GOD JAZZ TIME (DVD,2002)/ミッシェルガンエレファント
はやく大きくなってミッシェルガンエレファントになりたい。黒づくめのスーツで黒いサングラスで黒のショートボブかオールバックか時には突然キンパツにしてがりがりに痩せてみたい。アベみたいに187cmの体躯でギターを小脇に抱えたり、チバみたいにガラガラの声とマラカスとタンバリンでフロアを沸かせたり、クハラみたいに投げキッスをしまくり、キューちゃんのようにどんなにメンバーが暴れてもゆるがない端正なドラムの音を響かせたりしたい。
ミッシェルガンエレファントは2003年に解散し、アベフトシは2009年に亡くなっている。おれは2018年の秋に突然ミッシェルガンエレファントを理解した。あまりにも遅れてきたロッカーだ。さいわいにしてほぼすべての音源はApple Musicに存在するが、映像と写真は中古のディーブイディや古本の写真集を買い集めるよりほかない。中古市場をにらみながらおこづかいと相談してミッシェルガンエレファントのブツを入手し、家でニヤニヤ眺めてよろこぶ日々だ。
おれは今回GOD JAZZ TIMEを手に入れた。これはロデオ・タンデム・ビート・スペクターの頃のツアーのライブ映像とクリップビデオを、作品や歌詞の世界観をあらわすらしきショートムービーでつなげたようなビデオだ。昔はコンセプト・ビデオというのか、ライブ映像やクリップに独自の映像をくっつけたやつを出してるバンドがけっこうあって、ラルクアンシエルあたりはそれが妙にシュールで笑える感じの作りにカルトっぽいファンを生んでいたが、今でもこういうのがあるのかは知らない。
ミッシェルのライブは猛烈にかっこいい。おれはこのビデオを手に入れるまでは解散ライブのDVDしか持っておらず、ミッシェルを見たい時はかならず解散のようすを見ることになって大変せつない思いをしていたのだが、今回やっと最後に解散しないミッシェルライブを楽しむことができた。とにかく冒頭からキューちゃんのドラムがメチャクチャかっこいい。キューちゃんはパンクな見た目に反してとても美しい端正なプレイスタイルで、荒々しいイメージのバンドの中で「品の良さ」を担当していると思う。そこが最高にあらわれているのが見られて大変よい。チバのかっこよさはすさまじく、1曲歌うだけで海難事故みたいにビチャビチャに濡れた髪が束になったのをかきむしって歌う姿は真の男、おれたちが目指すべきはここなのだとしかいいようがない。チバ33〜34歳くらいのころで、この時期が個人的には最高にあこがれる。このチバが好きなあまり、今の51歳のチバユウスケのことをどう思っていいのかわからなくなり混乱してしまう。今のチバは今のチバでゲキシブおじいちゃん(51)となっており相当かっこいいのだが、おれが今なりたいのは33歳のチバなので、でもあのチバの18年後がこのチバ…ユウちゃん…タンバリン…クリームソーダ…パンケーキ……
とくによかったのはやはりタイトルにもなったゴッド・ジャズ・タイム(ゴッド・ジャズ・タイムってなに?とか聞くな)だが、最後に収録された世界の終わりがまた良い。世界の終わりは太宰みたいなデビュー曲だが、ふしぎとミッシェルのすべての要素が詰まっており、晩期ミッシェルが演奏してもぜんぜん浮かず、それどころかバンドの成熟を観客に提示できている。くるりなら東京をやると現在のくるりの状態がわかるとか、ACIDMANならyour songをやるとかならず観客が最高のテンションになるとかの、そういう曲だ。これが最後に入っているのがすばらしいなと思う。
ちなみにこのビデオと一緒に解散ツアーの写真集も届いた。バカでかい箱で来たので過剰梱包なのだと思って開けたら写真集そのものがタタミ半畳はあろうかというバカでかいブツだった。とりあえず到着初日はこのビデオを見た余韻で胸がいっぱいで写真集を見る余力がなかったが、バカでかいかつ特殊なやわらかい紙での製本なので本棚などにおさまらず、結局枕元に平らに置いていっしょに寝た。おれは子供の頃から気に入った大切な本といっしょに寝るくせがあるのが33歳になっても抜けない。はやく大きくなってミッシェルガンエレファントになりたい。