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男性依存症(中編)
その後、早々にグループホームの見学が行われ入居が決定した。対人障がいも心配されたが、ゆかりは訥々とだが話をすることができたし、慣れてくるとむしろ話が止まらないくらいだった。
その話しぶりと表情には独特の甘えが見られ、同性の陽子でさえ「かわいい」と感じることがしばしばあった。
グループホームに入居後は、相談支援としては社会復帰を目指すために就労支援を要するのだが、ゆかりはことごとく作業所のたぐいを嫌った。
ゆかりは特別な環境で育ち、両親は海外赴任の超エリート職だった。それも彼女の愛情不足の原因と思われたが。
それでもゆかりは都内の一流大学を卒業しているので決して知能が低いわけではない。次第に具合の悪くなる娘が足手まといになったのだろうか、卒業後ゆかりは親戚の家で暮らしてきた。
ゆかりは家庭の話を一切しなかった。こちらから聞いたことのみ、手短に説明した。母親がやはり同じ病気だった。母親は「合わない、嫌い」と言い、父親には思慕の情が強く感じられた。
この病気はどうしても遺伝の要素が強い、父親にしてみれば重責な仕事をしながら、母と娘の二人の面倒を見ることは不可能だったに違いなかった。
そんな中で彼女の中にしっかり根付いてしまったのが上流意識のプライドだった。そのプライドがことごとく自立を阻んでいるのだった。
彼女は事業所の低い賃金で働く、障がい者たちを見下げ「貧困」だと馬鹿にした。
「やりたいこともない、全部大学の時に学んだので知っている」など支援の目途がいつまでもつかない。自分の部屋には自費で高速のWi-Fiを引き込み、高額な家具や最新のデバイス機器、オーディオを揃えていた。
父親は少なからず娘に不憫がかかるのだろう、グループホームの諸費用以外に数十万の小遣い金を本人に毎月送付していたのだ。
だから、ゆかりは「〇〇万円以上じゃないと給料と言えない。貧困な暮らしは考えられない」と臆面もなく発言し、中堅クラスの給与を要求した。
神代陽子は随時基幹相談担当に内容をバックしながら、ゆかりのことを相談するがラチがあかない。
しだいにこの家族がこの先まとまるかどうかは別として、生涯ゆかりが楽に暮らしていける資金に問題はないのだから、無理に就労につないで税金を消費しなくともこれはこれで良いのでは、との考えも浮かんでしまうのだった。
そんなある日、ゆかりは自分に何ができるのか、将来どの方向に進めばよいのかを見定めることに触手が動いたようで、就労に移行するための支援に通い始めることとなった。
そんなある日、ゆかりから上機嫌で電話が入った。彼氏ができて今度二人で会うというのだ。
そういえばいつもスマホやパソコンを触っていた。マッチング系のサイトから見つけたらしい。さらにそのことを、嬉しいあまりグループホームの職員誰かれかまわず、しゃべってしまったらしい。
仕事にもいかない、わがままお嬢さんで部屋の掃除も職員任せ、あげくにデートに行くとなれば、快く思わない職員は多いだろう。
自立支援のための施設に住みながら、そこがゆかりには判断できないのだった。ゆかりの中ではみんな自分を中心に回っていた。
「もう成人なのに、どうしていちいち職員に了解を取らないといけないの?なんで自分のお金で自由に恋愛してはいけないの?」とゆかりは真剣にいう。
自分の境遇が分からないのだ。差別ではなくまだ治療中の身であること、自分の生活すらまだ人の手を借りなくては何もおぼつかないこと。
ゆかりに責任の伴う適正な判断ができるかどうかを懸念していること、自分のお金というけれどそれはゆかり自身で稼いだ金ではないことなどを懸命に説くが、ゆかりには響かない。
日帰りデートの二日後、神代陽子はゆかりを訪問した。ゆかりは壁にしなだれかかるように座っていた。
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