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Do not die. you are not alone. http://bookreview-jp.jugem.jp

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最近の記事

妄想の(妄想 森鴎外)日─

“冷静に、と言っても、自分は道角、辻に立っていても、たびたび帽子を脱いで挨拶した。昔の人にも、今の人にも、敬意を表す人が大勢いた。  しかし辻から離れて、その人を尾行して行こうとは思わなかった。多くの師には合ったが、そういう師は合わなかった。” “自分のために、他人に毒薬と短刀を用いることを良しとする。こんな暴君の道徳の典型など、真面目に受け取るわけにはいかない。その上「し」の細かい倫理説を唱えられて、我々は評価の革新への新しさを殺されてしまった。”  目の前には広い海が

    • so sad(佐渡 太宰治)

       新潟出帆。午後二時。  何しに佐渡へなど行く。十一月十七日。雨が降っている。私は紺の着物、袴、安下駄をはいて甲板に立っていた。船は信濃川を下る。川岸に並ぶ倉庫は、つぎつぎ私を見送る。これから日本海に出る。港を見捨て、白い毛布にくるまって寝た。船酔いしないよう神に念じた。  何しに佐渡へなど行くのだろう。昨日、新潟の高校で下手な講演をした。その翌日、この船に乗った。佐渡は淋しいところだと聞いている。前から、気になっていた。心に余裕が出来たら関西をまわりたい。いまは地獄が気にか

      • 芥川を殺した盆暗へ(如是我聞 太宰治)

         他人を攻撃したってつまらない。攻撃すべきはあの者たちの神だ。敵の神をこそ撃つべきだ。でも撃つにはまず、敵の神を発見しなくてはならない。  その醜さを、自分でいわゆる「恐縮」して書いているのなら、面白い読み物にでもなるだろう。しかし、それ自身が殉教者みたいに、妙に気取って書いていて、その苦しさに襟を正す読者もいるとか聞いて、その馬鹿らしさには、あきれ果てる。  はりきってものを言うということは無神経の証拠であって、かつ、人の神経を全く問題にしていない状態を指す。はりきって

        • ニセモノ(二つの手紙 芥川龍之介)

          ニセモノ(二つの手紙 芥川龍之介)  二つの手紙を手に入れた。一つは今年2月中旬、もう一つは3月上旬、──警察署長に送られたものだ。今から説明する。      第一の手紙  ──警察署長様、まず何より先に、私の精神状態は良いと信じて下さい。神や仏、神聖な全てに誓います。なので、どうか私の精神に異常がないと信じてください。そうしないと、この手紙が無意味になります。私は何に苦しんで、こんなに長い手紙を書くのでしょう。  私は切羽詰まっています。なので決心しました。  書いた

          勘仏陀(蜘蛛の糸 芥川龍之介)

          勘仏陀(蜘蛛の糸 芥川龍之介)  ある日、釈迦は極楽の蓮池の縁を歩いていました。池に咲く蓮の花からは好い匂いが溢れています。極楽は朝です。  釈迦は立ち止まり、水面を覆う蓮の葉の間から、下の様子を見ました。透明な池の底からは、地獄の底の景色が見えます。  すると地獄の底に、勘仏陀という男がうごめいている姿が眼に止まりました。この勘仏陀という男は、人を殺したり家に火をつけたり、折伏とか仏罰とか地獄と称して色々と悪事を働いた大泥坊主です。それでもたったひとつ、善い事をしました。

          勘仏陀(蜘蛛の糸 芥川龍之介)

          芥川龙之介 自杀(或旧友へ送る手記 芥川龍之介)

          芥川龙之介 自杀 (或旧友へ送る手記 芥川龍之介)  誰もまだ、「自殺者が、なぜ自殺するのか」を、まともに発表できていない。  自殺者や世の中は「自殺者に対する興味」が不足している。僕は、君に送るこの「最後の手紙」で、はっきりと、自殺者が自殺する理由を伝える。  と言うのも、僕が自殺する理由は、別に君に言う必要はない。「蓮華」は短い話の中で、ある自殺者を頭の中に思い描いて話す。話を聞く方は、なぜ自殺を勧められているように聞こえるのか解らない。  新聞を読むと自殺者の記事が

          芥川龙之介 自杀(或旧友へ送る手記 芥川龍之介)

          許さない世界(芥川の事ども 菊池寛)

           ──芥川の死については、色々な事が書けそうで、書き出してみると何も書けない。書けば書くほど、死にはつながらない。当たり前の生活の事ばかりだ。  死んだ理由について、我々もはっきりとしたことは何もわからない。でもわかっている。わからないのではなく、世の中の人を納得させるに足りる、決定的な、具体的な原因は無い、と言うのが本当だろう。結局、一言で言わせると、重要な原因は「ボンヤリした不安」としか言いようがない。  二、三年の疲労、わずらわしい世俗的な宗教からの苦労、あんなものが

          許さない世界(芥川の事ども 菊池寛)