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音楽の力 -武器か 楽器か、それとも-

私は音楽の力を信じている。

しかしそれは「音楽が世界平和をもたらす」とか「音楽で世界は繋がれる」とか、そんな甘っちょろい意味ではない。現実はそんなに甘くない。

音楽は武器なんだ。


私は日本以外にもアジアの音楽を聞いている。中でも中国の芸能は興味深くて、たまにコンテンツを覗きに行っている。

これは「说到做到(=言ったことは必ず実行する)」というタイトルで、中国の「社会信用スコア」導入を前向きにプロモートするもので、イメージの良い名だたるタレントたちが歌い上げる。
この曲を知ったのはTFBOYSがきっかけ。彼らは若くして大成功を納め、中国のトップアイドルに上り詰めた。メンバーは収益を寄付したりしていることもあり国家貢献度ランキングも高く、国恥日も含めた記念日には微博の投稿も欠かさない模範生、まさにアイドルだ。メンバーうち1人の王俊凯は成人を迎えたとき自信を人民解放軍の召集兵として登録したことも話題になった。「我和2035有個約(=2035との約束)」という中国共産党が目指す2035年の社会主義現代化計画を宣伝するMVも中国中央电视台制作で発表された。映像では易洋千玺が完璧な作り笑顔から一瞬いつもの真顔に戻る瞬間がなかなかの見ものなのだが、この曲の春晩(中国の紅白的なもの)バージョンはチープなレトロフューチャー盛り盛りの「大金持ち北朝鮮のプロパガンダ」を見ているようで目眩がする。意外と心地よい目眩なのはなぜだろう。

韓国の音楽と政治の事情についても書ける思い出話がたくさんあるので、ここではあまり触れない。しかしKPOP界隈にいる人は、やれ誰が「独島の歌」を歌ったとか、慰安婦バッヂを身に付けてたとか、日本列島が何らかの映像の世界地図から消されていたとか、この手の話題とは無縁ではないだろう。デビュー当時のJO1の韓国でのステージでビジョンに悪意ある放射性物質マークが飛び交っていたのは個人的には忘れ難い。

それこそKPOP界隈からよく聞こえてくるのは「文化と政治は関係ないのに…」というぼやきだ。しかしそれはとんだ勘違いだということは若い世代や、平和ボケした能天気なドルオタには伝えていきたい。
昔のようにミサイルが飛び交っていなくても、私たちを特定の思想に染め上げようとするプロパガンダは飛び交っていて、「文化と政治は関係ない」と思っているあなたこそが格好のターゲットであると伝えたい。

中韓の彼ら/彼女らが北朝鮮の牡丹峰モランボン楽団と異なるのは「普通のアーティスト」であること。政府専用のプロパガンダ部隊ではない。だから日本を始めとする外国のファンには一見「非政治的」な印象を与える。そこから勘違いが生まれる。昔芦田愛菜が「人に裏切られたと感じるのは過度に期待をしているから」というような指摘をしたことがあったと思うが、正しくその例だと思う。
その一方でXやファンコミュニティを見ていると中韓のプロパガンダに染まり切った人も少なからずいて、政治的な動きに失望どころか絶賛する「脳死」タイプもいる。


「音楽の政治利用」なんて言葉は勘違い甚だしい。軍歌は太古の昔から存在し、マーチはその筆頭格だ。国歌に選定されるほどポピュラーで、音楽の歴史を語るにあたって外せないジャンルの一つだ。アルメニアとアゼルバイジャンの戦争でもアルメニアが美女がセンターを陣取って歌い上げる軍歌MVをリリースしたことは話題になった。アゼルバイジャン共和国国境警備隊もアルメニアとの戦争の最中軍歌のMVをリリースしている。尚、フランスの改正される前のラ・マルセイエーズの歌詞と現地ニュースに馴染みがあれば、政治的な歌がいかに国民の心を高揚させ団結させるか知っているはずだ。

音楽は武器で凶器であり狂気なのだ。

私の最推しのバンドは若かりし頃「音楽には国境なんてない」「銃を持つよりギターやマイクを持とう」とイラク戦争時にメッセージを送り、新聞に意見広告まで出した。当時の私は戦争をとても遠くに感じる子供だったので冷めたりはしなかった。言いたいことがあるから言った、ロックミュージシャンとして世間に反戦メッセージを送った、ただそれだけなのだ。私のその気持ちは今も昔も変わらない。ロックなら自国の政府が戦争に(金銭だけであっても)関与するなら意義を唱えることは何ら違和感はない。そして彼らはその時「やるべきことがある」と感じて、それをやった。私はギターがマシンガンの、マイクがPAC3の代わりになるとは全く信じていないが、そう言いたい人にはその権利がある。
そしてそれと同時に「現実はそんな簡単じゃない」とここで呟く権利は私にはある。

エンタメは平和産業である。
これを忘れている人が多すぎる。
平和だから呑気な音楽がやれているのであって、平和が音楽という娯楽を可能にしている。音楽が平和を実現しているのではない。

私は音楽が好きだ。
世界の多様なメロディとリズムにのせて、世界の多様な考え方、政治的立場に触れられるからだ。
どこの国も、例えそこが私の出身国の敵対国であっても、自国の価値観を前面に押し出した愛国的な歌をやめないでほしい。
それは日本に関しても同じで、応援ソングとしての椎名林檎の「NIPPON」も、RADWIMPSの「HINOMARU」も大切にして欲しい。どのような意図であれ、この手の歌を歌えるのは日本人しかいないからだ。サッカーのナショナルチームはその国の人が応援しなければ誰が応援するのか。自分が自国の国旗を振らずして誰が振ってくれるのか。縁起物で勝利を連想させる旭日という意匠を日本人が掲げなければ誰が掲げるのか。

「おまえはネトウヨだ」
そうやって怒る人もいるかもしれない。
私は応える。
「私は世界の人に愛国心を持っていてほしい。ネトウヨなんてスケールに収まらない、本物の右翼かもね」と。

「武器か 楽器か」
この投稿が問いに対する私の答えだ。
楽器は凶器であり、音楽は武器である。

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