archive01 死の床

川口有美子さんの『逝かない身体』を読んだ。
以前、立教大学で行われたイベントに参加したときから、ALSやブレインマシンに興味を持ったのでずっと読みたいと思っていたが、読むのが随分遅れてしまった。
本書の中に、著者の川口有美子さんがALSになった母親について話した際の、聞きての立岩真也さんの台詞が紹介されている箇所がある。

「どうしたらよいのかわからない。でも、死なせるようなことではないと思う。もし自分がロックトインしてしまったら、一日中CDを聞かせてもらうかな。あらかじめ千枚ほど好きなCDを選んで、順番に毎日聞かせてもらうということもできるんじゃないかな。だって、耳は聴こえているんだよね」

川口有美子『逝かない身体』(P.196)

川口さんは始め「勝手なことばかりを言う人だ」と呆れてしまったらしいが、後に「立岩先生さんの楽観的な考え方にいつの間にか癒されて、余分な力が抜けていくのがわかった」という。
ユーモアのもたらす癒しや治療の効果も個人的に興味深いテーマだが、身体が動かせず閉じ込められた状態でも音楽を楽しむことができるという立岩真也さんの楽観的な台詞がとりわけ印象に残った。
人間は死ぬ間際でも聴力は最後まで残るという。
音楽を聴き始めてからリスナーとして長い間、バックカタログを埋めたり中古CDショツプやタワーレコードやHMVに通っていたのは、死の床に伏したときに聴く音楽を探していたからかもしれない。

(2012.03.06)

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