東大卒の肩書は悲しいほど転職活動では意味がないという話
世間一般では東大卒は新卒段階の就職活動において有利と考えられている。
これは一定程度事実であるし、学歴だけが異なる同じ人間がいる場合には東大卒が採用されやすいだろう。
ここまでは考えてみれば当たり前の話であるし、受験勉強に加え大学時代もそれなりの強度の学習をしている東大生は評価されてしかるべしだろう(こういうことを書くと批判されてしまうかもしれないが、これくらいは許して欲しい)。
むしろ新卒就職においても最近はガクチカとかインターンの経験が重視される傾向にあるので、嘘か本当かも分からないガクチカ、実際には数ヶ月しかない留学、殆ど重要な仕事は任せられていないインターン等で、それまで十数年の受験勉強が逆転されてしまうのだからむしろ東大卒は不遇な立場にあると言えるのではないか。
最近は男女の問題もある。
女性優遇があまりにも強すぎるので、恐らく東大文系男子の就職力は早慶女子のそれと同じくらいか下手すると業界によっては劣後する可能性すらある。前の記事では一橋の女子と東大男子で同じくらいではないかと書いたが、それはむしろ東大男子を過大評価し過ぎていたような気がする。
東大文系男子の価値はひと昔前と比較すると悲しいほど低下してしまったというのが事実だろう。
ここまでは新卒就職の話であった。
今回扱いたいテ―マは、転職活動の話である。転職活動においても東大卒の肩書は強いのではないかと世間一般では考えられているかもしれないが、現実は全くもってそんなことはない。むしろ悲し過ぎるくらいに東大卒という肩書は転職活動では活きない。
更には局面によっては忌避される可能性すらあるという点を指摘したい。
それでは、東大卒という学歴と転職活動を考えてみたい。
1.転職活動は基本的にジョブ型
転職活動は、基本的にジョブ型の採用になる。
総合職のどこのポジションでも良いポテンシャル型の採用枠も東京駅付近の大企業にはあるにはあるが、採用枠が少なく、かなりのポテンシャルを要求されるため殆ど存在しないと考えて良い。
ジョブ型採用では、基本的に経験者を採用することが前提になる。未経験とある職種を1年やっていたでは、雲泥の差があるのがこのジョブ型採用の特徴である。
こんなことを言うと、そんなことはないと批判される可能性も高いが、恐らく殆どの未経験の東大卒は経験者の他大卒をいずれは追い抜ける。そもそもの基礎能力が高い上に、学習習慣が身についているからだ。恐らく筆者の仕事においても、東大の理科一類出身で東大理系入試で280点とか取れるような学生が同じ職場に来たら、きっと一年もあれば追いつかれてしまうと思う。そもそも大企業においては、ジョブローテーションが存在しており、多くは未経験の社員を他部署から引っ張ってきてそれで数か月後には戦力になっているのだから、追いつけない仕事や特定の人でないと出来ない仕事と言うのは本当に限定されていると思う。国家資格が必要な職種や理工系の職種くらいだろう。
だが転職活動ではそのようなポテンシャルというものは殆ど意味をなさない。いくら東大理系入試で280点を取れる才能があったとしても未経験の職種に就ける可能性は20代後半くらい(もしかしたら20代半ばかもしれない)までしかチャンスが無い。
このように転職活動では、基本的にまずは前職の経験が問われるので、いくら学歴が高くてもそれだけでは殆ど意味をなさないのである。
実際社会人になって思うのは、専門職やジョブ型の領域では東大卒は殆ど見ないということだ。むしろどこかの国立の理系院卒とか英語だけ出来る文系とか、そのような属性の方の方が転職活動においては強い印象さえある。
次に述べるが、東大卒は転職活動に有利な部署には配属されにくい傾向がある。
2.東大卒は転職活度に有利な部署には配属されにくい
まずそもそもある職種の市場価値という概念を考えてみたい。
大前提として市場価値には社内価値と社外価値が存在する。
勿論どちらも高い職種も存在する。ただこのような職種は本当に限定されている。その一方で①社内価値は高いが、社外では評価されない職種や②社内価値は低いものの社外価値は高い職種も存在する。当然社内外どちらでも評価されない職種も存在する。
①はその企業固有の知識が要求される職種で外の世界では汎用性の無い職種であることが多い。要求される能力の観点ではどちらかと言うと高い総合力が要求されることが多い。またこれらの職種はマネジメントや会社経営にダイレクトに結びつく職種であることが多い。
②は、専門性が高く、特殊な知見や経験が必要であるが、組織全体のマネジメントには結びつかない職種である。こちらは高い総合力と言うよりかは一点突破の能力が必要である。
データ分析の知見が豊富とか、英語がペラペラとかそのような飛び道具が要求される職種である。
筆者が見てきた限り、東大卒で最初から部門別・職種別採用で入っていない者は、①に配属されるケースが多い。色々な理由があると思うが、企業が東大卒に期待しているのは、総合力だからなのではないかと考える。企業が評価しているのは、5教科7科目の入試を突破した総合力なのである。更に言うと東大卒をバルク単位で採用出来る一部の大手企業を除いては、東大卒には「便利屋」ではなくマネジメントの方に回って欲しいのである。また本音としては、転職市場価値の高い職種に就けて転職されると困るのかもしれない。
データ分析の知見とかはむしろ東工大とか他の理系の方が得意であることも多いし、英語に関しては、東大英語を突破した東大卒であっても帰国子女には勝てない。勿論東大卒が本気になって数年かければ勝てると思うが、そこまでのコストを会社側が負担出来ないのである。
このことから、東大卒、特に文系が転職市場に出ていくと、ICUの帰国子女や受験時には格下だと思い込んでいた普通の大学の理系の情報系学部卒にすら勝てないことを知り、絶望することになるのである。
これはあくまで筆者の意見であるが、東大卒は新卒入社した会社から転職しない方が良い。
東大卒の肩書があれば、新卒入社した会社においては、一定程度までは出世出来る可能性が高い。
仕事でも別に目立った功績を残す必要はない。それよりも怖いのは、「こいつは到底マネジメントには出来ない」という烙印を押されることである。下手にそのような烙印を押されると、出世も出来ないし、専門性の無い「東大までの人」が出来上がってしまう。
まだまだ従前の雇用慣行が残る日本では中途は出世の面では圧倒的に不利だ。いくら東大卒の肩書を持っていても、そこには出世の椅子は用意されていないと考えて良い。
東大卒の場合は、「新卒入社した会社から下手に転職せず、ただ大人しく言われた仕事を淡々とこなす」これが一番出世に効く。
これは高学歴女性も同じだ。
新卒で入社した東大卒と高学歴女性には、その企業が伝統的大企業で資本集約型企業であるほど、「見えない椅子」が用意されていると考えて良い。
「何もしない」案外これが一番効くのである。
3.新卒入社した会社が最終学歴
これは良く知られている話で、筆者も従前から述べてきた話ではあるが、転職活動において最終学歴となるのは、実は卒業した大学名ではなく新卒で入社した企業名である。次に大事なのが、卒業した学部と専攻そして最後に来るのが大学名である。理系の技術職に就きたいという観点では、どれだけ東大の経済学部の方が普通の理系院卒よりも基礎的な数学能力が高くともそれは叶わない。
新卒で入社した企業名が最終学歴になってしまうので、いくら東大を出ていようと新卒就活で失敗してしまうとそこからの逆転は難しい。
なぜ新卒の一社目が最終学歴になるのかは分からないが、恐らく新卒就活でうまくいくか行かないかがその人のポテンシャルを表すと考えられているからだろう。
実際に新卒で微妙な企業に入ってしまうとその後の転職で格上の企業に行くのは想像以上に難しい。これは筆者が痛感してきたところである。
なぜ私立文系の帰国子女が行けて、東大卒の筆者が受からないのだろうかと考えてみると、結局自分が新卒で微妙な所に入ってしまったからだという結論に達した。そして就く職種次第で「経験」はますます広がってしまうので、もはや30歳を過ぎたころには到底逆転不可能になってしまっている。
4.東大卒を評価してくれるのは一部の大企業のみ
東大卒を評価してくれる企業は実は結構、限定的である。
東京駅や品川駅付近に本社を構える大企業群と官庁くらいである。
また大企業群の中でも東大卒を欲しがるのは業界一番手くらいであり、三番手くらいになると警戒感が強まってくる。
財閥系はたとえ業界二番手であっても東大卒を評価してくれることが多い。
つまり東大卒を評価してくれるのは、業界一番手と財閥系と官庁くらいと覚えておいて問題ないのではないか。
実は一番手や財閥であっても、東大卒でなければいけない理由は全く持ってない。他の大学卒であっても十分に仕事は回る。
そのため喉から手が出るほど東大卒が欲しいという訳ではなく、多くの応募者の中から優秀な人を選抜したらたまたま東大卒が残ったという程度のものに過ぎない。
また財閥系の場合は一部には学歴で、配属等が決まっているケースもあり、その場合には中途採用者にも一定程度の学歴を要求してくる。既存の社員の学歴と釣り合わなくなると、採用してもうまくいかない可能性があるからだ。
大企業に入れる可能性があるのだから、良いじゃないかという話になるかもしれないが、逆に言うと選択肢はかなり狭く、そこには優秀な東大卒も普通に受けに来るので、能力が無い東大卒は本当にどこも行き先がないという現象が生じてしまう。
話は若干変わるがコンサルは、東大卒を評価してくれる。これはクライアントに最初に出すRFPで案件メンバーの学歴や経歴を出すこともあり、高学歴の者がいればそれが顧客に対する信頼、しいてはビジネスチャンスにつながるからだ。
ただコンサルは当然実力主義の世界であるので、優良資本集約型企業のような「見えない椅子」が事前に準備されているという事は決してない点には注意が必要である。
5.下手な中小企業や地方転職では逆学歴フィルターが働く
これは上記で述べた話と似た話であるが、業界三番手以降は警戒感が強まり、それより更に下の中小企業になると東大卒はむしろ完全に色物扱いを受ける。更に地方転職では完全にアウェイである。唯一例外があるとすると地元の公立一番手を出ている場合であり、この場合は「東大」と言う学歴よりも「仙台二高」「修猷館」「岡崎」「旭丘」「札幌南」と言った学歴で評価されることになる。地元出身ではない東大卒は完全に色物扱いされる。
これがゆえに筆者は生まれの地に戻るという一見そこまでハードルが高くないことも果たせていない。
UターンやIターンは東大卒にとっては想像以上にハードルの高いものである。
結論として言えるのは、東大卒は転職活動では他の大学と変わらないと扱いと言うことだ。転職において必要なのはあくまで職歴と経験そして一部の難関資格である。
日本では未だにジョブホッパーというのはかなりネガティブな印象を持たれるが、東大卒のジョブホッパーというのは面接官から見ると印象は最悪に近い。東大卒というだけでも警戒感はあるのに、ここにジョブホッパーが加わると世間が想像する社会不適合な東大卒の姿に一致してしまうからだ。
これなら他の大学のジョブホッパーの方がむしろ印象は良い。
上記を踏まえると、東大卒には2つの生き残り戦略しかないことが分かる。
1.新卒入社した会社でジェネラリストとして出世の階段を上る
2.新卒の段階からジョブ型採用に就く
この2つしか東大卒が生き残る道はない。
結局東大卒にとっても、新卒就活は重要なのだ。他の大学と同じか、それ以上に重要かもしれない。
サラリーマンと言う選択を選んだ東大卒が守るべきは、
①なるべく転職しない
②下手に減点されない
③まずは言われたことを忠実にこなす
④辛くとも周りと協調している振りをする
ことである。これだけを守れば、東大卒であれば一致程度(勿論役員とかそのレベルではない)までは出世出来るだろう。
ただ上記のような生き方は普通に辛いし、あまりに窮屈である。
こう考えていくと人生のやり直しが効く士業の方が東大卒の肩書よりも目に見えない価値をもたらすと言えるといういつもの結論に達するのであろう。