見出し画像

スズキ トモ氏講演 「新しい資本主義」DS経営のアカウンティング~令和版所得倍増計画を目指して~」から考えたこと

こんにちは。日本生産性本部事務局の松沢です。
本日は、トップエグゼクティブ朝食会 スズキ トモ氏の講演について
考えたことを書いていきます。―――――――――――――――――――――――――――――
本ポストは、なかなか招聘できないゲストによる、大変貴重な講演を「勉強会の1コマとして終わらせるだけではもったいない!」と感じ、事務局(松沢)が講演内容から考えたことをお伝えします。―――――――――――――――――――――――――――――

スズキ トモ氏のご紹介

講演会の企画を練っていた頃、神奈川県生産性本部にてスズキ氏がご登壇されたとの噂を聞きつけた。

公益資本主義に代表される新しい資本主義の考え方をトップエグゼクティブ朝食会で取り上げた際、参加されている経営者層の方々は興味深く聴かれていたのを見て、経営のトレンドの一つと認識した 。また、日本生産性本部も公益事業に取り組んでいることもあり、すぐに連絡をとったところ、登壇をご快諾くださった。

スズキ トモ氏のプロフィールページを拝見するとオックスフォード大学で20年程教官を務められ、2017年に帰国されて早稲田大学商学学術院 商学部教授(現職)に着任された。
プロフィールページからは、論文や書籍はもちろんのこと、他の研究者と違って、自身の考えを広く世間に知ってもらいたい、日本を良くしたいという意思を強く感じる。

今回の講演もまさにその思いが強く伝わる講演であった。

失われた30年と株主第一主義

日本では約30年間、企業の売上高、従業員給与、設備投資等はほとんど伸びていない。
一方で、株主への還元(配当+自社株買い)は約30年間右肩上がりで伸びている。

企業は赤字でも配当を出し、利益は株主への還元を第一に考える(「利益」は、法的に「株主に帰属する付加価値」であるため、従業員や事業への再投資を犠牲にして株主への付加価値が優先されることになる)。
これまで、日本企業はこのような経営を行ってきた。

DS経営

スズキ氏は、この株主第一主義の経営をやめ、DS経営(Distribution Statement:付加価値分配計算書)を実行していくべきだと主張する。

DS経営を私なりに理解した内容は以下だ。
DS経営とは、DS:付加価値分配計算書*を基に経営を実行する、つまり、ステークホルダーへの付加価値の「分配率」を基に経営をすることだ。

*付加価値分配計算書はスズキ トモ氏が独自に提案するPL(損益計算書)に代わる経営状況・業績を把握するための計算書類のこと

具体的には、①株主への配当率(配当額)をまず決め、その剰余金を②役員、③従業員へ分配したうえで、④R&Dへ充てるほか、資産形成分として従業員による長期貸付や従業員持ち株制度を活用する。

このように「付加価値の分配」を起点に考えるため、DS:Distribution Statementとなる。

スズキ氏のシミュレーションでは、株主への配当を現在からたった1%下げ、上記のように分配をすることで、役員・従業員の給与が大幅に上がる。さらに、役員・従業員の所得も増えることで政府への税金も増える。

加えて、従業員持株制度を利用すれば従業員が自分の会社の株主となるため、モニタリングやガバナンス機能も利き、従業員のモチベーションも上がる。

このような分配で批判の声が上がりそうなのは投資家側だが、投資家への講演でも好評で、適切な市場環境で適切な投資をしたい人が多いとのことであった。

講演から私が考えたこと


さて、この講演から私が考えたことは2つだ
①  非常に素晴らしい考え方だが、なぜ今まで実践できなかったのか(経営者も赤字で配当はしたくない、他に分配したいと考えないはずがないのでは)。実践できる方法はないか。
②  投資目的でしか会社を見ていない投資家にどう対応するか。

①なぜ今まで実践ができないのか、実践できる方法はないか

実践できない理由は、株式会社制度における代表取締役の立場が関係していると思われる。
代表取締役は株主からお金を預かって経営を任されている立場であり、会社の価値を下げるような判断は簡単にできない。

DS経営を実践する場合、これまで株主の配当であった付加価値を他のステークホルダーに分配するため、株主自身の投資への見返りは減ることになる。その結果、DS経営を発表した時点で投資対象から外れやすくなり、株価は下がることが見込まれる。
また、著しく会社の価値を下げる判断をするような代表取締役は交代させられる可能性も高い。このような理由から簡単には実践ができないと考える。

では、実践できる方法はないのか。

これは、「代表取締役交代のタイミング」であれば可能ではないかと考える。

取締役を選任するのは株主だが、その取締役で構成される取締役会から選ばれた代表取締役がDS経営の実践を公言している場合には、株主にも納得性があるのではないか。

つまり、「今まで問題なく経営していた代表取締役が急に方針を転換し、会社の価値を下げる判断をした」のか「自身が選んだ取締役が、会社の価値を下げる判断をするという経営方針を掲げた人物を代表取締役に選んだ」かでは、後者であれば実践の可能性があるのではないか。

※スズキ氏によれば、DS経営の実践は、株主から見れば会社の価値を下げる判断だが、長期的に見れば付加価値は向上するとのことだった。

現在、DS経営を実践しているユニリーバも社長交代のタイミングでDS経営の方針を打ち出したとのことであった。

②    投資目的のみで判断している投資家にいかに対応するか

投資先の会社のことを考えた判断をする投資家には、DS経営は受け入れられるとスズキ氏も仰っていた。一方で、単純な利益目的でしか会社を見ていない投資家にも通用するか疑問に思う。

多様な投資家からの理解をいかに得るか、そして、DS経営が長期的には企業価値向上につながり、投資家にも還元される風潮が広がるかが今後のキーになるのではないだろうか。


トップ・エグゼクティブ朝食会 | 研修・セミナー | 公益財団法人日本生産性本部 (jpc-net.jp)

いいなと思ったら応援しよう!