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誰も信用しない利己主義者の日常③【超ショートショートまとめ】

「全ての生命は種の存続のために行動する。そうだろう?」

地球に調査しにきた宇宙人が言った。

「……まぁな」

「では、なぜ地球人は利己的な行動に走り、同じ種である地球人同士で傷つけ合っているのだ?」

「……俺たちが利己的なのは、競争によって弱い遺伝子を間引くためだ。たぶん」

「人類同士の争いに勝つ遺伝子を残してどうする?その星の自然環境に適応できればいいではないか」と宇宙人。

架空の現代人、比嘉冷射士(ひが れいじ)の日常を描いた超ショートショートのまとめです。
比嘉冷射士は信頼していた人々に裏切られた経験から、他者を信頼できなくなった青年です。
比嘉冷射士本人は他者を「利益追求の道具」として考えていますが、実際は他者と騙し騙される関係を持つことで寂しさを紛らわせようとしています。
詳しい経緯については〈比嘉冷射士のプロフィール〉にて。

冠鳥天狗より

〈比嘉冷射士のプロフィール〉


「あ、海が見えるよっ!?」

予約していた旅館の部屋に入ると、女が窓から身を乗り出して言った。

俺は女が指差す方向ではなく、女の背中を見ていた。

ブラジャーのバックベルトが浮かび上がり、そこに贅肉が乗っている。

(いい年して燥ぐんじゃねぇよ)

背中を押したくて堪らなかった。


信号に引っ掛かって足を止めた。

横断歩道は短く車道にはほとんど車が通っていない。

その気になれば渡れるが、他の歩行者は立ち止まったままだ。

同調圧力がその生温い触手で俺たちの手足に絡みついている。

俺はそれを引きちぎって歩き始めた。

冷たい空気と背後からの視線が心地いい。

家畜のように盲目的に同調圧力やルールに従う凡人共。

トイレの順番待ちをしていた俺は、ドアが開いた瞬間、列から抜け出て個室に飛び込んだ。

これでいい。

連中は怒っているだろうが、俺が外に出ても喧嘩する余裕がないはずだ。

俺は悠々と用を足して個室を出た。

すると、ズボンに茶色のシミをつけた男が拳を振り上げていた。

勝ち誇りながら後ろ手にドアを閉めたときの光景。

利己主義(エゴイズム)とは、 『他者の迷惑を顧みず自分の欲求を満たそうとする考え方』を指します。
夏目漱石は、従来の日本人の他者本位な考え方を批判し、皆が自己本位になった上で、他者のエゴを認めて倫理観を培うべきだと説きました。
参考:『倫理用語集』(濱井修 監修 小寺聡 編)

利己主義者に関するメモ

比嘉冷射士が利己主義に目覚めたきっかけは、上京して間もない頃に入ったゲイバーで、常連客のカモにされたことだった。

勧められるまま痛飲して酩酊し、気が付けば常連客に強姦されていたとき、比嘉冷射士は今まで他愛心に溢れた世界にぬくぬくと暮らしていた自分と、未だにそこで安住する人々を恨んだ。


読んでいただきありがとうございました。
あなたが他者を足蹴にしてでも幸福になる逞しさを持っていますように。

冠鳥天狗より

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