子供の性的ないたずらに対して、まわりの大人が簡単にできる指導方法
幼稚園や小学生の子供に「クラスメイトにかんちょうする子がいる」とか、「着替えの時間にパンツ丸見えって言われるー」と相談されたら、どのように指導すれば良いかご存知ですか?
実は、私はアートと同時に日本のジェンダー問題も専門です。
先日、このテーマで、小学校の1、2年生に話をさせていただく機会を得ました。また、今月から、地元の教育委員会にも連絡をとって市内の複数の学童でも授業させてもらえることになりました。
今回は、このような子供の性的ないたずらに対して、周囲の大人が簡単に指導できる方法を、実際のクラスでの反応も交えてお伝えします。
ステップ1:プライベート・ゾーンについて教える
参考図書:いいタッチわるいタッチ
(未就学児〜小学校低学年向け)
この本は、すべての保育園、学童、小学校にあったら、と思うほど、子供に向けてわかりやすく「いいタッチ」「わるいタッチ」について教えてくれる本です。まずは、この本の朗読をすることをオススメします。
この本の6、7ページを開けてください。
このページに、大きく、プライベート・ゾーンと書き込んでください。そして、くちと、水着でかくれる場所がブライベート・ゾーンで、自分だけの大切な場所だと教えてください。また、お友達のプライベートゾーンはお友達の大切なもので、面白いからといって、触ったり、見て冷やかしたりしてはいけませんと話してください。
アメリカだと、小児科の定期検診で3、4歳の頃からプライベート・ゾーンの概念を教えています。
予防接種などで定期検診に行くとき、先生が聴診器を当てる前に、こんな風に子供に語りかけます。
子供に決定権を与えて、「いいよ」と聞いてから診察に入ります。
ステップ2:「こちょこちょは、いいタッチ?わるいタッチ?」と考えさせ「同意」を教える
さて、絵本の朗読では、子供たちは、安心できるタッチ(親からのハグや友達と握手など)は「いいタッチ」、「心が変だと思う、痛い、怖い、腹が立つ、悔しい」気持ちになるタッチは「わるいタッチ」だと学びました。
朗読のあと、子供たちにこのように聞いてみてください。
「じゃあ、かんちょうはいいタッチ?わるいタッチ?」
小学校の1、2年生のクラスでこの授業をした時は、みんなが「かんちょうはわるいタッチだと思う」と意見が一致しました。
「じゃあ、こちょこちょはいいタッチだと思う?わるいタッチだと思う?」
「こちょこちょ好きな人は手を上げて」
「こちょこちょ嫌いな人は手を上げて」
クラスでは、こちょこちょが好きな人と、嫌いな人は、半々でした。
そして、こんな風に話します。
「こちょこちょが好きな人にとっては、こちょこちょは楽しくて面白いよね。
でも、こちょこちょが好きな人が、相手も楽しいだろうと思って、こちょこちょが嫌いな人にこちょこちょをすると、された人はどんな気持ちになると思う?」
子供たちは、口々に意見を言ってくれました。
「こちょこちょが嫌いな人にとっては、わるいタッチ」
「相手がこちょこちょを好きかどうかわからない、どうしたらいい?」
「相手に聞けばいい?」
子供たちが先に答えを言ってくれました。
大切なのは、相手の体に触る時、相手に「同意」をとることです。「そうだね、こちょこちょをする前に『こちょこちょして遊ばない?』って相手に聞くのはいいアイデアだよ。」
「それで『いいね、こちょこちょ大好き!遊ぼう!』ってお友達が言ったら、遊んだらいいね。でも、それで、お友達が『こちょこちょ嫌い』って言ったらどうする?」
すると生徒たちは、「相手がいやだって言ったらやめる」
といいました。
小学校低学年では「同意」と言う言葉はちょっと難しいので、「相手も同じ気持ちかどうか聞くのが大事だよ」と言う風にいいました。
また、「昨日こちょこちょが好きだった子が、今日も好きだとは限らない。」
「気がかわってもいい」ということを、をまわりは受け入れるも大事です。
(「同意」って何? p39参照)
私が小学校でステップ1〜2まで授業をして、所要時間はだいたい20分くらいでした。そのあと、質疑応答の時間を10分くらいとって一旦終わりにしました。(質疑応答でのディスカッションはこの記事の一番下に書きました)
被害にあった子供への声かけの方法はこちら↓
ステップ3:「科学者になったつもりで聞いてね!」と自己防衛
子供たちにステップ2まで話せたら、それだけでも素晴らしいことだと思います。
こちらに、絵本の作者、安藤由紀さんが、子供たちに優しく語りかけるように、プライベートゾーンの守り方のお話をされている動画があります。さらに時間が取れたら、こちらの動画を見せて、もっと学びを深めてもうといいかもしれません。
こちらの動画では、「科学者になったつもりで聞いてね!」と語りかけながら、具体的なプライベートゾーンの名前を4つ(くち、むね、せいき、こうもん)、自己防衛の大切さと自己防衛は暴力ではないということを語っておられます。
プライベートゾーンの名前を子供に教えるのは抵抗があるという方がいらっしゃるかもしれません。
アメリカのジェンダー学を学ぶ友人が、
「小さい子供は性被害にあった時、警察や大人が話を聞こうとしても、プライベートゾーンの具体的な名前を知らないために被害を正確に報告できないことが多々あり、結果的に事件の解決に繋がらないので、子供が体の部位の名前を知っていることは大切なこと」
と言っていて、納得したことがあります。
また、性被害に遭うと、フリーズして何もできなくなってしまう生理現象が多々起こり、それは被害者のせいではなく仕方のないことですが、もし可能であれば、少しでも抵抗すると、相手がやめるケースもあるというデータがあります。なので、自己防衛を躊躇しなくていいよと語るこの動画は、子供を守る効果があると思います。
「同意」を教えるマンガ本:
世界最先端の子供を守るための教育
(小学校中学年〜大学生向け)
「性的同意」という聞きなれない言葉があります。
これは、先ほど説明した、「相手の体に触る時、相手に「同意」をとる」「相手も同じ気持ちかどうか聞く」ということです。
これは、近年、世界中で「子供に必ず教えないといけない、自分と相手を守る方法」と考えられており、幼少期から大学生、社会人へ向けて、いろいろな医療機関や教育機関が協力して「性的同意」の考えを広める努力をしています。
小学校中学年以上〜大学生は、こちらの本がオススメです。アメリカのアーティストが「同意」について子供に向けて書いたものですが、とてもわかりやすく、多くの言語に翻訳されて世界中で読まれています。
本の内容がまとまった、同じ作者によるアニメーション動画です↓
この動画を、教室で見てみるのも良さそうです。
大人向けはこちら↓
紅茶と同意
大変秀逸に性的同意について説明されています。とってもオススメです。
日本で軽く考えられている「性的ないたずら」は、
海外では「深刻な性暴力」
日本の保育園や小学校で見る光景に、かんちょうやスカートめくり、せんせいの胸を揉む、お尻や性器ののジョークを言うなどがあるかと思います。日本では、「仕方がないこと」として、その場しのぎ的に指導されているようです。
問題は、場当たり的な指導ではあまり効果がなく、中学生や高校生、大学生、大人になっても性的ないたずらをしてしまうことです。
アメリカで日本人留学生のカウンセラーをしている友人が、「日本人の男子留学生で、アメリカの高校で友達のお尻を冗談半分で触り、学校から退学されそうになったことがある。本人は「まさかこんなに大事になるとは」という感じだったそうで、日本にいる保護者に事情を説明しても『なんでお尻を触ったくらいで』と問題の深刻さを理解してもらえなかった。」と言います。
私も、ニューヨークの大学院に在学中、日本人の男子留学生が、学校の女子トイレで鏡を使って覗き見をして、即日退学になった事件がありました。
日本では「なんだ、そのくらいよくあること」で済まされているのに、アメリカでは退学処分。
どうしてでしょうか?
それは性暴力の定義が、決定的に違うからです。
ここで紹介した通り、他人のプライベートゾーンを同意なく見たり、触ることは、暴力なのです。しかし、多くの日本人は、そのことを学んできておらず、加害者に十分な指導もせず、日々多くの被害者を出し続けています。
よく、こういう話をしたら、性犯罪の件数を示して「外国の方が性暴力が多い、日本は性犯罪は少なく安全な国だ」という方が多くいらっしゃいます。
専門家の間では、性犯罪には暗数が多いと言われています。例えば、私は、東京でお風呂を覗かれた時と、下半身を露出する変質者にあった時、2回とも警察に届けましたが「パトロールを強化するので被害届は出さなくていいですよね。被害届を出すのは時間がかかって大変ですよ。」と言われて、結局、被害届を出してもらえませんでした。要するに、警察に連絡したにもかかわらず、性犯罪としてカウントされないケースです。
また、高校生の時、鹿児島県の古本屋と図書館で痴漢に遭いましたが、この件については誰にも言いませんでした。当時、性暴力について話してくれる大人は誰もおらず、誰に打ち明けていいのか全くわからなかったからです。
自分のケースだけを考えても、すでに片手で足りないほどの被害が「性犯罪」としてカウントされていません。このような膨大な数の暗数があるために、日本の性犯罪は数字上では少なく見えてしまっています。
「テレビや漫画でプライベートゾーンを見せたり笑ったりしているのはどうしたらいいですか?」
日本では、子ども向けのテレビ番組にまで、女の子の着替えやお風呂を覗くシーンや、お尻を見せて笑う場面などが放送されている状況です。
小学校の1、2年生にステップ1と2の授業をしたあと、とてもいいディスカッションの時間が取れました。
「OOくんが読んでいるコロコロコミックでは、お尻のシーンがたくさんあります。人を叩いたりするシーンもあります。」
「クレヨンしんちゃんや、おしり探偵も、おしりを笑うシーンがある」
「テレビや漫画で、プライベートゾーンを見せたり笑ったりしているのはどうしたらいいですか?」
子供たちが社会に問題提起をしてくれています。
本当に、日本中の大人に聞かせてあげたいディスカッションでした。私はこう言いました。
「そういうテレビ番組や漫画はよくないと思う。すべての人のプライベートゾーンは大切なもので、笑うためのものじゃない。プライベートゾーンを笑われた人は、心が悲しくなります。
テレビ番組や漫画を作っている大人に、そういうのはよくないからやめてくださいと伝えたいです。そういう時に、実際に作った人にお手紙を書いたこともあるよ。」
すると、別の生徒からこういう意見も出てきました。
「そういう漫画だとわかったら、読まないようにする。」
なので、こう答えました。
「そうだね、自分がみたいもの、読みたいものを選ぶ、というのはあなたの力になります。選ぶ力です。選ぶ力を使うのはいいアイデアです。
みんなが、プライベートゾーンを笑う漫画なんていやだと思って選ばなくなったら、漫画を作っている会社は、こんな漫画はもう売れないから作らないようにしよう、となるかもしれません。」
日本の人気アニメ「ドラえもん」ですら、アメリカはそのまま放送できず、修正が入ります。しずかちゃんの入浴シーンをカットして、スカートめくりやげんこつのシーンをカットして、、、。
日本社会は、どうして明らかな暴力を、まだ判断力のない低年齢の子供に見せようとするのでしょうか?
日本の大人全員が責任を持って声を上げ、小学生を悩ませるような性的または暴力的な表現は、テレビ局や出版社にやめさせるべきだと思います。
繰り返し、みんなで同じメッセージを教えることが大事
息子が通っていたアメリカの幼稚園や小学校で性的ないたずらをほとんど見ることがありません。おそらくそれは、物心ついた時から、病院での定期検診のたびにプライベートゾーンについて教わり、家庭でも学校でもそのメッセージを繰り返し、メディアでも性的ないたずらのシーンを見ることがないからかもしれません。
息子が幼稚園の時、一度だけ4歳の息子と友達の女の子が、校庭の土管の中で、シャツを脱いで見せ合いっこをしていたということがありました。
園の先生には「この年齢の子供は好奇心からこういうことをすることがあるけれど、プライベートゾーンは人とシェアしないように教えます、ご家庭でもそう指導してください」と言われました。家庭と園で指導した結果、それ以降はその問題は起こらなくなりました。
また、かんちょうや、おしりを笑うなど、一度本人が面白いと思った行動を一回の授業で止めるのは難しいものです。
性的ないたずらではないですが、息子がアメリカの学校で友達から意地悪をされた時、学校、学童、保護者とで、情報と対策を共有して一丸となって取り組みました。
注意すると、一旦よくなるけれど、また繰り返す意地悪。
でもその度に、根気よく、家庭、学校、学童で意地悪をする子に指導を続けると同時に、被害者の息子には「何かあったらすぐに大人に言うように」とすぐ報告をするトレーニングをさせました。
すると、問題は数ヶ月で解決し、子供たちは再び仲良くなりました。こういうことは、社会全体で取り組まないといけないのだなと学びました。
根気強く、みんなで被害者を生まない社会を作れたらと思います。
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