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僕の神様(ともだち)

僕の友達には神様がいる。
彼は誰にも見られていない。
でも彼はよく人のことを見ている。
「人間はよく考えているね」
おとぼけて彼は言った。
「貴方には人間が珍しいかい?」
「それはそうだよ」

彼は続けて、
「僕には分からない。
誰かと自分を比べることも
どれか一つの愛を選ぶのも
倫理や法律だって人間次第
暴力も卑怯も損得も尊敬も
誰だって間違いがある癖に
そんな言葉で括るなよ」と

「そりゃそうか貴方にも
人間が分からないなんて
なんたる皮肉ですか」
突き放すように言ってみると
冷や汗をかきつつも彼はゆっくり
「そりゃそうだ人間なんて
僕の想像を超えたんだから
いつだって、そう、世界だってそうだ
誰かの悲しみさえ拾えない癖に
主語をでかくして偉そうに
歯に衣着せてばっかで
本心なんてどこにあるんだ
ついてきた嘘さえ覚えてない癖に
簡単なことさえ知らないふりで
紛れもなく自分のことばかりを
愛して止まないそんなお前らの
祈る姿は滑稽です」と
減らず口に飽きても彼は
どうやら文句が溜まっていたようで
あまつさえ寒い日だったもので
唇の切れるまで小言を言ってました
いかんせん僕も人間ですから
こうして言われると言い返したくもなり
しかしどうせまた明日になれば
忘れてしまうんだこんなこと
そんな風に思えてもきたので
だからわざと遠くを見つめて
黙っているのでした。

「こんな私だってきっとまだ
希望や夢を胸に抱き
愛して止まない人と一緒に
近くのコンビニに走ってみたり
世界の裏で起こる戦争なんかに
少しだけ思いを寄せながら
それでも変わらぬ明日に狼狽えながら
こうして黙って何も言えないまま
ずっと息を吸っていたい。
誰かに追い抜かれる悲しみや
誰かを追い越す葛藤を
人間としての恥や矛盾が
きっと正解だと信じながら」

気づくと口に出ていた言葉
友達は気づくと泣いていた
なんだい同情かい、やめろよそんなの
彼は唇から血を流して
遠くを見ていた僕に近づき
髪を撫でて言いました

「ありがとう、こんなに心から
言ってくれたのは君だけだ
そうかいそれは良かったよ
でもごめんね、やっぱり僕は
人間が分からないんだ」

そんなもんさと笑った僕
気づいたら朝になっていて
布団から出て目を擦ると
暖かいものが触れました
カーテンの向こうに太陽の影
どうせ渇くさこんなもの
もうすぐ世界の終わりだもの
ここでどんなことしようと
いつかは生も終わりに至る
友達はそれを見て何と言うんだろう
僕のために泣いてくれるか?
なあ、友達
君がいるから
なあ、友達
僕らがいるから
なあ、友達
成り立っているんじゃないか
なぁ、友達
ここでもう一度
なあ、神様
生きることにしてみたよ

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