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衿肩あき/切り方の違いと効用
———衿肩あきは真っ直ぐ切るか?カーブを付けて切るか??
和裁を始めると必ず行き当たる疑問で、よく分からない両者の違い。どちらでも大きな違いは無いのでは??と、感じるところですが…
🍓衿肩あきの違いは見た目に影響を与えます!
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🍀今回は衿肩あきの直線・曲線裁断について以下の4点を解説しています。
1、衿肩あきの種類(3パターン)
2、切り方の違いによる仕上がりの変化
3、メリット・デメリットの比較
4、私がお猪口タイプ衣紋をオススメする理由
尚、本noteは衿肩あきの違いによって優劣を付けることが目的ではありません。皆様の今後に活かせる判断材料となれば幸いです。
◯衿肩あきとは?
衿肩あきとは、着物の衿を首や肩に自然に沿わせるために、身頃の肩部分の幅方向へ入れる切り込みのことです。
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「和裁は直線裁ち」と言われますが、この衿肩あきは唯一曲線裁ちが可能な箇所です。
◯衿肩あきの違い・3種
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①直線裁ち②カーブ風直線裁ち③曲線裁ち
⚫︎衿肩あき3種の特徴
⬜︎①直線裁ち
・真っ直ぐ裁断する✂️
・衿を丸く付けるのに②、③よりも技術が必要で慣れないと布ツレが発生しやすい。
⬜︎②カーブ風・直線裁ち
・基本直線裁断、先のみ優しいカーブを描く✂️
・終点が丸いため衿縫製がしやすい。
⬜︎③曲線裁ち
・肩山付近までに大きく弧を描く裁断✂️
・丸い切り込みが布ツレの発生を防ぐため①、②と比べると断然こちらが衿縫製しやすい。
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基本的に衿は丸く付いているのが美しいと評価されていて、①〜③のいずれであっても衿つけラインを工夫することでその形が完成されます。
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衿付けラインの形が同じなら①〜③切り込みの違いは仕上がりに大きな(※)影響を与えません。
①の直線裁ちは③曲線裁ちに比べると縫い難いのですが③でないと美しい衿付けにならないといったことはありません。
⚠️言い換えれば①の直線裁ちには、縫い難いからこその利点が含まれているということです。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141733437/picture_pc_428c120d66a5095fdd26063a917fedc7.jpg?width=1200)
【お猪口タイプ衣紋】
◯衿肩あき2種のメリット・デメリット
衿肩あきを2種に分けメリット・デメリットを解説します。(※②のカーブ風・直線裁ちは、カーブが付いている時点で曲線に分類されるため省略します)
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🍓1、直線裁ち
⭕️仕立て直しで「身丈出しの限界値」が可能
⭕️仕立て直しで余計な手間が省ける
⭕️縫い方によっては衿の安定感は最良※1⭐️
❌縫い難く、衿に丸みを付け辛い
❌布ツレが発生しやすい
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🍓2、曲線裁ち
⭕️非常に縫いやすい。和裁初心者にオススメ
⭕️簡単に美しい衿の丸みが可能
⭕️衿中の布ツレが起こりにくい
❌仕立て直しの際、単体では「身丈出しの限界値」には到達できない※2⭐️
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双方を比べると曲線裁ちに有利な点が多くあるようにも受け取れます。
しかし和裁士の中では①直線裁ちにこだわる方は多くいらっしゃいます。
その理由も兼ねて先述の※1、2⭐️部分を中心に簡単にご説明いたします。
◯衿の安定感とは?
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142408760/picture_pc_646f98e43e1cb585e21fa3113910c623.png?width=1200)
「安定感の違い」を調べるために直線裁ち・曲線裁ちの2種を縫い比べたものです。
共に衿付けラインや寸法は同じですが、違いがあることをご確認いただけるでしょうか?
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142408862/picture_pc_cde0bf69f1a25e58ed66d498da0ca916.png)
衿後ろの様子をご覧ください。
シワの寄り方に相違があることが分かります。
⭐️こちらは衿の安定感の違いを撮影したものでした。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142409191/picture_pc_b1dd3d2204a1bd6e69876c412879aa78.png?width=1200)
直線裁ちと比べると目立ってしまう
続いて横から見た図です。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142409309/picture_pc_2e7ac6ad5b31c9a067182e3b4e72d6a7.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142409339/picture_pc_2d8248caf508cdbdcb9ef83628fb1e7e.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142409447/picture_pc_9babd56b0fa97338ffac4a59439bdbbf.png?width=1200)
衿の角度にも大きな違いはありません。
繊細な違いではありますがご確認いただけたのではないでしょうか。中にはこの程度の違いは違いとは言えないと考える方がいてもおかしくはなく、どちらの仕立て方も世の中には存在していますから都合によって使い分けることが出来ればよいのです⭕️
僅かな違いですが安定感の様子が分かるようにリール動画でもあげています。↓↓
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⚫︎衿の安定感が違うとは?【安定感の源!】
寸法や形は同じなのに何故安定感が変わるのでしょうか?
それは【布ツレ=安定感の源!】だからです。
もちろん布ツレ状態で衿を納めることは出来ないので、ツレないように縫わなければならないのですが、布ツレを裁つのではなく「縫い散らす」ことがポイントです。
(専門用語「縫い散らす」…シワを散らして縫うということ)
「曲線に裁つ」ということは衿の丸み同様に、衿肩あきが丸く切られているということ。
これを逆手に取り【布ツレ=悪】ではなく、直線裁断の衿付けの工夫で縫い代が衿の中で伸びないで補強となり安定感を提供出来る。というわけなのです⭕️
🍓🍓【布ツレ=安定感の源!】覚えておきましょう
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142410626/picture_pc_42a869c77f7022f5a2d902ce49a83111.jpg?width=1200)
縫いやすくなる=衿の安定感を失う
↑以前購入したものの様子。この様に切り刻む行為は仕立て直しの観点から考えても避けたいもの。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142410984/picture_pc_ff22c90d396e87fd902c531239a7ed4c.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142410985/picture_pc_e6343383da47c9779c5690dc35967f83.png?width=1200)
分かりやすく伝えるため同じ写真の無加工の様子です↓
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142410994/picture_pc_b29e2368a17cb7720fae8668f0212377.png?width=1200)
放射状の安定ラインが見える
曲線裁ちは縫いやすく比較的簡単に縫製が行えますし、衿の安定感は襦袢や衿芯等で簡単に補強することが出来る故に、自分の物で無理なく縫製する場合にはオススメしたい切り方です。最初に申し上げた通りどちらが良い悪いと優劣を付けるものではありません。
ものぐさがお猪口タイプ衣紋(直線裁ち)をご紹介する際に【安定感が違う】と言っていたのはこの事でした。
このことだけでも衿肩あきの直線裁ちにこだわる方が多い(ものぐさ経験内)理由をご理解いただけるかと思います。
着付け師の方が着物を着付ける際に衿の形を正すことはよくあることだと思います。整わない時は何度正してもすぐに元の状態に戻りたがる衿もあるくらいです。その他の衿のと比べて【お猪口タイプ衣紋】に仕立てるとその行為をしなくてもよいレベルまで衿を安定させる事ができるのです。
◯身丈出し限界値とは?
和裁には【仕立て直しが可能】という利点があり、仕立て直す際は単純に同寸法で行う場合もありますが、寸法変更がある事が殆どで、中でも特に身丈を長くするといったご要望は非常に多くの場合に見受けられます。
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衿肩あき3種の違いを仕立て直すとどれだけ身丈出しが可能なのか?を比べていきます。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142411940/picture_pc_71f9ac2152af08a71441c6d82b153652.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142411969/picture_pc_24567dc290379d36561dfba8bb194fb4.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142411968/picture_pc_4a616e419991e75021f034068e923745.png?width=1200)
上写真の通り、新たに仕立て直す場合、衿肩あき切り込みが深くなるほど、新しい衿肩あきとして使えない部分が増えることとなります(青い斜線)
※実際の仕立て直し物は写真の様に綺麗に裁ち切られているものではありません。左右にばらつきが有る等して使えない部分が予想より多くなる事が殆どです。つまり左右対称に美しく切られていなければ曲線裁断は直線裁断よりも仕立て直し時に手間が増えるのです。
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【身丈出し限界値】を比べたもの
曲線裁ちの曲がりの分だけ、身丈出し可能量が減るというわけです。
※長くなるnoteなのでここは短く説明させていただきました🙇🏻♀️
◯まとめ
・衿肩あきの違いは3種類ある
・衿肩あき直線・曲線どちらも一長一短である
・仕立て直しの際少しでも身丈を長くしたいなら直線裁ちがオススメ
・目的に合わせて切り方を変えるのが理想的
近年では着物を購入する方の目的として【着るための着物】を買われる方が多いそうです。
顔の見えないお客様の購入目的は仕立て屋の私に預かり知らぬ部分が多くありますが、noteやInstagramで話しかけくださる皆さんは自分が心地よく着るために選んだ着物への喜びが伝わってきて私自身幸せを沢山いただいております。いつも有難う御座います♡
様々な理由で輪廻する着物ですが、この着物がいつか誰かの手に渡った時に大切にされ続けていくようなものだと信じて仕立て屋が出来ることは出来る限りのリスクを踏まえた選択をすることだと思います。
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