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インストラクターの妙術②
色黒の男の次は、
「気迫」なら誰にも負けない、という大男が進み出ました。
「馬を扱うにはまずナメられないようにすること、気持ちで負けないという気迫が大切だ。
故に私は、長年その気を練る事を修行し、今その気は「闊達至剛(かったつしごう)にして天地に充(みつ)る」というほどになった。
どんな馬が相手でも、まず自分の方が強いということを知らしめるようにして、先ず心理的に上に立ち、然る後に調教に進めば、私の気迫のこもった声の響きに対して、馬が応じないということはない。
気合が入っていれば、にらみをきかせてるだけで、暴れ回る馬をおとなしくさせることさえ出来るのだ。
それなのに、今回の馬に限ってはまるでその気迫が通じず、相手が何をやってくるのか全く予測することもできないままに一方的にやられてしまった。
正に「来るに形なく、往くに迹(あと)なし」とはこのことだ。
これは一体、どういうことなのか。」
それに対して、老人は答えました。
「あなたの修練した『気』は、単に相手を威嚇するだけのハッタリに近いものだ。
それはそれで有効なものではあるが、最善のものではない。
こちらが敵を気迫で打ち破ろうとすれば、敵も同じように対抗してくるかもしれない。
相手の気迫が凄まじくて打ち破れないときはどうするのか。
自分だけが強くて、敵はすべて弱いとは限らない。
「窮鼠猫を噛む」という諺があるが、そういう時は向こうも必死だ。
生死をも忘れて向かってくるのだから、気勢のみ、力のみでは、そういう相手は屈しないだろう。」
老人は、大男のいう「気迫」というようなものに対して、
それは「気の象(かたち)」、つまり表面に現した形だけのものに過ぎず、そうしたものを恐れない相手には全く通じないこともあると説き、
『窮鼠猫を噛む』ということわざのごとく無念無想で向かってくる相手の恐ろしさを教えて諭したのでした。
大男は、馬にナメられないように、自分の方が強いことを教え込まなければならない、という気持ちから、
事あるごとに大きな声で怒鳴って馬を威圧するのが癖になっていたことに、改めて気づいたのでした。
確かに、絶対に服従させるんだ、という「気迫」が有効な場面というのもありますが、
人をまったく恐れないようなタイプの馬には無力ですし、またそうした嚇しが度を越してしまうことで馬がパニックを起こしてしまったり、窮鼠の譬えのごとく、思わぬ反撃を食らったりしてはかえって対処に困ることにもなります。
大男は、これからはいきなり「気迫」を表に出すのではなく、落ち着いた態度で馬に接することにしよう、と思い直したのでした。
つづく
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