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お父さんのビールを注ぎたい!から生まれたサイのプルトップオープナー

前回は、「やりたい.できた.ラボ」のプロジェクト化についてお話ししました。今回は、ラボで初めて作られた自助具「サイのプルトップオープナー」についてご紹介します。

始まりはお母さんの言葉から

この自助具のきっかけは、“るーと”に通っていただいているお子さんのお母さんの一言でした。

“るーと”は、NPO法人そいるが運営する児童発達支援・放課後等デイサービス・保育所等訪問支援の事業所です。保育士と作業療法士の専門性を活かしながら、お子さんとご家族の目標に向けた支援に取り組んでいます。

https://soil-miki.com/office_org.html

「手伝われることが多い生活の中で、自分も誰かの力になれると思えるようになるといいな。」

その言葉を受けて、「どんなことができるだろう?」と一緒に考え始めました。
そして、お子さんの生活の様子を聞いていく中で、

「お手伝いが好き。缶を開けることができれば、注ぐところまで、1人でお手伝いできる。」

といったお話を聞くことができました。

このようなお話の中で、「お父さんにビールを注いであげることができたらいいな」というアイデアが明確になっていきました。そしてさらに、こんな思いも聞かれました。

「お祭りで、子どもたちは大人にビールを注いであげて、大人は子どもたちにお小遣いを渡す風習がある。この子は今までそういうことに参加するのが難しかった。でも、この子もビールを注いでお小遣いをもらう経験ができたらいいなと思う。そのことをきっかけに、いろんな人とコミュニケーションをとるようになってくれたら嬉しい。」

作業療法士として感動したこと

この話を聞いたとき、作業療法士として深く感動しました。
私たち作業療法士は、「作業」を通して社会と繋がり、豊かに生活していくことを目指しています。
「作業」は、その人にとって目的や価値を持った日常生活で行うすべての活動や行動のことです。

「ビールを注ぐ」という行為だけでは、生活の中の動作の一部でしかありません。
しかし、このお子さんとご家族にとっては、ただの生活の一部ではなく、「ビールを注ぐ」という「作業」を通じて、「人とつながる」「役割を果たす」「お小遣いをもらう」という社会参加につながっています。このお話は、まさに作業療法の本質――作業を通じてその人の人生を豊かにするという考え方に合致していると感じました。

「これはぜひ実現したい!」という思いで動き出しました。

自助具をどう作っていったか

まず、現在市販されているプルトップオープナーを調べ、その形状や機能を実際に試しました。そして、お子さんが「できること」と「難しいこと」を確認し、どのようなデザインが適しているのかを検討していきました。

作業療法士として考えたポイントは以下の通りです。

  • 自助具自体の機能は大きく変える必要はない。

  • 手の中に収まるサイズが使いやすい。

ここからは、デザイナーさんと一緒にアイデアを深めていきました。

デザイナーさんとの発見

デザイナーさんとの話し合いは、作業療法士として大きな学びの連続でした。以下のような視点が挙がり、目から鱗が落ちる思いでした。

  •  自助具についてリサーチした上で、機能性はカバーしつつ、自助具の既存例・通例などには則らなくても良いなと感じました。自分たちで0から考えていけるプロジェクト、3Dプリンターで自分たちで創れるプロジェクトなので、自由で楽しいものにしたい=子どもたちが、ほしい、さわりたい、使いたいものにしたいと考えました。

  • 家の外でも使うシーンがありそう(お祭、普段の外出、学校など)なので、道具を持っていく感覚から、一緒に出かける・連れていくという感覚(相棒感)になれば外出が楽しくなると考えました。

  • 缶を開ける〜注ぐまで1人でお手伝いを完結できるゴールのために、お父さんがビールを飲もうとした瞬間にお手伝いできる必要がある=片付けや、片付けた場所に取りに行く行程を省く方法がないか考えました。いつでも食卓に一緒にいて良い存在として相棒感が解決してくれました。

これらの意見は、私にとって衝撃的でした。
私はこれまで「作業療法士」として、道具を考える際に「見栄え」や「使いやすさ」を意識してきたつもりでしたが、生活に根付くためのデザインという視点は、まさに私の枠を超えるものでした。

こうして生まれた「サイのプルトップオープナー」

相棒感をテーマに形のスケッチをしながら、サイの頭の動きと、プルタブを開けるテコの動きがリンクし、動物が相棒感にもピッタリと考え、完成したのが「サイのプルトップオープナー」です!

さらに、家族みんなで使えるものになれば、より家族の生活にフィットすると考え、ペットボトルオープナーとしても使える機能を付加しました。それによって、この道具のユニバーサルデザインとしての魅力も加速したと思っています。

ペットボトルオープナーにもなります

本当は、デザイナーさんとのエピソードをもっと詳しく書きたいところですが、情報が多くなりそうなので、続きは次回にお話しします!


次回予告

次回は、今回のお話に関連して、作業療法士(私)から見たデザイナーさんとの関わりで感じた驚きや学びについてお届けします!

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