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ぼくの人生で唯一、正しくセフレだったR子さんへ捧ぐ(その3 攻城戦での選択)

↓前回です

「ねえ。結婚してるもんね」

2秒後、ぼくの目をまじまじのぞき込んで、R子はふたたびぼくにそう訊いた。
彼女の言葉に含まれる「感情の微粒子」の構成要素として、甘さ成分は減り、確認要素が強まった。
ぼくへ確認しているというよりか、自分に向けて言い聞かせているような、そんな響きも感じられた。

R子の目も、ほかの顔のパーツも、全体の構成物としての顔としても。
やはり、普通と違う。とてもとても、綺麗だ。
けど顔に見惚れてる場合じゃないのだった。
即座に、これにどう返すのかを決め、R子に言わなきゃいけない。



(「無料記事で明かせないよ」とかほざいて描写をしなかったけれど、実は最初の声かけのときに言葉を重ねていく中で、「前提、ぼくは実は既婚者で……」と、R子に伝えている。

R子へのアプローチ、最初の時間に一部、ぼくはいわゆる「誠実系」を選択した。
自分のリアルや素性をある程度オープンにした上で、気持ちを率直に伝える。
そうした「ナンパテクニックである」と、紹介するナンパ師ひとたちもいる。

でもぼくが常々思うのは、
「ナンパって、受け売りのテクニックだけじゃ、絶対にどーにもならない」
ということだ。

人に、それも職場の人とかじゃなく突然見知らぬ相手に、心を開いていってもらうそのプロセスを成功に導くことは、ホント、簡単なことじゃないのだ。

「ではどうやって?!」のところは……→そんなの「無料記事で明かせないよ」再びだ!)


大きく分けて、手札は4つだろう。

1枚目、『まさかの、NO』。嘘をつく、この期におよんでしらを切る。

や、あれ嘘。なんか言っちゃっただけ。俺、実は結婚なんかしてないんだよね

……まさかでしょう?耳を疑うでしょう?
「いやちょっと!アナタ自分から言ってましたよね既婚って、それで言えちゃう?普通に考えりゃ、カード化の可能性なくない?」と。言いたくなりますよね。

でも、これも、相手によっては、繰り出す可能性十分あるのだろうなと思う。
社会経験が少ない系、男性に慣れていない系、頭の回転が速くなさそう系と感じた女性になら、超強気にこのウソというかシラを切り通して、突破を図るかもしれない。

「違うって。あれは、ものの例えっていうかで。『既婚の身であるにも関わらず、君のルックスが衝撃的すぎて声をかけちゃいました』って、表現として言っただけなんだよね。設定とか可能性ってだけ。ほんとうは、ぜんぜん、独身なんだ」
だとかね。

この記事を目にしてくれた女性たちには、「ヤリたいから言ってるだけ、そんな男たちの|詐欺《さっぎ》い言葉の数々に、どーかコロッと騙されちゃわないようにね」と言いたい!


2枚目は、『YES, BUT1、からの大嘘展開』。
結婚はしてる。法的には。でも言わなかったけど、もう離婚間近で……」
だ。
不倫男とかもよく言うはずの、お定まりフレーズ。
長く一緒に愛しあう時間を過ごして、女性側が男性に情や絆、離れがたい執着を感じてしまっている後なら、見え見えの嘘でも一定の効力はあるかもしれない。


3枚目、『YES, BUT2、からの甘い囁き、性的ぶっちゃけ、哀願、愁訴の類い』

「そう……ダメな男だよな……でもさ、もうほんと、R子可愛すぎる……っ!(とやや強引なキスムーブ)」が最頻出だろう。

「……でもさ、俺、こんなふうにR子が好意を示してくれるじゃん?日常では絶対ありえない、特別な時間だなぁって……嬉しすぎて、もう、我慢の限界だよ……」

実際、このあたりの返答を、ぼくは採用しかけた。

でも、最後の最後の瞬間の直感。

4枚目のカード。

YES(、続く言い訳は何もなし)』

を、ぼくはぼくに選ばせた。



だから、この局面の実際の対応は、R子の目をのぞき込んで、

「……そだね……そうです」

と言葉を返した、になった。


「ただの思い」と、「それでも打算含み」の2つの意味で、選んだカード4。

「ただの思い」とは?

前の回で、「後のぼくの選択に関わる」として、R子さんのセリフ①と②を、紹介した。

①「へー。じゃ、わたし、わっかんないこと多めなんで、いろいろ聞くよ

②「あーでもわたし、今のリリック好きだったわ、後で聴いてみる!

①は、「この先の関係も『ある』って考えてるよ」と示してくれる、メッセージだと受け取った(勝手に)。

②は、「演奏中止」してやや気まずい気分でいたぼくへのフォローの言葉だったのだろうけど、「本当に、言葉通り思ってくれている」可能性もあった。
だとしたら、

R子、なんていい子なんだろーか!

と、本心からその思いが湧いていた。
そんないい子を、ぼくごときの欲望が勝って、騙しちゃうとかはやっぱ、ないな。
これは……、クズ野郎でもクソ男でもどう言ってくれても構わないのだけど、ぼくという男@大勢の前で声かけなんかを決行できる非常識ガイでも感じたりする、「ただの純粋な感想とか評価」なのだ。


では「打算含み」とは?

はっきり言わないのだけど、どうもR子にはR子で、
「正規の彼氏」
という、現行の日本政府が保証する結婚制度の一部としての概念について、よくわからなくなっている(時期にある)、そんな印象だった。

話していて(というか、隙あらば話題のまないたに乗せて)分かっていったのは。

  • 今、一番長く過ごす人は、セフレ以上彼氏未満的なポジション。友人女性の彼氏の知り合いとして引き合わせられたのが最初。1年ほど継続

  • それは男側の主導や意図に基づいてそうらしい。R子は、普通に彼氏と思っていた時期もあったのだが、どうも男側は認識違うように思ってきている

  • K大学出で、実家が浜田山にある体育会系おぼっちゃまらしい。実家はなかなかの豪邸、だが彼女として中に招かれたことはなく、男の車の窓越しに見るだけ。これもただの豪邸自慢な気がしてきて、冷めている

  • 具体的には聞けてないが、SEXに不満があるらしい

  • 高い物を奢ってもらったり、高級な食事に行く機会が増えて、インスタとか上げまくるのかと思ったら意外にやってない。高級鮨やA5ランク牛に心が躍っていないのかも

  • 今度一緒に湯布院へ旅行しようと言われているけど、行動や価値観が合わないことがはっきりしそうで、行くのが少し怖い

3時間で、これくらいの情報は、飲みながら取ることに成功した。

R子にとっての、「ぼくという男の需要、ニーズ」ってやつが、

その男への不安や不満、ただただ愚痴りたい時の相手

として、この先あり得るなと感じていた。

先ほどのHUB店内で、R子とLINE開通は済ませている。

さらにそこを手がかりとして、関係を変化あるいは深化させていくこともできんじゃないか?今夜コトに至ろうと焦るより、R子にとっての・・・・・・・より自然な形や流れで、親密になっていくほうが、結果的に果実は大きく、甘くなるんじゃなかろうか。


名言っぽく言うと、ナンパは攻城戦だ。

「どう攻めるか?」
「ルート取りは正しいのか?」
「R子という城のうちの、どこの陥落を、最終目標とするか?」
「こちらのダメージが甚大にならないためには?」

俺軍の司令官であるぼくは、状況に応じて「進軍ルート」「兵士(感情)の配置変更」「一時退避」「撤退」などなどなど、まさに臨機応変にぼく自身に指示して、動いてかなきゃならない。


「……そだね……そうです」と言葉を返して、ぼくは沈黙した。
キスに行こうと、顔を近づけるのはやめて、R子の言葉を待った。

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……………………………………………」

R子は、そう唸って、頭を思いっきり下げたポーズで、頭頂をぼくの肩に押し付けてきた。
「おでこ」ではなく、「頭頂」なのがミソだ。
ぼくは直感した。

これは……、親密さではなく、拒絶の気持ちだ。

頭頂でぼくの肩下の腕を押し、自分をぼくから引き離した。
座り直して、彼女はぼくから膝を離した。
最初の15センチではない。その距離、30センチ以上。
ソファの上のハンドバッグを取り、財布を出すと千円札を数枚取り出して、


「私やっぱ帰るわ。さよなら」


と言って席を立ち、そこからはもうぼくを見ず、バッグを手にドアへと歩き出した。

ぼくはその間、
「えっ」「待って待って」「R子、ちょっと、話そ」「お金はいらないよ」

など焦って彼女に発しながらも、内心で

(これは……、もう、そう決めて、帰るモードに入ったな。
ここから引き止めるの、難しいだろう……。
これ以上言うとさらに印象悪くなるし、俺自身も情けない思いするな……)

と、「それ以上強く引き止めることは無理筋」という警告音アラートが、心で鳴り響いていた。


そして、彼女は、部屋を出ていった。
カチャッとドアが閉まる音。

室内に、「ムーンライト伝説」のカラオケ演奏の最終盤が流れていた。

ぼくも、はっと、席を立った。
ガラスドア越しに外を見ると、彼女がまだエレベーター前にいるのが見えた。

でも、ドアのノブに掛ける手が、どうしても動かせなかった。

部屋の方を見ず、とっととエレベーターが来るのを待っているR子の背中を、ドア越しにただ見ていることしかできなかった。

やがて下へのエレベーターが来て、R子が乗り込んだ。
ぼくのいる部屋の方を見るそぶりは、まったくなかった。


俺軍の司令官たるぼくは、攻めるべき城が突然消え失せてしまって、ただただ立ち尽くしていた。
ガラスのドアの内側、さっきまではふたりだけの世界が確かに構築されていたって信じられた場所で、今はひとりで。

(失敗した、失敗だった。俺は、やらかしたんだ。選択に失敗してしまった………!)


その感覚が、まず腹にドンと突き上げ、悪い蛇みたいに腹からぐるぐる、ぼくの躰の内側でうごめきはじめた。

「ムーンライト伝説」が、いつの間にか演奏終了していた。

(つづく)

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山本蛇内
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