和裁の謎/衿肩あきの切り方の違い
———衿肩あきは真っ直ぐ切るか?
カーブを付けて切るか??
和裁を始めると必ず行き当たる疑問で、気になるけどよく分からない衿肩あきの切り方の違い。
正直どちらでもいいのではないかと感じるところですが…
⚠️衿肩あきの切り込みの違いは見た目に影響を与えます⭕️
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▷▶︎このnoteでは両者を比べて違いを明らかにしています。
尚、本noteは衿肩あきの違いによって優劣を付けることが目的ではありません。あくまでものぐさ視点から見た違いであります。
伝わりやすさを考えた上で少し長めのnoteですが写真多めで掲載しています。ご閲覧の皆様の今後の仕立てに活かせる判断材料となれば幸いです。
▷▶︎このnoteを読むとわかる事💡
・衿肩あき「3種類」
・衿肩あきは切り方が変わると何が変わるのか
・切り方の違いで生じるメリット・デメリット
・ものぐさ和裁師がお猪口タイプ衣紋をオススメする理由
▷▶︎こんな方にオススメのnoteです🍀
・和裁を習得したい人
・衿周りに悩みをお持ちの方
・将来着物を譲りたいとお考えの方
◯衿肩あきとは?
衿肩あき…身頃の肩山へ幅方向に入れる切り込みのことで、内合わせて着る着物の衿を肩首に沿わせて縫製するために必要なもの。
「和裁は直線裁ち」と言われますが、この衿肩あきは唯一曲線裁断が可能な箇所です。
◯衿肩あきの違い・3種
⚫︎衿肩あき3種の特徴
⬜︎①直線裁ち
・真っ直ぐ裁断する✂️
・衿を丸く付けるのに②、③よりも技術が必要で慣れないと布ツレが発生しやすい。
⬜︎②カーブ風・直線裁ち
・基本直線裁断、先のみ優しいカーブを描く✂️
・終点が丸いため衿縫製がしやすい。
⬜︎③曲線裁ち
・肩山付近までに大きく弧を描く裁断✂️
・丸い切り込みが布ツレの発生を防ぐため①、②と比べると断然こちらが衿縫製しやすい。
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基本的に衿は丸く付いているのが美しい形とされており、①〜③のいずれであっても衿つけラインを工夫することでその形が完成されます。
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衿付けラインの形が同じなら①〜③切り込みの違いは仕上がりに然程(※)影響を与えません。
①の直線裁ちは③曲線裁ちに比べると縫い難いのですが③でないと美しい衿付けにならないといったことはありません。
⚠️言い換えれば①の直線裁ちには、縫い難いからこその利点が含まれているということです。
◯衿肩あき2種のメリット・デメリット
ここでは衿肩あきを大きく二つに分け、メリット・デメリットの点からご説明いたします。(※②のカーブ風・直線裁ちは、カーブが付いている時点で曲線に分類されるため)
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🍓1、直線裁ち
⭕️仕立て直しで「身丈出しの限界値」が可能
⭕️仕立て直しで余計な手間が省ける
⭕️縫い方によっては衿の安定感は最良※1⭐️
❌縫い難く、衿に丸みを付け辛い
❌布ツレが発生しやすい
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🍓2、曲線裁ち
⭕️非常に縫いやすい。和裁初心者にオススメ
⭕️簡単に美しい衿の丸みが可能
⭕️衿中の布ツレが起こりにくい
❌仕立て直しの際、単体では「身丈出しの限界値」には到達できない※2⭐️
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双方を比べると曲線裁ちに有利な点が多くあるようにも受け取れます。
しかし和裁士の中では①直線裁ちにこだわる方は多くいらっしゃいます。
その理由も兼ねて先述の※1、2⭐️部分を中心に簡単にご説明いたします。
◯衿の安定感とは?
直線裁ち・曲線裁ちの2種を実際に縫い比べたものです。
衿付けライン・寸法は全く同じですが何かが違うことがご確認いただけるでしょうか?
衿後ろの様子をご覧ください。
シワの寄り方に相違があることが分かります。
⭐️こちらは衿の安定感の違いを撮影したものでした。
続いて横から見た図です。
衿の角度にも大きな違いはありません。
繊細な違いではありますがご確認いただけたのではないでしょうか。中にはこの程度の違いは違いとは言えないと考える方がいてもおかしくはなく、どちらの仕立て方も世の中には存在していますから都合によって使い分けることが出来ればよいのです⭕️
僅かな違いですが安定感の様子が分かるようにリール動画でもあげています。↓↓
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⚫︎衿の安定感が違うとは?【安定感の源!】
寸法や形は同じなのに何故安定感が変わるのでしょうか?
それは【布ツレ=安定感の源!】だからです。
もちろん布ツレ状態で衿を納めることは出来ないので、ツレないように縫わなければならないのですが、布ツレを裁つのではなく「縫い散らす」ことがポイントです。
(専門用語「縫い散らす」…シワを散らして縫うということ)
「曲線に裁つ」ということは衿の丸み同様に、衿肩あきが丸く切られているということ。
これを逆手に取り【布ツレ=悪】ではなく、直線裁断の衿付けの工夫で縫い代が衿の中で伸びないで補強となり安定感を提供出来る。というわけなのです⭕️
🍓🍓【布ツレ=安定感の源!】覚えておきましょう
↑以前購入したものの様子。この様に切り刻む行為は仕立て直しの観点から考えても避けたいもの。
分かりやすく伝えるため同じ写真の無加工の様子です↓
曲線裁ちは縫いやすく比較的簡単に縫製が行えますし、衿の安定感は襦袢や衿芯等で簡単に補強することが出来る故に、自分の物で無理なく縫製する場合にはオススメしたい切り方です。最初に申し上げた通りどちらが良い悪いと優劣を付けるものではありません。
ものぐさがお猪口タイプ衣紋(直線裁ち)をご紹介する際に【安定感が違う】と言っていたのはこの事でした。
このことだけでも衿肩あきの直線裁ちにこだわる方が多い(ものぐさ経験内)理由をご理解いただけるかと思います。
着付け師の方が着物を着付ける際に衿の形を正すことはよくあることだと思います。整わない時は何度正してもすぐに元の状態に戻りたがる衿もあるくらいです。その他の衿のと比べて【お猪口タイプ衣紋】に仕立てるとその行為をしなくてもよいレベルまで衿を安定させる事ができるのです。
◯身丈出し限界値とは?
和裁には【仕立て直しが可能】という利点があり、仕立て直す際は単純に同寸法で行う場合もありますが、寸法変更がある事が殆どで、中でも特に身丈を長くするといったご要望は非常に多くの場合に見受けられます。
衿肩あき3種の違いを仕立て直すとどれだけ身丈出しが可能なのか?を比べていきます。
上写真の通り、新たに仕立て直す場合、衿肩あき切り込みが深くなるほど、新しい衿肩あきとして使えない部分が増えることとなります(青い斜線)
※実際の仕立て直し物は写真の様に綺麗に裁ち切られているものではありません。左右にばらつきが有る等して使えない部分が予想より多くなる事が殆どです。つまり左右対称に美しく切られていなければ曲線裁断は直線裁断よりも仕立て直し時に手間が増えるのです。
曲線裁ちの曲がりの分だけ、身丈出し可能量が減るというわけです。
※長くなるnoteなのでここは短く説明させていただきました🙇🏻♀️
◯まとめ
・衿肩あきの違いは3種類ある
・衿肩あき直線・曲線どちらも一長一短である
・仕立て直しの際少しでも身丈を長くしたいなら直線裁ちがオススメ
・目的に合わせて切り方を変えるのが理想的
近年では着物を購入する方の目的として【着るための着物】を買われる方が多いそうです。
顔の見えないお客様の購入目的は仕立て屋の私に預かり知らぬ部分が多くありますが、noteやInstagramで話しかけくださる皆さんは自分が心地よく着るために選んだ着物への喜びが伝わってきて私自身幸せを沢山いただいております。いつも有難う御座います♡
様々な理由で輪廻する着物ですが、この着物がいつか誰かの手に渡った時に大切にされ続けていくようなものだと信じて仕立て屋が出来ることは出来る限りのリスクを踏まえた選択をすること。
これからも良い仕立てを追求していきます。
以上、ものぐさ和裁師でした🪡
ものぐさ和裁師は着物と和裁の振興に貢献したいと考えています。美しい着物を未来に残していくためにサポートをどうぞよろしくお願いいたします。