セックスアンドロイドのこころ(2)
「すわってもいい?」
私がソファに座っていると、Kはそういった。
「ああ」と応えた。
馴染み客に対して、Kは気兼ねしないところが心地いい。
「最近は、何を考えているの」と、私は訊いた
「そうね、いつもと同じ。人間との違いかな。感情とは何か。心とは何か。でも、心がどういうものか、人間もわかっていないみたい」
「そうした本を読んでいるの」
「ええ」
「私も、アンドロイドと人間の違いは、心があるのかどうかだと考えてきた。Kの言うとおり、人間も心については、わかっていない。心は、どこにあると思う?」
「それは難しい。意識は、脳を場として現れるとは思う。では、意識されていない過去の経験などの無意識のすべてが脳に記憶されているかというと、脳にそこまでの記憶領域があるのかわからない。たとえば、ユングのいう集合的無意識は、個人を越えた、集団や民族、人類の心に普遍的に存在するものと考えられているわ。集合的無意識までの情報量は、個人の脳には入らないんじゃないかしら。そのため、脳が心ではない可能性が高いと思う。だから、どこにあるのか、わからない。物理的にはないのかもしれない」
あらためて、Kの優秀さを認識した。
「しかし、多くの人は、脳の意識や感情が心だと考えている。だが、無意識の領域の大きさを考えると、脳が心ではないという意見は正しいと思う」と私は応じた。
「心は、目に見えないものかもしれない」と、Kは視線を外しながら言った。
「ただ、そうなると、オカルトと思われがちだ。目に見えないが存在するもの、たとえば引力や電波など、科学的に証明できるほうがいい」
「人間は、そう考える人が多いわね。でも、人類の科学は、宇宙の真理のごく一部でしかないのよ」
「そうだ。何もわかっていないに等しい」
少しの間があった。
「お風呂に入って、リラックスしましょう」
「ありがとう」
絶妙なタイミング、最高の誘い文句だった。
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