ドラマ「何かおかしい2」花岡さんの人間性について考察・分析(後編)

前編がこちら↓

主に花岡さんの暴露チャンネルについて書いています。

中編がこちら↓

ドラマ本編2話〜9話の花岡さんの行動を追っています。

続きです。


⑤第11話「人探し」

上村さん・内山さん・田島さんの連合軍に花岡さんが出し抜かれる回。

ラストシーンで上村さんが内山さんに「花岡さんはぼくのことを舐めているから扱いやすい」と語っています。実際、花岡さんは上村さんへだいぶ砕けた態度ですし、マリアさんの過去の暴露も含めて上村さんに謀られたと気づいていません。

上村さんが何か大きな計画を持っていること、花岡さん自身もターゲットたりうると花岡さんは知っているはず(中編記事参照)。それなのになぜ上村さんを甘く見ているのでしょう。

ポイントは立場・目的・協力者。

一つ目。上村さんにはサイバーネットジャパンの社員でプロデューサーという社会的立場があります。一般に社会的地位が高くなるほど、喪失のダメージが大きくなるため行動の自由度は下がります。

しかし上村さんは目的達成のために権力を必要としましたが、復讐を完遂できるなら自分の身すらどうなろうと構わなかった。肩書きは上村さんにとって何の抑止力にもなりませんでした。

花岡さんのバックには何もついていませんが、自身の運営するチャンネルがあり、チャンネル登録者や有料サロン会員やフォロワーなども大勢おり、ネット上では立場あるいは失うものがありました。だから行動に一定の制限がかかる。

二つ目。上村さんには「スピリチュアルな時間ですよ」関係者への復讐という大きな目標があります。最終話ではそのために生きてきたとまで述懐しています。だからこそ上村さんは煩雑な手数を踏んだり、倫理規範を超えたり、ハードスケジュールをこなしたりできた。

花岡さんは単に快楽主義的な面白さの追求で日々を過ごしています。目先の出来事を最大限に堪能することこそ信条であり、未来の展望や大目標などはありません。ただ楽しみたいだけなので、面倒な仕込みはおろそかに、行動は拙速になりがち。

三つ目。上村さんには内山さんや田島さんや復讐の協力者(千里眼ヒーラー麻里子さん、梶川さん、キッチンゆめまぼろし店主 .etc…)など信頼できる仲間がいました。

事実、美人局3人組へのガセネタ仕込みを田島さんにやらせたり、お化け屋敷企画の提案と進行を小野寺さんに任せたり、重要かつ実行者に直接の利益のない仕事を他の人に頼んでいます。これらの行為により田島さんや小野寺さんに特に利益は生まれません。上村さんとの信頼関係あってこそ成り立つことです。

花岡さんにもネタの提供者やオビナマ内の暴露協力者(高宮エリカさん、京極マリアさん)などがいます。しかし花岡さんは面白さのため、協力者はその人なりの目的のために動いており、利害の一致に留まっています。

協力者との分業具合についても上村さんに劣ります。10話の謙信君による暴露は最後の最後の部分だけで、その手前の病んでるズ紹介やShine Chatへの招待や京極晴人さんの追い詰めは花岡さんがやっています。11話の力也さんの行き過ぎた生徒指導ネタも美人局3人組を暴露の場に呼ばず、一人でネタを披露しています。

花岡さんは肩書きで安易に上村さんを判断し、上村さんの凄まじい執念を見落とし、仲間の重要性を軽んじた。ゆえに上村さんを甘くみて、しっぺ返しを食うことになったのではないでしょうか。

何が花岡さんの目を曇らせたのか。それは花岡さんにあって上村さんにないもの。旧オビナマの記憶と、己の能力への過信に他なりません。

旧オビナマでの出来事は全てゲストやリスナーたちの手によるもの。つまり番組関係者は被害者。この構図が刷り込まれていたからこそ、花岡さんは協力者こそ主体的に動いており、上村さんも翻弄されていると思い込んでいたのではないでしょうか。

上村さん自身が協力者たちとの繋がりを巧妙に隠していた面もあります。重要な局面を協力者の手に委ねることで、自身が表に出ることも防ぎました。恨みの対象全員に制裁を加えるまで、邪魔されたくないですからね。

さらに花岡さんには呪い騒動を乗り越えた(?)成功体験があります。前シーズンの最終話で隅の婆様に託けた個人情報流出ラッシュの中、花岡さんは平然としていました。呪いなんて人生でそうそう体験できませんし、住所を晒されるくらいは花岡さん的に大した被害じゃなかったからでしょう。

でもこれは当時の花岡さんが裏方で、フリーランスで独身で失うものがなかったがゆえに他なりません。タレントやアイドルなら個人情報にアクセスが集中して住所凸も殺到しそうですが、裏方スタッフがどこに住んでいようが気にする人は少ない。被雇用者なら会社倒産は経歴上の汚点になりますが、フリーならむしろ面白がる好事家に重宝されうる。家庭のある畑野さんたちと違って家族への被害も心配無用。

でも今はナーハーとして顔出しで活動しているので、スキャンダルがあれば既に定着したキャライメージのある分だけ再起が難しくなる。訴訟なら経緯のレポートで表に出るチャンスもありましょう(そういう芸能人や実業家の方いますよね)。しかしヤラセは視聴者への裏切り。ネットにはネットなりの信頼がある。それが崩れれば誰も見向きもしなくなります。

自己の能力とその才覚への過信について。花岡さんは普段の動画チャンネル用のネタ集めから裏付け、許可取り、動画作成、演出、編集、投稿まで一人でやっているようです。情報提供者などの部分的な協力者はいるようですが、固定メンバーは持っていないようです。

花岡さんのチャンネルの動画一覧を見ると、結構ハイペースで投稿しているのが窺われます。あれだけの量を一人でこなすのは並大抵ではありません。前述のインタビューやシーズン1考察全編記事より、花岡さんは構成作家としても優秀だったようです。もともと有能だったのでしょう。

花岡さんにはヤラセという秘密がある。後ろ暗い点は弱みになるので極力知られない方が良い。だから極力少ない人数でコトを進めるのがセオリー。花岡さんは一人で大抵のことができてしまうので、一人でチャンネルを運営した。一人なら思い通りに動ける反面、ミスの発見や修正が困難でできることの幅も狭い。

上村さんは事務所倒産や再就職先の被買収などの憂き目を経験して、人間一人の心許なさを知っています。だから協力者をたくさん使った。振り返れば、協力者がいなければ成立しなかった計画も多々ありました。


⑥第12話「お化け屋敷」

視聴者への復讐とサイバーネットジャパン潰しのついでみたいな感じでネタの中途半端さを馬鹿にされ、ナーハー砲のヤラセを暴露された回。

花岡さん役の俳優さんのインタビュー記事で、花岡さんは頭が良い・賢くて悪い奴と言われています(シーズン1の考察記事前編にリンクあります)。それなのにこの回では随分と近視眼的で視野狭窄。一体どうしたのでしょう。

❶上村さんの身辺をリサーチしておかなかったのか。

花岡さんは誰彼構わず暴露砲の餌食にしており、ネタも手当たり次第に集めている様子。上村さんは協力者とはいえ、危ない橋を渡るなら保険として弱みや秘密を握っておいた方が安全。

「上村」は偽名だそうなので、そのまま調べても何も出ないでしょう。でも本名の石田光で検索するといろいろ引っ掛かりました。上村が偽名だと気付けるかがネック。

偽名とはいえ就職する時は本名を使ったはずです。入社時には通常、身元を証明する書類の提出が求められます。さすがに偽造はハードルが高すぎる。だから「上村」名はプロデューサーとしてのペンネームのようなものではないでしょうか。

他のサイバーネットジャパン社員と仲良くなっておけば雑談の中で見抜けたかもしれませんし、そうでなくても注意していれば書類などから本名を知る機会はあったはず。

つまり花岡さんは初めから上村さんの身辺を調べていなかった。11話で上村さんが言っていた通り、舐めていたからでしょう。

中編で花岡さんの中に復讐されることを望む部分があったと書きましたが、だとしても調査はしておくに越したことはありません。ネタを持っていても使わないという手がありますし、復讐より上村さんの秘密の方が面白い可能性だってあります。


❷なぜ対策をしておかなかったのか

10話のUCCHIE & TA-JIチャンネルや11話でのガセネタ指摘など、上村さんサイドの段取りが良すぎて怪しいくらいです。花岡さんはそろそろ自分に脅威が迫っていると悟ってもよかったはず。

ここで手を打たなかった理由は3つ。上村さんが本当に何かすると信じていなかったから、何かするとしても大したことないとタカを括っていたから、何か起きた方が面白いから。

一つ目。上村さんには立場があり、大きな目的も秘匿されています。また、上村さんは周囲を油断させるのに長けています。だから外側からは壮大な計画を実行に移すモチベーションもリスクを上回るメリットも実現可能性も見て取ることが出来なかった。

二つ目。旧オビナマ時代の隅の婆様騒動で花岡さんはほとんどダメージを受けませんでした。だから今回も、たとえ周囲がどうなろうと自分は大丈夫という正常バイアスが働いたのではないでしょうか。当時と現在の自分の立場の違いに自覚的ではなかった点もあると思われます。

三つ目。花岡さんには面白さのためなら自分の身を捧げるのも厭わない節があります(詳しくは中編記事と前シーズンの後編記事で)。上村さんが何かしでかしてくれるのを、敢えて手を拱いて待っていた部分があるのではないでしょうか。


❸なぜ真相を見抜いたのが花岡さんではなく内山さんなのか

印象的なのが花岡さんと高橋さんのやりとり。「スピリチュアル〜」関係者を公開処刑しているのかと問う花岡さんに対して高橋さんは「んなわけねぇだろ」と答えています。そして内山さんが視聴者への復讐計画を見抜きます。

花岡さんは「スピリチュアル〜」のヤラセという心当たりがあったので、自分が復讐されるとしたらそのためだと決めつけていた。既に固まった考えを変えるのは難しい。だから上村さんの真の意図に気づかなかったのではないでしょうか。

一方の内山さんは「スピリチュアル〜」と無関係なのでニュートラルな視点で物事を捉えられたと推察されます。


❹ヤラセを暴露された後の反応

11話でガセネタを指摘された時も12話でヤラセを暴露された時も、花岡さんは口元を手で隠しながらも目はしっかりと何かを見つめています。羞恥で顔を隠すのはよくある話。ではなぜ目元は覆わなかったのか。

見たかったから、ではないでしょうか。自分を見つめる人たちの反応を。

ヤラセ暴露後の花岡さんはパソコンを見つめています。その表情はあたかも睨みつけて威嚇するかのようですが、パソコンのカメラはドラマ「何かおかしい2」を撮影するためのもの。つまり私たち現実の視聴者に花岡さんの表情を映すカメラであり、花岡さんの鋭い眼差しはオビナマneo リスナーに向けられたものではない。

もしリスナーやヤラセを暴露した上村さん、面白がる田島さんへ怒りを抱いているなら、彼らや田島さんのもつスマホカメラを睨むはず。だから花岡さんの中ではあの瞬間、恥よりもSNSの反応が知りたいという好奇心が勝った。これまでの考察記事にも出てきた「受け手」側の心理です。

花岡さんはこの一件で間違いなく失脚し、作り手としての立場は崩れました。しかし、これはある意味で救いでもあります。現実の汚穢に塗れて、楽しかった虚構から引き戻されました。それにより歪だった虚実の関係が無理矢理正された。

ナーハーチャンネルも事務所許可を受けているとはいえ、だいぶ無茶をしておりずっと続けられるわけではない。ヤラセを公表されなくてもマンネリ化して飽きられる可能性は十分にある。そうなれば萎むような終わり、倦怠と退屈に染まった時間がやってくる。だったらいっそ劇的に失墜し、なかなかお目にかかれないSNSの大バッシングを受けて束の間の刺激に溺れ、またゼロから始めた方が面白いかもしれません。


❺花岡さんのその後?

まさかシーズン2で花岡さんが暴露系配信者として復活するなど予想だにしていませんでした。シーズン3があるとしたら、花岡さんは一体どうなっているのでしょう。

シーズン1の考察記事後編の最後に「現実に戻ってこい(超意訳)」ということを書きましたが、今回は既に現実に引き戻されていますし。

ただ、今シーズンの流れを踏まえて無理に予想するとすれば、上村さんのようにオビナマneo や視聴者への復讐を企むという線はどうでしょうか。

前シーズンでは旧オビナマの復讐者たちをロールモデルにして暴露を始めました(考察記事前編参照)。今シーズンでは上村さんの掌の上で転がされて、計画に加担して楽しんだりヤラセを暴露されて地の底に叩き落とされたり、エキサイティングな目に遭いました。故に次は上村さんを半ば無意識にお手本とするのではないでしょうか。今なら復讐という目的もあります。

いやまあ、あくまで一視聴者の想像の話ですし、私自身この説を信じきれていないのですが。


❻内山さんのその後?

内山さんは田島さんと組んでシンオビナマワイドスーパーのMCになっていました。元構成作家が大騒動を経て表舞台へ、という流れは花岡さんと一緒です。服装が黒で統一されているところまでお揃い。

でも内山さんが第二のナーハーになることはないでしょう。内山さんは花岡さんの失脚や上村さんの末路をはっきり目撃しました。調子に乗った者の行く末や、復讐を終えた者の虚しさを知っているわけです。それに、田島さんという相棒もいます。

❼飲食シーンについて

よく見ると、ドラマ内で飲食・喫煙しているのはオビナマ内で何か仕掛けている悪い人だけです。だからどう、という訳ではありませんが。

思いつく範囲でまとめると、
・花岡さん:6, 8話で喫煙、6話で飴を咥えている、10話で焼肉を食べ、12話の打ち合わせではジュースを飲んでいる
・上村さん:1話で喫煙、3話でそば入りパンを喫食
・プロばあちゃん:3話でそば入りパンを喫食
・峯岸作さん:7話でボトルの水を一気飲み
・メグさん:8話でワイングラスを傾けている・田島さんと美人局3人組:10話でキャンディを舐めている

飲食は生存の絶対条件であり、フィクションでは人間である証明のように使われることもしばしば。ドラマ「何かおかしい1, 2」のコンセプトは人間の恐ろしさ。誰も彼も闇を抱えているなら、その悪意を表に出している者こそ真に人間である。そのメタファーが飲食行為なのでは……なんて、何度目かの愚推を。


長くなりました。ひとまずこれにてお終いです。何かあれば適宜加筆・修正します。お読みいただきありがとうございました。

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