転職活動・転職市場を理解する【椅子理論・転職回数・学歴・発達障害】

転職活動をこれから行う方に向けて知っておいた方が良い知識を今回は列挙してみたいと思う。
筆者は転職経験があり、実際に転職はしなかったけれども面接は受けたことは何回もあるので、それなりに転職活動に関しては詳しいと思う。
転職を行うに当たっては、いくつか知っておいた方がポイントがあるので、今回はそれを列挙する。転職に関して説明している各種媒体と似たような内容にはなってくるのでそこはご容赦頂きたい。また筆者は当然ながら転職エージェントではなく、その道のプロでもないのでその点もご理解いただきたい。
それではいくつかのポイントに絞って説明していきたい。

1.意外と聞かれない実務の細かい話
転職活動をしてまず一番驚いたのがこの部分で、職務履歴書に記載した業務内容の詳細や自分が保有している知識に関して詳しく問われたことは過去に殆どないと言ってよい。
それだと本当に職務経歴書に書いてある内容が本当かどうか分からなくない?と思ったこともあるのだが、細かい話は殆どツッコまれたことが無い。
確かにどのような仕事をしていたのか、つまり業務の種類に関しては勿論聞かれることになるのだが、その中の細かい金融の実務や詳細な知識に関しては問われたことがない。
こういった経験を経て思ったのが、採用者は思ったほど転職者の細かい知識は問うてないのではないかという事である。
これまで実技試験を課してきたのは、データサイエンティストの求人で、Pythonでのコーディングを求められたり、データアナリストの求人でSQLの記述が必要となったりと言った感じでそれ以外の金融の面接で筆記試験を課されたことは無い。そういえば、新卒就活のアクチュアリー就活では、数学の筆記試験は課されたが、アクチュアリーでさえも中途採用は実技試験のようなものはない。
結局仕事の細かい実務内容は同じポジションであっても微妙に異なっていたり、そういった実務的な知識は割とすぐにカバーできるので、転職の段階ではそこまで要求されていないのではないかと感じた次第だ。

2.転職への見られ方は男女、人種で異なる
日本では、長期雇用を前提としており、転職回数が少ない人の方が圧倒的に多い。特にこれは男性の正社員には顕著であると思う。
女性の方が保守的なのであまり転職していないように思えるが、実態はそうではなく、女性の方が転職回数が多い傾向にあるとのことだ。それは恐らく、ライフイベントとの兼ね合いも多いのではないかと思う。とにかく東京に戻りたいとか、出産・育児を見据えて少し緩めの職場に転職したいとかそういった類のものだ。現行の雇用慣行の下では、新卒プロパーでなくなると出世はかなり難しくなる。特に優良JTCではこの傾向が強い。
そのため、出世に対する社会的圧力を受けやすい男性社員は転職しない一方で、女性の場合はそこまで出世に拘っていないため、転職に踏み切れるという事情もあるだろう。出世よりもライフプランの方が重要とのことだ。筆者はこの女性の考え方には幾分賛成で、一企業の利益のために、出産適齢期にある若い女性が婚期を逃したり、出産のチャンスを逃してしまう事ほど馬鹿らしいことは無い。特にこれだけ少子化が進んでしまっているのだから、一企業の利益等よりも女性のライフプランの方が遥かに重要であると思うのだ。
筆者は男性だが、それでも適齢期の女性を地方や海外駐在に送りこむ企業ってオワッテルと思う。

話は少し逸れてしまったが、企業側もそういった事情を良く分かっているし、昨今の女性活躍推進の下ではとにかく女性の管理職を増やしたいので、女性総合職に関しては、転職に対するネガティブな見方をする人事は少ないし、どちらかと言うと目をつぶらざるを得ない。
その一方で男性の方は、やはり依然として厳しい目で見られがちである。
特にこれは日本人の男性の場合は顕著だ。外国籍の労働者も昨今では混じっているが、彼ら彼女たちは結構な回数の転職を重ねているが、それでも次も転職が決まる。それは「外国人は転職するもの」と言う意識が人事の中にもあり、転職回数が多いことがネックになりにくいのだ。
ただこれがそういった事情が無い日本人の男性社員の場合はそうはならない。転職回数が多かったり、在籍期間が短いと「変な奴かも」「また短期で辞めるのでは」と言う厳しい目線で見られてしまうのだ。
このように転職市場にもジェンダー・人種によるバイアスが存在し、一番割を食っているのは、「日本人の正社員男性」であるというのは強調しておくべきであろう。

3.思ったよりも重要な転職回数・在籍期間
先程の話と繋がるところであるが、転職回数や在籍期間は転職に当たっては極めて重要なファクターである。
椅子理論のところでも述べたが、企業への貢献度は、在籍時のパフォーマンス×在籍年数で決まる。つまりいくら在籍時のパフォーマンスが高かったとしても、長期に亘って企業に貢献してくれなければ、意味が無いのだ。

最近では優良JTCがわずかではあるが、転職市場にも門戸を開いている。
こういった企業が採用したのは、基本的に転職処女の若手もしくは、コンサルや金融専門職(特にIBD)辺りでハードスキルを身に着けた経歴がピカピカのエリートである。
処女に価値を見出す男性がいるのと同様に転職経験が無いことにも価値がある。(若手の場合)
年齢によって許容される転職回数は異なるみたいだが、20代でせいぜい1~2回、30代で2~3回と言ったところか。
在籍期間も重要である。短期離職(1年未満)は明確に経歴の傷として残ってしまい、その後のサラリーマン生活で尾を引き続けるので、それだけは回避したい方が良い。あまりにも激務な職場で体を壊すくらいなら、退職した方が良いという意見を見るが、これをするくらいなら「メンタル休職」した方が良いというのが筆者の意見である。
休職歴って実は経歴としては残らないし、告知義務もない。
唯一バレるとしたら、前年の源泉徴収の年収が異様に少なくなっているので、そこさえうまく誤魔化せるのであれば、ぶっちゃけバレないと思う。
その一方で休職期間であっても対外的な在籍期間は稼げるので、このようなハズレの職場を引いてしまった場合には、生存戦略の一つとして「戦略的休職」もありだと思うのだ。
こういった労働市場の「歪み」に多くの労働者が気づいているので、今も都内のメンタルクリニックは大繁盛しているのではないかと思う。

理想的な在籍期間は何年だろうか。
長ければ長いほど良いというのが答えになるかもしれないが、最低でも現職に3年程度はいた方が良いと思う。ミニマムは1年だ。1年未満は短期離職として扱われてしまう。
「石の上にも3年」神話は崩壊したと言われるが、それは一部のベンチャー企業や中小企業の話であって、優良JTCに転職したい場合はまだまだ根強く残っていると思われる。

まとめると日本の転職市場では、転職回数、在籍期間は極めて重要で、時にはスキルや学歴、資格と言った要素よりも重要性が高いという事は念頭に置いておいた方が良い。

4.年収は直近のものを参考に決まることが多い
年収は何で決まるだろうか。スキルだろうか経験だろうか。
半分正解で半分間違いである。
基本的に日本の労働市場慣行では、転職時の年収は、直近の年収(源泉徴収票)に記載されている金額を基に決定される。
例えばあなたの直近の年収が800万であれば、次のところは800万にお釣りを乗せた金額、例えば850万程度になることが多い。
そのため前職の基本給が高いことは、次の転職時にも有利に働くのだ。
勿論スキルが評価されて、大きく年収が上昇することもあるが、それはスキルが評価されたと言うよりかは、「スキルが評価された結果、基本給が高い優良企業に転職できた」結果として年収が上がるというパターンが殆どだ。
つまりいくらスキルがあっても、元々の給料レンジが低い企業にしか転職出来ないのであれば、年収がさして上昇することは無い。
結局ここにも椅子理論が理論的背景として強固に存在する。

5.学歴・資格の話は殆ど話題に上がらない
筆者は自分の留年歴の話をこれまでnoteで話してきたが、これを問われたのは新卒就活の時だけであり、中途では殆ど触れられたこともない。
何なら現職の場合は、採用担当者が筆者が入ってきて自分で言うまで気づいてすらいなかった。
大学名についても新卒時ほど見られている印象は受けない。
それよりは学部であったり、学生時代にどのような専攻であったかの方がよっぽど重要な気がしている。つまり「東大」はあまり効力を発揮していないが、「経済学部金融学科」と言う経歴は効力を有している気がする。
東大卒という経歴は幹部候補を見出すためのものであり、便利屋を求めている中途採用では殆ど効力を持たないのだ。これが東大卒という肩書が転職時に殆ど価値を持たない背景にある。

また資格も同様である。勿論難関資格は、一定程度評価対象になるし、そもそも資格が無いと就けないような職種も存在する。(アクチュアリーや公認会計士等)
その一方で、そこまで難易度の高くない資格は殆ど加点対象にはならない。
特に実務経験と関連性が無い場合は尚更である。
筆者は前回の記事で、資格を取ってデータサイエンティストの内定を取った話をしたが、これもどちらかと言うと業務でDX関連の経験があり、資格がその経験を裏付けることになったから内定を取れた訳であり、資格単体では殆ど意味が無かったと思う。
ある業務経験を有したいから転職活動をするのに、そもそもその業務に関連した経験がないと転職のスタート地点にすら立てないという難しさがある。

6.リファレンスチェックでは本質は分からない
最近の中途採用では、リファレンスチェックを設ける企業が増加している。
知識として一つ覚えておいて良いかもしれないが、中途採用ではバックグラウンドチェックとリファレンスチェックは異なるものであり、明確に使い分けられている。
前者はその人の経歴や犯罪歴と言ったものを、調査団体に依頼して調査してもらうプロセスを指す一方で、後者はその人のスキルや人となりを候補者が過去に一緒に働いた人物からヒヤリングするプロセスである。だいたい3人程度を候補者が選ぶことになる。
これによって一見、その候補者のことが全て明るみになりそうであるが、この「過去に一緒に働いた人物」のことを選定するのは、候補者自身であり、しかも事前に話を合わせておくことが出来るので、本質的なことは何も分からないというのが本当のところであろう。
結局採用担当者が見たいのは、その候補者に「リファレンスチェックを依頼できるほどの同僚」がいるか否かと言う事なのではないかと思う。
バックグラウンドチェックは何が行われているかよく分からないので、詳細は割愛させていただく。

7.新卒就活よりも中途採用の方が発達障害者は有利
新卒就活と中途採用では企業のリソースの割き方は明らかに異なる。
新卒就活では、インターンシップ、OB訪問、SPI、独自のテスト、グループディスカッション、何回にも亘る面接とてんこ盛りであるのだが、中途の場合は、面接もせいぜい2~3回で、インターンシップもグループディスカッションも当然存在しない。SPIすらない企業も多い。
発達障害者は、インターンシップやグループディスカッションでボロが出ることが多いので、中途採用の方が明らかに有利であると思う。
またそもそも論として、中途採用で採った社員は企業から見ると便利屋でしかないことも多いので、中途採用の方が基準がザルだったりする。
新卒就活では、超高学歴しか採用しないような優良JTCでも、中途では、よく分からない学歴の人が普通に紛れ込んでいたりする。
確かに最近では、前述したようなリファレンスチェックやバックグラウンドチェックにより発達障害者を弾こうとする企業も多いが、それでも新卒就活よりは明らかに中途の方が紛れ込みやすいというのは事実なのではないかと思う。
そもそも発達障害者ではなくとも、面接だけで人の能力を見極めるのは極めて困難であり、無能であっても中途採用の面接は何とか乗り越えることが出来たというパターンもよく聞く。まあ、これは新卒就活でもある程度同じことは言えるのではないかと思うが。

8.社格は重要
日本の雇用慣行では未だに社格は極めて重要である。
つまり大企業に行きたければ、大企業出身者が有利であるし、前職の社格が高ければ高いほど、転職時には有利である。つまり新卒の段階で、大企業に入社出来ていれば、その後の転職市場でも極めて有利なのである。
これが「最終学歴は、新卒で入社した企業」と言われる所以なのである。
背景には、やはりスキルを可視化することが極めて難しかったり、そもそも日本企業では一定程度ジョブローテーションもあるので、そもそもそこまでのスキルが必要ないという事も背景にあるだろう。
また企業規模が似通っていれば、仕事の仕方も同じと言うこともあるかもしれない。
このため転職市場では、特にスキルの無い大企業窓際の方が、ベンチャーでガッツリ経験を積んだスキルフルな中堅に勝つというシーンが往々にして見られるのである。
本当は、スキルフルな後者を評価するべきなのかもしれないが、日本ではなかなかこの慣行は崩れそうにない。
よって新卒就活では、少し無理してでも大企業に入らなければならないのである。

9.保守本流の部署での中途採用は皆無に等しい
これは以前に記載した通りで、中途採用で企業側が求めているのは、幹部候補と言うよりかは便利屋である。そのため往々にして転職者を求めているのは、社内の保守本流の王道部署と言うよりも少し変わった傍流部署だったりする。最近では特にDX関連の部署の中途採用求人が目立つ。

こちらは下記の記事に詳細に記述したので、こちらを参照されたい。

以上が筆者が見てきた現行の日本の転職市場である。
日本はあらゆる面でガラパゴスな国で、労働市場・転職市場もその例に漏れない。
足下少しづつ変化の兆しが見えつつあるが、それでも変化は緩慢である。
少しずつ日本の雇用慣行が変化し、皆が働きやすい国になればと切に願うばかりである。