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Beyondコロナの日本創生と土木のビッグピクチャー 第3章 ありたい未来を実現するために①

本記事は、2021年度土木学会会長特別委員会が2022年6月に公表した『Beyondコロナの日本創生と土木のビッグピクチャー~人々のWell-beingと持続可能な社会に向けて~』をnote向けに再構成して掲載したものです。提言の全文は、以下note記事よりPDFで入手いただけます。


第1節 目指す国土像

第2章では「ありたい未来の姿」を実現するため、まず具体的な第1歩として「リスク分散型社会の形成」と「共生によるWell-beingの向上」を目指すことを提案しました。そのような社会の形成を通じて地方の特色ある自立的な発展を促進し、過度の東京一極集中を是正するとともに、自然や歴史文化との協調・共生(ともいき)を尊重した新しい国土の形成を目指すことができると考えます。

特に、地方においては、生物多様性が保たれた豊かな自然、風土を活かした農林水産業の再評価、再生エネルギーの創出、医療・福祉の充実、芸術・文化との共生などを通じて「地方創生」を進め、全国津々浦々で暮らすことができる国土(分散・共生型の国土)を目指します。

第2節 土木のビッグピクチャーの政策とインフラ

第1章第1節に示したように、新しい資本主義では、成長の果実をしっかりと分配(水平展開)し、次の成長(垂直展開)に繋げるという成長戦略があります。「ありたい未来の姿」に向けて、これら両方を視野に「分散・共生型の国土の形成」を目指しつつ、「未来社会への投資」を行うことが重要です。

現状の日本の社会資本整備投資は、「防災・減災、国土強靭化」「維持管理・更新」にそれぞれ約3割の予算が充てられ、未来に対する先行投資、次世代が躍動する基盤を築くための「成長基盤整備」は約4割です。

激甚災害やインフラ老朽化などによる安全に対するリスクが高まる中、暮らしの安全確保と現状の水準を維持しつつ、未来へ負の遺産とならない様に、成長基盤への投資を確保することも求められます。その際、インフラはある程度充足しているという過去の「誤ったインフラ概成論」に対して、インフラは中長期的に活用するなら適切な更新を必要とし、また技術革新による機能強化や効率化なども常に行われることから、概成という概念が時間的に成立しないことを客観的な事実で共有し、国民の理解を得ながら「分散・共生型の国土」に向けて、国民の理解を得ながら必要なインフラによるサービス提供を続けていかなければなりません。

(1) 分散・共生型の国土の形成

① 国土強靭化

分散・共生型の国土の形成のため、国土全体で災害リスクを軽減していくための国土強靭化を全国規模で強力に進めていくことが必要です。このため、基幹となるインフラの整備を進めるとともに、ハード・ソフト合わせた総合的な災害対策を地域・住民とともに推進する必要があります。また、巨大地震等で最悪の事態が起きた場合に備え、早期の復旧・復興のためのインフラ整備を事前に取り組むことも重要です。

○ 国土強靱化のための政策・インフラの例
・安全・安心でリダンダンシーのある広域幹線交通ネットワークの全国配置(道路・鉄道・港湾・空港の強化)
・気候変動に対応した国土防護システムの構築
(インフラ整備とソフト対策
 [治水、砂防・治山、海岸防護、避難システム等])
・都市部での防災力・発災対応力の抜本的強化
 (耐震性強化、密集市街地対策、帰宅困難者対策等)
・複合・巨大災害等に備えた事前復興対策の推進
 (リダンダンシー確保のための道路・港湾等)
・福島原子力発電所被害地域の復興(帰還支援等)

② 地方創生

分散・共生型の国土が全国津々浦々に形成されていくためには、地方部が、自然や歴史文化と協調・共生しながら、活き活きと自立的に発展できることが必要です。このため、安心して快適に暮らせる基盤の拡充、共同体として地域を維持・保全していくための基盤の形成等を進め、地域のアイデンティティの確立を目指します。

とりわけ、人口減少に歯止めをかけ、地域を活性化していくためには、交通・通信・産業基盤の維持・拡充を通じて、地域経済を浮揚し雇用の場を創出することが不可欠です。

観光振興においては、単に来訪者を増やすことだけではなく、交流を通した相互理解の促進も大切です。それにより、さらなる交流人口の増加や地域産業の持続可能な発展、地域のブランド化につながります。また、コロナ後の訪日外国人の増加が期待されています。多くの外国人が地方都市にも訪れてもらえるように、個性があり、外国人にとっても魅力のある地域となるための活動を強化します。

○地方創生のための政策・インフラの例
・拠点施設の計画的配置
 (医療施設、教育施設、文化施設等)
・生活基盤や都市空間の再構築
 (市街地再生、歩行空間、自転車・モビリティ)
・公共交通ネットワーク、情報通信ネットワークの維持・拡充
 (鉄道、バス、航路、大容量通信施設)
・農林水産品の高品質化・競争力強化に資する基盤の整備
・地域観光資源の磨き上げとおもてなし文化の醸成

③ 経済安全保障

日本は、資源・エネルギー、食料の多くを海外に依存しています。これらの物資は、国民生活の維持に不可欠であり、その安定供給は、常に確保しておくべき基本的な課題です。このため、国としてこれらの自給率を向上させるとともに地産地消を促し流通の効率化を図ることが重要です。

一方、それでも不足する多くの物資については依然として輸入に頼らざるを得ません。

また、輸出についても、今日の世界経済は高度にグローバル化しており、我が国製品が世界市場で勝ち抜いていくためには、国際競争力の維持・強化が極めて重要です。このため、こうした輸出入に係る国際物流の一層の効率化による、安価で安定的なサプライチェーンの構築は必要不可欠です。これらの国内・国際物流の効率化にあたっては、物流DX技術の活用も重要となります。

また、国際化が進む環境では、多くの外国人と交流することは不可欠であり、国籍に関係なく、訪れたい、住みたいと思えるような、「安心して快適に暮らせる国、都市」へと成長・発展することが重要です。国際的な視野、多様性の観点からの投資、開発を行い、産業競争力の維持と経済安全保障の確保に努めることが重要です。

○物流・輸送に関する政策・インフラの例
・輸送効率化のための国際港湾・空港、および
 それらと繋ぐ全国広域幹線物流ネットワークの強化
 (道路・鉄道・港湾・空港)
・高効率なマルチモーダル輸送拠点の形成(交通結節点強化)
・物流MaaSの形成
(ダブル連結トラック・隊列走行、端末自動運転、トラックデータ連携等)

○エネルギーに関する政策・インフラの例
・再生可能エネルギーの拡充(水力、風力、太陽光等)
・新技術の開発・実装
 (浮体式洋上風力発電、走行中給電、原子力(次世代小型炉、核融合)
  等)

④インフラメンテナンス

分散・共生型の国土の形成を実現していくためは、インフラの新規整備のみならず、既存のインフラを最大限活用するためのインフラメンテナンスに積極的に取組むことが重要です。インフラメンテナンスの実施にあたっては、ICTやAIを活用した点検・診断を定期的に実施して維持管理を切れ目なく行うことはもとより、必要に応じ、早めの改修(いわゆる予防保全)や更新を戦略的に実施することが必要です。その際、新設時と同様の機能に回復させるだけではなく、より高い耐久性や環境性能を付加するなど、需要に応じた高質化を図ることが重要です。予防保全には、長期的な観点でライフサイクルコストの縮減の効果が期待されます。これらの実績を重ねていくことにより、インフラメンテナンス分野のイノベーションが加速化され、法制度、契約、組織・産業が変革するとともに、国民の理解促進と共生が図られます。

一方、既存インフラを補うバックアップシステムを整備し、障害発生に備えるとともに点検補修による一時休止も可能となるリダンダンシーのあるインフラシステムを構築し経済活動を止めないことも大切です。

またストック総量の削減も念頭におき、国土全体の観点から、生産拠点や居住エリアの立地適正化・コンパクト化を図っていくことも必要です。

○インフラメンテナンスに関する政策・インフラの例
・生活・交通インフラ (上下水道・無電柱化・道路・鉄道・港湾等)の
 大規模更新
・次世代点検技術の開発・普及
 (センサー、画像の活用、各種データの統合化)
リアルタイム・デジタルツインの構築
 (状況把握とシミュレーションによる予防的対応)
リダンダンシーのあるインフラシステムの構築

 ⑤ 脱炭素化(カーボンニュートラル)

現在、社会のあらゆる分野で脱炭素化(カーボンニュートラル)が要請されています。特に、インフラ政策・都市政策に関連する領域からのCO2排出量は我が国の総排出量の50%を越えます。このため、今後、再生可能エネルギーへの転換や、交通機関や製造現場の電化・水素化・CO2回収等を急速に進めていくとともに、ライフスタイルの変更等により温室効果ガス排出を抑制する社会へ転換していくことが必要です。

こうした動きに合わせ、様々な分野で技術開発が行われており、それに応じてインフラも改良していく必要があります。たとえば、再生可能エネルギーの切り札といわれる洋上風力発電では、浮体式発電方式の実用化のための技術開発が進行中であり、それに伴う港湾施設の改良が検討されています。また、近い将来予想されているグリーン燃料(水素、燃料アンモニア等)の輸入需要に応じ、ネットワークインフラの整備によるサプライチェーンの構築が不可欠となります。

このような脱炭素化に関わる革新的な技術の進歩に応じて、土木分野においても一層精力的に対応する必要があります。 

出典:土木学会誌2021年10月号
 図3.2 2050年カーボンニュートラル達成に向けた土木での取組み(提案)

(脱炭素化に関わる政策・インフラの例)
・再生可能エネルギー(水力、風力、太陽光等)の拡充[再掲]
・交通機関の脱炭素化への対応(給電システム、水素供給システム等)
・港湾および臨海部におけるゼロカーボンの実現
 (カーボンニュートラルポート)
・空港の地域エネルギー拠点化(敷地を活用した太陽光発電等)
・新技術の開発・実装
(浮体式洋上風力発電、走行中給電、原子力(次世代小型炉、核融合) 等)[再掲]

 ⑥ グリーンインフラと生物多様性

自然が持つ多様な機能を賢く利用するグリーンインフラは、防災、気候変動適応、コミュニティ形成、教育、健康、周辺への経済波及など多方面の効果が見込めます。生態学の知見も取り込み、当面の人口減少社会の中で自然環境に戻せる土地は戻しつつ、そこから多様な恩恵を受けながら, 自然環境が有する機能を引き出し、地域課題に対応していくことを通して、自然と共生する社会、持続的な国土を形成するため、施設というモノとしてのグリーンインフラと、土地利用としてのグリーンインフラを展開していく必要があります。

またグリーンインフラの展開により生物多様性の保全・再生を図ることは、食文化に代表される地域固有の生物や自然環境に起因する地域の文化の多様性、人間社会の多様性を守ることにもつながります。 

出典:グリーンインフラポータルサイト(国土交通省)
図3.3 グリーンインフラの考え方

(グリーンインフラに関わる政策・インフラの例)
・人と自然との共生(沿岸域再生、森林・里山の保全・再生等)
・「あまみず社会」(都市における土や緑の再生)の推進
・災害リスクの高い土地からの撤退や集約等で生じる余地への自然環境の再生

 ⑦ DX社会への対応

デジタル・トランスフォーメーション(DX)とは、「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」を指します。社会全体でデジタル技術を高度に活用し、サイバー空間(仮想空間)・フィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステム(サイバー・フィジカルシステム:CPS)の社会実装が進んでいる中、土木の分野においても、ICT技術の更なる進化とあわせ、構想・計画段階から、設計~構築~維持管理~更新というインフラのすべてのプロセスにおいて、DXに適応した取組みを進めていく必要があります。

特に、これまでの営みで国土に蓄積されたインフラを未来に引き継ぐメンテナンスにおいては、ICTやAIを活用した点検・診断の高度化を図るとともに、インフラの計画・設計・整備から維持管理までのデジタルデータを活用し、インフラの性能の見える化などDXを推進することで、効果的で効率的なインフラメンテナンスの環境を醸成していくことが必要です。

 (DXに関わる政策・インフラの例)
・DXを活用した移動手段・物流ネットワークの構築
・サイバー・フィジカルの融合を前提とする設計・施工・維持管理
・リアルタイム・デジタルツインの構築
・インフラにかかるデータのオープン化・プラットフォーム化とそれによる国土管理・施設管理
・スマホ等身近なICT技術等を活用した住民参加型インフラメンテナンス

(2) エリア別のイメージ

「ビッグピクチャー」は、過度な東京一極集中を解消し分散・共生型の国土と地方の特色ある自立的発展を促進するため、防災・減災、国土強靭化と地方創生の連携強化とその加速に期待するものです。特に、連携交流を促進する情報と陸海空の交通ネットワークの形成を促進するとともに地方の「地産地消」的な産業経済を維持・育成するための支援強化が求められます。

本来は、各市町村が描いた「ありたい未来の姿」をもとに国、ブロック、都道府県等との調整を図り地域の多様な連携・交流の歴史を踏まえた計画が求められます。

しかし、今回の検討では全国を俯瞰した、それぞれの圏域に関する十分な議論ができなかったため、ここでは、圏域を構成する単位を、農山漁村、地方都市、大都市圏の区分としてそれぞれの将来像・ありたい姿のイメージを描くこととしました。

① 農山漁村

農山漁村では、生活環境の維持・高度化を図るとともに、地域コミュニティを通じてお互いを支え合い、先人が守ってきた地域文化、歴史的風土、自然等と共生した暮らしが実現しています。具体的には、近接する地方都市と連絡する道路の整備・維持更新、デマンドサービスを含む地域公共交通サービスの提供、物流・生活利便施設・公共サービスを複合化した小さな生活拠点の整備が進んでいます。併せて、災害時の避難施設としても活用しうる宿泊拠点も整備され、地域防災インフラとともに、安心して安全に暮らし続けられる環境が整っています。

さらに、農山漁村は、食料生産基地の観点からも重要な役割を担っています。このため、流通を含む農林水産インフラが整備されるとともに、新世代通信技術、自動運転等の新技術を積極的に取り入れることで、農林水産業をはじめとする地域産業のイノベーション・ブランド化が図られています。

このように生活環境・産業環境の充実・高度化が図られることで、農山漁村が有する伝統文化・豊かな自然環境のもとで生活を希望する人々の転入・定住が増加しています。

② 地方都市

地方都市では、広域交通ネットワークや広域交通ターミナルの整備、地域公共交通の維持・充実、さらに交通分野のDX化が進むと同時に、高速大容量無線通信網の整備により、全国・全世界との交流・流通基盤が形成されました。この結果、地方に住みながら、大都市や海外の企業で働く機会が増えるとともに、地方が有する伝統文化、地域産業等と全国・全世界の交流により、新たな産業イノベーションが生まれ、質の高い雇用の場が形成されています。

また、地域公共交通が充実することにより、全ての若者がオンラインだけでなくフェイス・トゥ・フェイスでの質の高い教育を受けることも可能となり、地域産業や地域医療等を担う優秀な人材が育っています。若者や来街者が楽しめる文化・芸術施設、魅力的な地域共生の場が生まれ、ゆとりある居住環境や自然と触れ合える子育て環境も相まって、大都市からUターン・Iターンする若者・子育て層も増えました。その結果、世代間のバランスの取れたコミュニティが形成され、高齢者も含めた豊かな暮らしが実現しています。

さらに、巨大地震等を念頭に置いた交流・流通インフラの事前復興対策が施され、有事の際にも早期復旧・復興が可能となり、持続可能な地方経済活動を支えています。加えて、再生エネルギー技術開発のためのインフラ改良等により、エネルギーの地産地消が進み、自立した地方都市圏が形成されています。

③ 大都市圏

大都市圏は、引き続き日本の経済、技術、文化の中枢・中核を担う地域として成長しています。そこでは、高度な都市サービス(高度医療、高等教育、高質な文化・芸術・娯楽等)が提供されるとともに、周辺地域から比較的短時間でアクセスできるような幹線交通ネットワークが形成されています。また、国際ハブ港湾・空港の機能が強化され、域内交通ネットワークが拡充されたことにより、国際物流・交流が効率化し、国際競争力の維持・強化に貢献しています。さらに、これまで以上に多くの外国人が訪れ、暮らすことによって、どの国籍の人であっても、安心して、快適に暮らせるようなダイバーシティを重視した都市空間になっています。

また、大規模災害時でも住民の生命・財産を守り、かつ都市機能を維持していくため、ハード・ソフト合わせた都市防災力が抜本的に強化されました。

都市生活においても、日本を代表する都市に相応しい風格と豊かさを併せ持つ都市空間へのリノベーションにより、多様な就業形態と都市の役割の両立を模索しながら、真に豊かな生活が送れる空間に生まれ変わっています。ヒト、モノ、コトが交流・融合するクリエイティブな場として、インフラ空間を活用したサードプレイスも、人間中心の都市のアイデンティティの一つになっています。


第2章 基本的な考え方 

第3章 ありたい未来を実現するために② →


7/21に、本提言のシンポジウムをハイブリッド形式で開催いたします。zoomウェビナーでの開催ですが、YouTubeでもライブ配信します。


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公益社団法人土木学会【公式note】
国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/