HSP(繊細さん)の日常③【超ショートショートまとめ】
「自慢話ばっかりするのやめてください。皆が嫌がってるので」
新入社員の発言に空気が凍りついた。
指摘された部長は、雄弁を振るっていた口を開けっぱなしで固まっている。
新入社員いわく、
「だって本人に言うのが一番手っ取り早いじゃないですか」
とのこと。
だけど、そうだけど……。
〈薄井一彦のプロフィール〉
俺の頭の中にはいつメンがいて、誰かがお決まりの台詞を言うと、他のメンバーが次々とお決まりの台詞を発する。
例えば前の会社の上司が「逆に何ができるの?」と言うと、昔のバイト先の先輩が「このレベルか…」と言い、母親が「私の育て方が悪かったね」と言う。
いつメンは年々増えている。
人混みに入ると気疲れしてしまう。
(沢山の人に知覚されている)と思うだけで自意識が張りつめ、体が削られるような感覚になるのだ。
この前、信号に引っかかって多くの人に囲われたとき、ゲームで気を紛らわせようとスマホを開いた。
しかしニュースアプリを開き、読んでいるフリをしてしまった。
小便器で用を足していると、後から上司が入ってきた。
「お疲れ~い」「お疲れ様…え、ちょ…」
上司は他にも空いているのに俺の隣に立った。
そして俺の股間を覗き込み、
「やっぱり太ってると小さいんだなぁ!」と笑った。
上司の小便が跳ねて俺の靴を濡らした。
次からは個室を使おう。
苦手な客の家が近付くにつれ、薄井一彦は自分の神経が鋭敏になるのを実感していた。
人の機嫌を伺うための神経が、本人の意思とは無関係に準備運動をしているのだった。
ふと、通りがかった駐車場に停めてある車のドアの凹みが目に留まった。
薄井一彦はその持ち主の不手際に心を砕いた。