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仮に「金太郎」が桃から産まれたとして、それは「桃太郎」と言えるのか

『What do you want?』

劇中何度も何度も何度も映るベルトコンベアは止まることがない。いや、誰も止めることができないし、止めることを誰もが許さない。それはちょうど我々の生きるこの即物的で不均衡な大量生産・大量消費社会のようである。

「みんなでせーので辞める」ことはできない。ひとりずつひとりずつ順番にこのベルトコンベアから降りていくしかない。エレナ(満島ひかり)からセンター長室?の鍵を受け取りその後任に就いた孔(岡田将生)は山崎(中村倫也)のロッカー前でうなだれる。まるでその前途を憂いているかのように。映画は一応はハッピーエンド的な方向で決着がつくが、なにも根本的な解決には至っていないのである。ただ彼にその順番がきただけで、これから先、孔は、山崎やエレナ、そして五十嵐(ディーン・フジオカ)が乗っていた決して止まることのない、止まることの許されないベルトコンベアに乗らされるのである。「若いのに無欲」だったはずの彼が、望んでもいないはずの「want」のために。

「爆弾はまだある」

何のために労働をしているのか。上長からの圧力か?社会的評価を受けるためか?明確な答えを持ち合わせている人がどれだけいるだろうか?はりぼてのやりがいを無理矢理に掲げさせられ、それを搾取されている人々こそがその「爆弾」なのである。いつ爆発するかも分からない。爆発をし損ねてぼろぼろ・ぶよぶよになってしまっているものもある。爆発するそぶりを見せているもののほうがまだいい。自分は如何にも爆発しませんよと言わんばかりのものほど始末が悪い。燻り続ける爆発の火の粉を周囲に撒き散らし、他の爆発を誘発する。五十嵐は5年間心のどこかであの日のことを負い目に感じながらも、この社会全体を覆っている「見えないなにか」に応えるために「労働」をしてきた。誰もが被害者であり、加害者にもなり得るのだ。

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