誰も信用しない利己主義者の日常③【超ショートショートまとめ】
「全ての生命は種の存続のために行動する。そうだろう?」
地球に調査しにきた宇宙人が言った。
「……まぁな」
「では、なぜ地球人は利己的な行動に走り、同じ種である地球人同士で傷つけ合っているのだ?」
「……俺たちが利己的なのは、競争によって弱い遺伝子を間引くためだ。たぶん」
〈比嘉冷射士のプロフィール〉
「あ、海が見えるよっ!?」
予約していた旅館の部屋に入ると、女が窓から身を乗り出して言った。
俺は女が指差す方向ではなく、女の背中を見ていた。
ブラジャーのバックベルトが浮かび上がり、そこに贅肉が乗っている。
(いい年して燥ぐんじゃねぇよ)
背中を押したくて堪らなかった。
信号に引っ掛かって足を止めた。
横断歩道は短く車道にはほとんど車が通っていない。
その気になれば渡れるが、他の歩行者は立ち止まったままだ。
同調圧力がその生温い触手で俺たちの手足に絡みついている。
俺はそれを引きちぎって歩き始めた。
冷たい空気と背後からの視線が心地いい。
トイレの順番待ちをしていた俺は、ドアが開いた瞬間、列から抜け出て個室に飛び込んだ。
これでいい。
連中は怒っているだろうが、俺が外に出ても喧嘩する余裕がないはずだ。
俺は悠々と用を足して個室を出た。
すると、ズボンに茶色のシミをつけた男が拳を振り上げていた。
比嘉冷射士が利己主義に目覚めたきっかけは、上京して間もない頃に入ったゲイバーで、常連客のカモにされたことだった。
勧められるまま痛飲して酩酊し、気が付けば常連客に強姦されていたとき、比嘉冷射士は今まで他愛心に溢れた世界にぬくぬくと暮らしていた自分と、未だにそこで安住する人々を恨んだ。