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熊本地震から5年 臨機の対応は広範な経験知・学習知から

森田康夫
国土交通省国土技術政策総合研究所
企画部長

平成28年熊本地震から5年。県民にとって念願であった国道57号現道部及び北側復旧ルート(令和2年10月3日)、国道325号新阿蘇大橋(令和3年3月7日)が開通しました。これにより、阿蘇地域の観光振興や地域住民の生活再建はもちろんのこと、熊本都市圏と阿蘇地域を結ぶ大動脈として、熊本県全体の創造的復興の核となることが期待されています。

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画像出典:国土交通省九州地方整備局熊本復興事務所(一部筆者更新)

地震発生の4ヶ月前(平成27年12月16日)、私は急遽、肥後熊本に赴任することとなり、熊本河川国道事務所長として、熊本地震を経験しました。

改めて振り返りますと、熊本地震によるインフラ被害は甚大でしたが、国土交通本省の指導のもと、九州地方整備局が局を挙げて全面的に支援してくれたおかげで、なんとか危機的な状況を乗り切ることができました。一方で、事務所スタッフの頑張りも忘れることができません。全員が「全体への奉仕という使命感」を持って、職務に精励してくれました。また、地権者の方々や関係機関の理解と協力、工事・業務受注者各位の弛まない尽力がなければ、県民の期待に応える災害復旧はできませんでした。

加えて、今回の災害復旧にあたり、私自身の勤務経験・キャリアパスの全てが大いに役立ちました。

例えば、初動対応、応急復旧~本復旧に至る現場のマネジメント。私は、「非常時モード」に入ったことを強く意識しつつ、地元建設業界の実情を十分に把握した上で、平常時の入札契約ルールに縛られること無く、臨機応変に工事・業務発注を行っていきました。ここでは、随意契約の柔軟な運用と地域JV制度の活用がカギとなりました。

ルール制定者の想定を超える局面では、その場において最良の結果を実現すべく、自らの判断力を駆使する姿勢こそが求められます。そして、この臨機応変な対応を可能とするのがそれまでの経験知です。

国道57号北側復旧ルートのうち、カギとなる工区・二重峠トンネル工事の契約にあたっては、全国で初めて「技術提案・交渉方式(ECIタイプ)」を適用しましたが、これを含め、直近5年間の国総研(建設マネジメント技術研究室)勤務経験が私を助けました。制度導入に向けての海外調査(英国ECI調査及び米国CM/GC調査)や、改正品確法に基づく技術提案・交渉方式運用ガイドラインの作成に携わってきた私が、災害復旧現場でECI方式を適用することとなったのです。当該分野の経験知を形成するにあたっては、わが国の建設マネジメント研究の第一人者である小澤一雅先生の長年にわたるご指導がありました。

今回の熊本地震対応の経験知は、後ほど検証され、災害復旧における入札契約方式適用ガイドライン(制定)や技術提案・交渉方式運用ガイドライン(改訂)に反映されています。

一方で、(一財)国土技術研究センターでの幅広い研究活動が私の心の支えとなりました。発災一ヶ月後に「私たち日本人は、此の日本という国土によって育まれてきました。此の日本列島で頻発する大規模な自然災害によって、ずっと昔から教育を受けてきました」という文面のメールを親友にあて発出した履歴が残っているのですが、そのような気持ちで復旧に対応できたのは、「国土学」の師・大石久和先生の教えによるものです。

先生からは、いろいろな物事に関心をもつこと、幅広い人間になることが大事、とも教えていただきました。古今内外の教科書研究や内村鑑三の著作、仏教本等を通して、多くの気付きや学び(=学習知)を得ました。熊本では、地震発生後およそ半年間、休日を返上することとなりましたが、それ以降は、週末に熊本県内の郷土・インフラ史跡を巡り、ブログ『熊本国土学』を更新し続けました。

われわれ土木技術者には、地域の方々に接しながら現場感覚を身につけ、地域の暮らしがより安全で快適になるよう、全人格で取り組むことが求められています。そのためには、日々誠実に経験知・学習知を積み重ねていくことが必要です。

最後にもう一言。緊迫した雰囲気に包まれた事務所防災室にあって、常日頃から「ありがとう」を口癖にする私の存在は、周囲の空気を和やかにしたようです。経験知・学習知には含まれませんが、これも現場指揮官に求められる素養の一つであるのかもしれません。

土木学会 第169回 論説・オピニオン(2021年6月版)
依頼論説

関連資料(PDF):
熊本地震を振り返って(土木学会建設マネジメント委員会 2019年度公共調達シンポジウム 基調講演資料/2019.06)
マネジメントの視点からみた,平成 28 年熊本地震からの復旧・復興〜現場の最先端から激動の 1 年を振り返る〜(建設マネジメント技術/2017.05)

※筆者推薦関連動画:

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国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/