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教える、教えない?さあ、どっち?


金曜日。
明日は休みなので結構遅くまで飲む。終電に乗ると既に座席は一杯。ほろ酔いで、座っている男性の前に立ち、両手で吊り革を持つ。

しばらくすると、前の男性の目線が気になり始める。

『なんやこのオッサン、ワシに文句でもあるんか、それとも男前のワシがそんなに気になるのか』
こっちは見て無いが、先程からこのオッサンはこっちの顔をずっと見てる、、、気がする。

ちらっと顔を見る。
もちろん知らない顔だが、やはりこっちを見ている。

『ん?』
なんか言いたそうやな。
こっちも相手の目を見る。
すると、目線を何度もこっちの腰辺りまで動かす。

『下?』
オッサンの目線通り自分の腰辺りを見る。

「あっ!」
なんと、こっちの社会の窓が半分開いたままになっている。
慌ててズボンのチャックを閉める。
開いたまま歩いてたんかと思うと急に冷や汗が出てくる。
酔いも醒めたようだ。

オッサンありがとうと声に出して言えなかったが、礼の会釈をすると、相手も軽く頭を下げた。
急にええ奴に見えてきた。

なるほどな。
こうすれば良かったんや。


一年前

同じく金曜日の終電列車。
やはり飲み客が多い。
どうにか座席に座れた。
そこへ年配の男性がこちらの前に立ち、吊り革を持つ。
ちょうど目の前に、その男性のズボンのチャックが開いてる姿が見える。

「前、あいてますよ」
と何も考えず言ってやると、その男性は
「そう?前あいてるの」
と言うなり、チャックも閉めず前の車両に行ってしまった。

「えっ!そっち?!」
一瞬、その行動に理解が追いつかなかった。



朝の通勤列車

時間が遅いせいか混んではいない。
座席に座っていると、目の前に若い女性が立って吊り革を持ち、当然ながらスマホを見てる。

何かの拍子に、女性の首の後ろにある着ている服のタグが見えた。

『えっ?裏表逆じゃない』
確かに、生地的にもパッと見はわからないが、よく見ると縫い目が出ているので、明らかに逆さまに着てる。
本人が気付いたらさぞかし驚くだろう。
わざと着てる?
そんなわけはないやろ。
このまま会社に行って、意地悪な女先輩に見つけられ、嫌味を言われたら踏んだり蹴ったりやなと、こっちが心配になってくる。

ここで、声出して教えると回りも気づき、本人もさぞかし気まずいし、かなり恥ずかしいことやろう。
ここは、前の経験を活かして目で合図や。

しかし、

お察しの通り、若い女性は、目の前で変なオッサンにジロジロと顔や体中を見られ、オッサンの親切な気持ちを微塵も理解することなく、一瞥し、しごく当然の結果としてその場所から立ち去っていくのでした。

そら、そうなるわなあ。
なんぼこっちがええ男でも、こんだけ見られるとイヤややろうな。

社会の窓なら分かりやすいが、服の裏表を目線で解らすのは、、、
なかなか難儀なことで。

しかし、教えるまで恥ずかしい思いをしてる訳で、早く教えた方がええんとちゃうかいな。

奥様に報告すると、
「ホンマ、あんたデリカシーが無いなあ、そんな時は黙って知らんふりしとくんが一番や」
そんなことより、私、今から出かけるし」

『そうなん?!』
デリカシー無いか。
わかった!
知らんふりやな。


『今、お前の着てる服に、クリーニングのタグが付いたままになってるが、、、』


ま、ええか。
どうせ、デリカシーが無いって言われるんやし、ついでや。
教えたるで。

「服にクリーニングのタグが付いたままやし、
それと唇の横に海苔ついてるで!」


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