定するようにしています。例えば、一般的な観光地巡りだけでなく、その土地ならではの特別な体験を組み込むこと。歴史的な建物で食事をしたり、地元の人しか知らない隠れた名所を訪れたりすることで、ツアーにオリジナリティを持たせます。コンセプトを設定することによりツアーに独自性が生まれ、お客様にとってより印象に残る旅行となることを目指しています。

現地の情報が揃い、ツアーの方向性が決まったら、いよいよ具体的な行程づくりです。移動時間、観光地での滞在時間、食事、宿泊施設など、細部にわたって検討を重ねながら、各事業者との交渉も行います。

実際に自身が考えたツアーを形にしていくのはわくわくしますが、一方でさまざまな事情で思いどおりに進まないことも少なくありません。お客様にお届けしたいことと、実現可能なことのバランスを取りながら進めていく必要があり、踏ん張りどころでもありますね。

 最後に、パンフレットを作成し販売を開始するのですが、まだ、ここで終わりではありません。販売開始後も、予約状況の管理や販売促進活動を継続し、ツアーの成功に向けてやることはたくさんあります。

―― ひとつのツアーが完成するまでには、たくさんの人が関わり、多くの時間を費やしているんですね。実際にどれくらいの期間で作成し、どのような方が関わっているのでしょうか?

 ツアー作成の期間は、内容によってさまざまです。じっくり作り込むツアーであれば3カ月ほどかかることもありますが、なかには1カ月程度でツアーを作ることもあります。

私たちの部署で造成している「旅物語」は、企画から販売、添乗まで一貫して行っているのが特徴です。企画担当である私がツアーを作り、パンフレットを作成します。その後、「このツアーの売りはこういうところです」「このように説明してください」といった情報を販売担当に共有し、効果的な販売につなげられるようにしています。手配担当は、実際に予約が入ったときに、現地のランドオペレーターと調整しながら手配を進めます。出発前には添乗員にも引き継ぎを行い、「ここは特に気をつけてほしい」「ここでこういう案内をしてほしい」といった細かい要望も伝えます。

企画だけでなく、販売、手配、添乗と、それぞれの専門性を持つメンバーが力を合わせてツアーを作り上げているんです。

「自分がワクワクする旅を形に」ツアーの極意。

 ――パッケージツアーを企画・造成する上で、特に心がけていることは何ですか?

 「自分が楽しいと思える旅」を作ることが根幹にあると思っています。もちろん自分の考えが全て正しいとは限りませんが、まず「自分自身が楽しいと感じられるかどうか」は自信をもってツアーを企画造成するための重要な指針になっていますね。

私自身、旅が好きなので普段の生活のなかでも、「どういうところに行ったらわくわくするかな」といったことを常に考えています。また、友達や同僚と旅行に行く際も、「ここに行ったら面白そう」「こんな体験ができたらみんなで楽しめるだろう」といったことを考えながら計画するのが好きなんです。

自分が本当に楽しいと感じられるツアーこそ、お客様にも楽しんでいただけるものになると信じています

 ――ご自身も旅が好きだからこそ、お客様の気持ちに寄り添ったツアーを考えられるのですね。そんな房間さんの経験のなかで、印象に残っているツアーや仕事をしていて嬉しかったことはありますか?

 特に印象に残っているのは、過去に国内旅行の担当で企画した福井県のグルメツアーです。福井県というと、恐竜博物館や羽二重餅、海鮮グルメなどいろいろな観光素材はあるものの、他の県と比較したときに、まだその魅力が十分に世間に伝わっていないのではと感じていました。そこで、どのようにすれば福井県の魅力を伝えられるか考えた結果、グルメに特化したツアーを企画することにしました。

このツアーのテーマは、単に美味しい料理を楽しむだけでなく、食事の背景にあるストーリーも知っていただくことでした。例えば、福井市には、かつて福井藩の医師の別荘だった草庵を有する料亭があるんです。そのストーリーがいいなと思って、そこでの食事を組み込みました。魅力再発見といいますか、福井県のディープな一面を知ってほしいと考えたんです。

正直、新しいツアーということで、企画当初は若干の不安もありました。しかし、蓋を開けてみると予想以上にお客様の反応が良く、社内からも「この企画は今後の指標になる」と評価をいただきました。

このツアーは、その後もコンセプトを保ちながらシリーズ化され、私が担当を離れた今でも販売が続いています。自分のアイデアが形になり、多くの方に喜んでいただけたことで自信がつきましたし、この仕事の最大のやりがいだと感じています。

さらに嬉しかったのは、添乗員からの反応です。「このツアーにまた添乗したい」「お客様がとても楽しんでいた」といった声を聞くと、企画者としての喜びもひとしおです。お客様に満足いただくことはもちろん、目の肥えた添乗員にとっても新しい発見や感動を体験できるツアーを作ることが、私たちの隠れた目標でもありますから(笑)
 

―― 一方で、最も大変なことは何でしょうか?

最も難しいのは、お客様にツアーの魅力を伝えることでしょうか。私たちの部門にはいわゆる「営業」がいないので、パンフレットやダイレクトメール、新聞広告などがその役割を果たします。つまり紙面でいかにツアーの魅力を伝えられるかが重要なんです。

ですが、お客様の目に留まる数秒間で興味をもってもらうのは簡単ではありません。そのためにさまざまな工夫を凝らしています。

例えば、写真の選び方。その土地の雰囲気や体験の魅力が伝わるような、印象的な写真を厳選します。さらに、ツアーのコンセプトを明確に打ち出すことも大切です。例えば、先ほどのグルメツアーでは、「もともと福井藩の医師の別荘だった草庵を、料理人が受け継ぎ料亭を営んでいる」といった背景や歴史など、企画担当が推したいポイントを紙面にもしっかり盛り込みます。
目の前にはいない、見えないお客様に魅力を伝える必要があるので、「伝わっているかな?」「分かりにくくないかな?」と常に試行錯誤していますね。

でも同時に、とてもやりがいのある工程でもあります。自分が考えたコンセプトのツアーということは、これまで市場に出ていなかった新しいツアーを生み出せたということでもあるので。初めてのツアーをいかに魅力的に伝えるかを考えることは創造的で面白いです。

 未来への展望。変化するニーズに応える新しい旅の形。

 ――最近では、インターネットの普及もあり個人で旅行を計画し、実行することが容易になっていますよね。そんな中でパッケージツアーの魅力はどこにあると思いますか?

パッケージツアーの大きな魅力は、個人では体験しがたい特別な経験ができることだと考えています。例えば、普段は入れない時間帯に美術館に入場したり、地元の人しか知らないような隠れた名店で食事をしたりと、私たちが造成するツアーだからこそ実現できる体験を提供しています。

また、旅行代金の面でもメリットがあります。航空券とホテル、レストランを個人で全て手配するのに比べて、パッケージツアーはよりお得なケースが多いです。

さらに、移動や手配の煩わしさから解放されるのも大きな魅力です。特に海外旅行の場合、言葉の壁や現地事情の不安もありますが、パッケージツアーならそういった心配がなく、安心して旅を楽しむことができます。例えば、フランスのパリからモンサンミッシェルやニースなど少し足を伸ばすような旅程も、パッケージツアーなら効率よく回れるプランを提供できるのが強みです。さらに添乗員のサポートもあるので、安心して楽しんでいただけると思います。

 ――最後に、これから挑戦したいこと、今後の展望について教えてください!

 最近は「モノ消費」から「コト消費」へのシフトが進んでおり、その土地ならではの体験や、背景にある歴史や文化を知ることへの関心が高まっています。そういったニーズの変化を踏まえ、より深い体験型のツアーを企画していきたいと考えています。

例えば、来年の春向けには、オランダ・ベルギーの「おとぎ話のような世界」をテーマにしたツアーを企画中です。チューリップなどの花々はもちろん、絵本から飛び出したような可愛らしい街並み、運河クルーズなど、大人の方にも楽しんでいただける「おとぎの国」体験を提供したいと思っています。

個人旅行が増えるなかでも、パッケージツアーならではの魅力や利点はたくさんあります。これからも、お客様に「参加して良かった」と思っていただけるような、付加価値の高いツアー作りに挑戦し続けたいと思います。

写真:  鍵岡龍門
文:   大西マリコ
編集:  花沢亜衣