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ひさしぶりの、タクシー。


タクシーに乗った。 


タクシーって、こんな高かったっけ。
値段を見て、目が飛び出そうになって、あわてて目を閉じる。
いや、ウソだ。
そこまでじゃない。
でも、「おお‥」とため息が出たのは本当だ。


大雨の中、病院に向かうために、タクシーを呼びつけて、次男と乗り込む。
うまく乗りそうだったのに、急に次男が嫌がったので、重いリュックと、傘と、次男の離さなかった傘と、かばん2つと、これまたいつも離さない毛布とをいっしょくたに抱え込んで、無理やり車内に飛び込んだ。

ドアが閉まるまでに、2回ほど次男が脱走しようとするので、おらっと勢いよく押し込んだら、座席にこてんと転がった。
ぎゃーん、と泣く。

こんな姿を見た運転手さんに、虐待だとおもわれたらどうしようと不安になって、走り出した後にはあわてて「よしよし」と優しい声を出す。
次男はひしっとわたしの腕をつかみ、「なぜこんなものに乗せたたのか!」と怒っていた。
口を尖らせ、言葉にならない唸り声をあげた。

大荷物でタクシーに乗り込んで、「◯◯まで!行ってください!!」と叫ぶように言うなんて、現実でも起こりうるのか。
悪い男に追われて逃げるドラマのようじゃないか、と現実逃避な妄想で自分を励ましながら、雨粒でほぼまっしろになっている窓の外をぼうっと眺めた。


それにしても、タクシーって高い。

昔はこんなに高かったかしら、と料金表を睨み、メーターを睨む。
病院というやむを得ない事情で乗るのに、病院より高くつくのが腑に落ちない。

しかし、こうして快適に連れて行ってもらっているのだから、文句は言えない。
美しいブルーのベロアの座席を、そっと触る。
ふわふわである。

車を持たない人たちは、このタクシーをたびたび使っているのだろうか。
エリートみたいで、なんだかかっこいい。
乗っている間、仕事したり、携帯を打ったりできるんだから、移動時間が有効に使えて羨ましい。

電車とか、そういう自力で運転しなくても運んでもらえる乗り物、移動時間を有意義に使える感じの乗り物に、もうずっと乗っていないことに気がつく。

わたしはすっかり、車生活。
この町で、車のない生活なんて考えられない、と頷いた。



今日はワケあって、行きに2回、帰りに1回と、小分けにタクシーに乗らねばならかった。

1回目は次男が騒ぐので必死だったが、2回目はひとりで乗りこむ。
病院に着くまで、運転手さんとあれこれお喋りをした。
すごく、タクシーっぽい。

最近はタクシーもキャッシュレスなんですね、とか、親不知を抜く話とか。
そう、今日は歯医者で親不知を抜く日だった。
ビビりすぎて、麻酔をしてもらったので、車の運転ができなかった。
運転手さんも、親不知を3本抜いたと言うので、「わたしは4本あるんですよ」と対抗したら、「あらあ」と笑われた。



手術後にも、タクシーを呼んだ。

痛みと麻酔で、ふらんふらんだったので、何も喋らず黙って乗り込む。
持ってきた傘を、歯医者さんに忘れた。
でも、それすらどうでもいいという気分で、タクシーにむっつり座り込んだ。

次男を迎えに行って、長男も迎えに行って、タクシーで町をぐるんぐるんまわる。
ようやく家にたどりついたときには、結構な金額になっていた。
でも、わたしの心は軽かった。
なぜか。


両手に荷物。
二人の息子。
痛む右頬。

こんな状態なのに、ふわふわシートのタクシーで、恭しく送迎してもらえるなんて。
むしろ、お金払います、という感謝の気持ちでいっぱいだった。
タクシーの運転手さんに、何度もペコペコ頭を下げて、降車する。
運転手さんは、ずっとにこやかだった。

雨は、すっかり止んでいた。


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