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宗教や信仰についての雑記 #369

◯宇宙の意志と苦悩の意味③

今回も前回の続きです。

ところで、この宇宙には熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)というものがあります。この法則は、孤立系(外部とのエネルギーや物質のやり取りがない系)では、時間の経過とともにエントロピー(乱雑さ、無秩序さの度合い)が増大していくというものです。宇宙全体を孤立系とみなした場合、宇宙全体としてはエントロピーが増大し、乱雑さが増大する傾向にあります。
しかし、その中で、局所的にはエネルギーの流れや物質の相互作用などの特定の条件下で、自己組織化が起こり、秩序だった構造が形成されます。そこでは、全体的にはエントロピーは増大しますが、局所的にエントロピーが減少する部分があります。
そのような自己組織化が起こるためには、周囲の環境との相互作用やエネルギーの散逸が必要であり、その過程で周囲の環境のエントロピーを増大させている可能性があります。つまり、自己組織化は、周囲の乱雑さを代償にして成り立っているとも言えるのだと思います。

また、自己組織化は、エントロピーと動的なバランスの上に成り立っています。外部からのエネルギーの流入と内部でのエントロピー生成が絶えず繰り返されることで、秩序構造が維持されています。そして動的なバランスの上に成り立っている以上、それは常に変化しているものでもあります。

私たちの苦悩とは、上記の法則により増大しゆく乱雑さが原因となっているのではないでしょうか。物質的な面でも社会的な面でも、心理的な面でも、自分がそれまでその中に在った秩序が崩れることや、他の秩序のためのしわ寄せを受けることが、苦悩の原因となっているように思います。
そうであるならば苦悩とは、何らかの自己組織化の代償であり、また、常に変化する自己組織化の、動的なバランスの揺らぎによる乱雑さの状態の変化に起因するものではないでしょうか。仏教の言う「苦」が、無常な世が自分の思いのままにならぬことを表しているように。
言い方を変えれば、苦悩とは、自己組織化するこの世界の、その中の自分自身の存在の代償なのかもしれません。
そのような「存在の代償」ということが、「苦悩の意味」の基底にあるもののように思います。

以上述べた「宇宙の意志」と「苦悩の意味」は極めて観念的で荒削りなもので、それぞれが個別的な「宇宙の意志」と「苦悩の意味」の根底にあるものを示したにすぎません。しかし、このように自己組織化ということを軸にして考えることが、現代社会に生きる人たちへの、人生の苦悩に立ち向かう指針になるのではないかと、そんなふうにも思うのです。

そして、それを経ることにより、稲盛氏の言う倫理的な意味合いへの筋道ができるのではないでしょうか。
なぜなら人生の苦悩に「存在の代償」という視点を持たせることとは、他者の苦しみも決して自分と無関係なものではないということでもあり、そこに慈悲と調和への志向をもたらす可能性があるからです。

それは苦悩を単なる苦悩に終わらせず、人生からのメッセージであり、これから進むべき道を指し示す道標のようなものとして受け止め、自らの意思と宇宙の意志との共創としての未来を築き上げるためのものなのだと思います。

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