容姿と私
私の顔は整っているらしい。
両親共にそういう顔で、生まれてこのかた
「ハーフですか?」と聞かれ続けてきた純ジャパだ。
ここまで読んで、これを自慢ととる人はどれくらいいるのだろうか。
この顔で生まれてきた私は、この顔があまり好きではない。
幼少期から、両親からは容姿について自信を持たないように言われてきた。
小学校低学年の時に母親から「人があんたのことを可愛いや美人だと言うけど、私はそうは思わない」と言われたことがある。
まさか親に顔が可愛いと思わないと言われるなんて思ってもいなかったので、ただただショックだった。
親なんて無条件で子どものすべてが愛おしいもんだと思っていたからだ。
だが、どうやらうちの母親はそうではなかった。
父親からは「顔がでかい」「足が太い」と言われていた。
私は素直に、自分は顔がでかくて可愛くないんだと思っていた。
でも、友達のお母さんは私を可愛いという。
父親は顔がでかくて足が太い私の写真を、勝手に芸能事務所に送ったりする。
何がホントで嘘なのか分からなかった。
もし両親が嘘をついているなら、一体なんの為に?私を傷つけてまでのことなのか?とも思ったし、知るのが怖かった。
真っ黒闇の迷路にいるような気持ちで、私はいつも心細くて自分の輪郭がモヤモヤとして、漠然と「さみしい」と思いながら過ごしていた。
そして、母に愛されない部分が自分にあるのがこの世の終わりくらい辛くて、幼い私が私のことを嫌いになるには十分すぎる出来事ばかりだった。
幼稚園年長の時に、自分が好んで腰まで伸ばしていたロングヘアも、ある日突然バッサリとショートに切られた。
何故かも聞かされず、心まで切られたようでとても傷ついて大声で泣いた。
大人に、親に、雑に扱われていると感じたことを覚えている。
子どもに言ったって分からないという親の態度を、子どもはきちんと分かっている。
過去の私がそうであったように。
大人になってから、当時同じ園に通う園児の父親が私のことを「色気がある」と言ったことが理由だったと聞かされた。
それを聞いた大人の私はまた傷ついた。
私は何度ズタズタにされればいいんだろう。
その後、性的被害にもあっている。
団地のエレベーターで性犯罪にあった。
犯人が捕まったかどうかは知らない。
腰までの長い髪を切られたって意味はなかったのだ。
私はなんの為に髪を切られたんだろうと今でも思う。
小学高学年の時、クラスで一番モテていた男の子に突然
「お前のこと、俺の親が学年で一番可愛いとか言ってたけど俺は全然思わねえ」と言われた。
またか。と思った。
母親のあの言葉が思い浮かぶ。あの時の母はどんな顔で私にあの言葉を投げつけたんだろう、思い出せない。
母も、こんな風に「言ってやった」みたいな顔をしていたんだろうか。
中学に上がると靴にゴミを入れられたり隠されたりしていじめられた。
友達の好きな男の子が私を気になると言った、先生に気に入られているから、という理由だった。
嘘でもいいから、私が意地悪だからと言って欲しかった。
そうしたら納得もいくし、謝って改善もできるのに。
私って可愛いでしょ?なんて、自分から一度も言ったことはないのに、常に一方的に刃こぼれしたナイフで切りつけられる。
痛くて泣くと「それくらいで泣くな」と言われる。
私が私らしくただ存在することを否定され続ける。
着たい服も着れないし髪も好きに伸ばせない。誰も私を守ってはくれないし、両親は守り方も教えてくれない。
ただ私に無機質な防犯ブザーを持たせるだけ。
あれが役に立ったことなんか一度もない。
「美人だからいいよね。得だよね。」
「調子に乗るな。」
得したことなんてない。調子に乗れたこともない。
傷つけられることはいくらでもあったけど。
ならあんたが私をやってみろよ。嫌になるよ。と、いつも思う。
容姿を褒められるのも嫌だった。
謙遜するしかないと教えられていたからしていたら、それはそれで嫌味だと言われ、頭を抱えた。
色々考えた結果「ありがとうございます」と返すようにしている。
高校を中退した後、初めて死にたくなった。
そこまで行き、いっそのこと嫌いだった容姿を磨くことにした。
自分のことをそれ以上嫌いになりたくなかったからだ。
そしたら今度は「男性の為にオシャレした年頃の女」になった。
何故なのか。
私は私のために頑張ったはずなのに、鼻の下を伸ばした男性がニヤニヤしながら近づいてくる。
頑張れば頑張るほどその数が増える。
勝手に、私のオシャレは男性の為のものだと思い込まれている。
少しタイトな服を着ようもんなら「俺たちを喜ばせるためなんだろう?」と言わんばかりのその視線に、ウンザリを通り越して吐き気がする。
何故私が好きでもない、見知らぬ男たちの為に頑張るんだよ。
勝手に決めつけて勝手に喜ぶな。あんたと私は赤の他人だろうが。
「良いね」ってなんだよ、上から目線かよ。と、ここまで拗れるともうただの褒め言葉も素直に受け取れない。
そんな自分がまた嫌になる。
美容は楽しい。
やればやるだけ返ってくる。
でも、そこに付随してくる異性の目がどうしても振り切れない。
性的に見られないようにダサくなるのも負けたようで嫌だ。
なんで私が我慢しないといけないんだ。
好きなように好きなファッションを楽しみたいだけなのに。
感情の樽いっぱいまで怒りが溜まり、じゃあこの容姿で男を振り回して弄んでやろうと思った。
どうせ皆私の外見しか見ていないんだから。
誰が見ても良い女だと思う容姿になり、今度は私が上から目線で「誰がアンタと」と言ってやることで、これまでの溜飲を下げようとしたのかもしれない。
ただ、できたことはない。
シュラスコの肉のように削ぎ落とされてきた意気地無しの私は、自分に自信がないからそんなこと言えないのだ。
それに、この頑張り方はとても後ろ向きだ。
美容が好きだと胸を張って言えないのはこの後ろめたさからくるのかもしれない。
外見を磨いたら磨いたで、
「見た目だけの中身空っぽ女」と言う同性も出てくる。
過去、彼氏を家に連れていくと「姉ちゃんの見た目だけが好きなんじゃないだろうな?」と交際相手に言う弟。
心配してくれているんだろうが、姉ちゃんは少し悲しかった。
男も女も敵しかいない。
本当はもっと自由に楽しみたい。
私は私を救ってあげたい。
男性が嫌いだ、気持ち悪いなんて思いたくない。
男だ女だとわけたくない。
傷つきたくないし傷つけたくない。
どうしたらいいんだろう。
私は怒りと悲しみを両手に抱えたまま、まだ暗い迷路の中にいる。
小さな私が泣いている。
助けてあげたい。