きみにこの曲を~それでもきみに語りたい~
幾度 この曲を聴いただろう
山と空が青いだけの
あの町の灼けたアスファルトに
陽炎を見ながら 仕事で歩いた道で。
こころが崩れてしまわぬよう
なだめながら 空を見上げては
うたった
壊れたテープレコーダーみたいだったな
頭をかけめぐってた
空の青さが心にしみた
あの頃
きみは道に迷って
ぶつかって転んで
傷だらけになっていった
そんなきみのこころを 探しながら
わたしもぶつかり 見えなくて
泣きながら歌ってた
でも
まさか。
まさかね。
知りたくなかったな
その人の死
底知れぬ救われぬ悲しみだけが残った
そんな一瞬にして凍る夜のあること
母親である私に救いのない時があることを
きみよ
きみは 今 なにを見てるの?
言葉は上滑りするかい?
そのこころまで 届かないかい?
ごうごうと吹きすさぶ雪野原を見てるのか?
暗闇に誘い込む森の中を見てるのかい?
きみはどこにいるんだい?
迎えに行こうか?
ああ
言葉が
また 上滑りする
届かないよね
届かないよ
雪嵐のような風が吹く
今朝
「療育に行くんです」
そう言って 小さな背のママが
華奢なぼうやを抱いて
バス停に立ってたよ
寒いね
はい
もうすぐバスが来るんです
そう
お家は 向こうにあるんです。
そう
でも
ここまで来るんですと笑う
「おはよ」
ぼうやに笑ったら
「おはよ」と答えて
小さな両手を差し出した
しろい雪のはなびらが
その小さな手に落ちた
ねえ
きみがおおきくなったら
2月には
ビターなチョコレートをあげるよ
こころのなかで呟いてた
ん?
それとも雪解け味の?
ねえ
もう一度聴くよ
この冬空にきみはなにを見てるの?
必ず春が来て 雪が解けて小川ができるんだ
みんな悲しみは流してくれるんだ
知ってるよね
言葉が空回りしてる?
きみに届かないかい?
どくん どくん と 心が泣いてるんだ
あの時あのこに
伝えたかった言葉が 泣いてる
寂しいと 電話をしてきた
遠くに独りで住むあのひと
わたしでは 支えにはならないのかと
聴いた時
そのひとは言った
近くに居なければいないと同じだ
そうなのか。
遠くではだめなのか。
そうなのか。
それでも わたしは きみに話しかけるよ。