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文化盗用 —当事者の気持ちを書いてみる—

このアカウントでは文化盗用のあり方について連続で否定的な意見を述べてきたが、文化盗用がさっぱり理解できないかと言われれば、実はそうでもない。

この投稿が少しでも「文化盗用される側」への理解につながればと思う。
最後までお目通しいただけると非常に幸いだ。


キリスト教の教育を受けた者として

私はキリスト教が国教に指定されている国で育ち、現地校に通っていた。父親の方針もあり、他の生徒同様にカトリック式の宗教の授業を受け、毎週ミサにも通っていた。洗礼は受けていないが、日本の社会平均よりはキリスト教行事に関しては知識がある自負は、一応、ある。

クリスマスとイースターはキリスト教における最も重要な日と言える。キリストの生誕と復活を祝うとても大切な行事だ。

下記にてクリスマスに関する本来のあり方について書いているので目を通していただけると幸いだ。

イースターも人々の罪を背負って磔にされたイエス・キリストの復活という、めちゃくちゃ重大な日なのだ。盛大なミサが行われ、教会でも学校でもみんなで讃美歌を歌う。もちろん、「イースター・エッグ」という名のデコレーションもあるし、スーパーではカラフルなゆで卵が店にならんで、それを友達とコンとぶつけ合って「先に割れた方が負け」とか、そういう遊びをする風習もある。うさぎは子沢山であることから生命力や繁栄の象徴として、日本のような形でではないが、「イースター・バニー」が“祀られる”。チョコレート屋にはうさぎ型のチョコレートが並ぶ。ちなみに金色の包装で赤いリボンが日本でも知名度の高いリンツのもの。ヨーロッパでは小さいのが5ユーロ程度とお手頃。プレゼントにも最適だ。

さて、日本や非キリスト教国でのクリスマスやイースターをみるとどうだろう。どちらも商業イベントと化していて、クリスマスは家族ではなく恋人とすごしクリスマスケーキを食べる日、イースターはディズニーリゾートで「うさたま!」と熱狂する日になっている。

これらを見て、正直戸惑いを隠せない自分がいる。本当にこれで良いのだろうかと。

これが“文化盗用”だとは明言はしないが、“盗用的”ではあると感じている。本来の意味から切り捨てられ、歪められた形の文化だけが残った。クリスマスなんて恋人がいないことを拗らせた人たちがネットで「性夜」と揶揄し、ラブホテルの行列をネットに載せる始末だ。

一方で宗教行事が広まること自体は私は好意的に捉えていて、これこそが教義を広めることに繋がるからだ。正確には多くの国では教義は広まらず、一部の風習だけが残ったわけだが、ふとしたきっかけで「なぜこんな風習になったんだろう?」と疑問に思ってもらえることは、少なくとも日本では珍しくなく、文化や宗教への理解に繋がると、私は考えている。

ここまでが私自身の話だ。

日本国内での文化盗用

日本人に一番伝わりやすい文化盗用の例はなんといっても恵方巻きだろう。

大阪の狭い地域の文化であるとされた恵方巻きはコンビニ業界によって大きくその意義とイメージが歪められてしまった。挙げ句の果てに「遊郭で女性が男性のモノに見立てて加えていた」とまで言われるようになった。

コンビニ業界が恵方巻きに目をつけた理由は金儲けの他何者でもなくて、2月はバレンタインがあるもののデパートやショコラティエ、あるいはスーパーで買うことが主流になっている社会で、正月からひな祭りにかけてコンビニで売れる商品はないかと模索したことが現状に繋がっている。

もし地元の文化が大きな組織によって金儲けの道具に変えられてしまって、ニュースでは豚の餌にされる大量の伝統食を見たらどう思うだろうか。
世間で「下品な文化だ」「そんな文化があるから社会問題が生まれるんだ」と言われるようになったらどう思うだろうか。

「コンビニ業界が悪い」というのは自明なのだが、その文化自体がとやかく言われるようになってしまったら、本当に恵方巻きを風習としていた人々からするととても複雑な気持ちになることは想像に容易い。

ヒップホップとブラックカルチャー

さらに切り込んでいくと、ブラックカルチャーが文化盗用の問題と密接に結びついている。よく「コーンロウは黒人の伝統文化で、奴隷時代には食料を隠したり、脱出ルートを編み込んだ歴史もある」という説明がされるのだが、それだけでは説明が足りないと感じる。
もちろん黒人は奴隷だっただけでなく、長い時代の間白人から差別される対象で、公共の場所は白人と同じ場所を使ってはいけなかったり、ヘイトクライムにあうなど、現代の価値観では想像を絶する積極的嫌悪に晒されてきた過去があったことは一般常識と言っていいだろう。

黒人と髪型

黒人は縮毛である。黒人にとって髪型というのは大きな意味を持ってきた。縮毛を維持すること、コーンロウやブレイズ、ドレッドロックスなどの髪型をすることはブラックコミュニティの人権を重んじることと捉えられ、逆にストレートにすることは白人の真似をしている、白人の言いなりになり媚を売っていると捉えられた時代があった。これは文化的な問題というよりは人権問題、つまり政治的な問題へと発展していった歴史がある。

アメリカではpolitical divide(政治的分断)というものが非常に根深い問題になっていて、思想について現在も争いが起きている。この争いの根源は人種間の対立という人権に関する問題が根幹にあり、人権というものは(当然ながら)重要なイシューなのでどうしても大人しくしていることは難しいし、黙っていればその声は無かったことにされてしまうのである。

ヒップホップという音楽

平野歩夢選手のドレッドロックスに始まり「非黒人はブラックヘアをしてはいけない」という声が上がることは珍しくなくなった印象だが、黒人の中には「そもそもヒップホップをやらないでほしい」と考えている人々も実はいる。「何がなんでもヒップホップをやってはいけない」というよりも「金儲けを目的にヒップホップを利用しないで欲しい」という考え方がある。

ヒップホップの根本はストリートギャングの抗争をブレイクダンスやラップで行うことで「無血で戦う」ことにある。そのストリートギャングがなぜギャングなのかといえば、黒人家庭は差別の影響を受けたことで貧困や機能不全家庭が多かったことによる。

ヒップホップカルチャー≒ストリートカルチャー≒ブラックカルチャー

平野歩夢選手はスノーボーダーであるが、スノーボードはサーフィンやスケートボードに関連性を持ち、そういう意味ではストリートカルチャーと結びついている。そんな彼がドレッドロックスをしたことはある意味違和感はない。なぜならストリートカルチャーとはまさしくヒップホップやスケートボードなどのカルチャーから生まれたものだからである。そしてそれらはまたブラックカルチャーと密接に結びついている。

「悪そうな奴は大体友達」

前述の通り、ヒップホップは「悪い奴」発祥の文化なわけだが、この「ヒップホップ=悪い奴/悪ぶってる奴」という図式が"盗用的"であると指摘されてみると確かにそうかもしれないと感じる。つまり「クリスマス=性夜」「恵方巻き=最後にはゴミ」と同じ図式になってしまっていないか、「ヒップホップの歌詞なんて毎日大麻吸うとか、そんなのでしょ」という偏見(と一部の事実)に繋がっていないかということはその文化を踏襲するときに己に問わなければいけない。

文化と政治

これについてはまたの機会に投稿したいと思うが、「文化は政治と関係ない」と主張する人が一定数(特に日韓関係が緊張した時のK-Popファン)いるが、私は違うと思う。文化も政治も国家や民族の一部であり、互いに作用し合う関係にある。

もちろん政治と切り離した文脈で音楽を奏でることはできる。しかしヒップホップの歴史とカルチャーを鑑みるとどうだろう。アメリカの黒人たちの負の歴史がそこに浮かんでこないだろうか。彼ら、彼女らが政治的に虐げられた事実がそこにあるのではないか。

このカルチャーを踏襲することは実は政治的な立場表明を孕んでいて、ヒップホップやスノーボードをやる上でブラックヘアを"する"、あるいは"しないこと"はどちらも誰かの味方をすることになる。どちらかのスタンスを選ぶことになるのだ。そして米国では、前述の通り、政治的対立が激しく、どちらかのスタンスを選んだ途端にアメリカ人の目には政治的色がついて敵、もしくは味方に見えるのだ。


最後に

筆者は"文化盗用"という考え方は支持していない。文化は世界に羽ばたいて姿形が変化するものであり、それがどんな方向に転んだとしても、生まれ変わった文化がまた新しい文化を生むと考えている。改めて書くが、これを本当に盗用だと感じる人は今日から欧風カレーも、ナポリタンも、肉じゃがも、オムライスも、天ぷらも、とんかつも、南蛮漬けも、寿司も(いくらもシャリも外国語由来なので)食べることをやめた方がいい。

一方で「非黒人がブラックヘアをやっていいのか否か論争」については若干「文化盗用されたと感じる側の気持ちや考え方」が日本社会には不足しているように感じたので、バランスを取る意味でもこのような投稿をしてみた。

私がこのイシューで悩んでいることをとある方に打ち明けたところ、「100%の正解はないことだから」と言葉をかけていただいた。全くもってその通りだ。
そこにあるのはその人それぞれの選択でしかなくて、正解はない。
逆の言い方をすると、私たちはこの問題について考えることをやめてはいけない。

この投稿を読んで「意見のグラデーション」のどこら辺にご自身を置くかは、今これを読んでいるあなたに判断を任せたい。

アメリカのカルチャーに関しては、私はアメリカ出身ではないので知見が浅いためご指摘も募集中だ。(ちなみにコメントを返す時間は基本的にないのでそこは申し訳ない。)

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