![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/172277235/rectangle_large_type_2_d665501d9068fed83e4a5886855a16a2.png?width=1200)
【読書感想】 透明を満たす
渡邊渚さんのフォトエッセイ「透明を満たす」を読んだ。
文春の記事訂正で興味が薄れかけたが、フォトエッセイは既にAmazonで1位であり、1,980円は全く痛手でなかったので、実際のところの情報を得るべく購入して読んでみた。
以下は、私の率直な感想になる。
"透明"とは
渡邉渚さんは、この言葉にさまざまな意味を込めている。読み終えれば、この言葉にエッセイを通して言いたいことが全て詰め込まれているのがわかった。
彼女が綴った生い立ちを見るに、非常に聞き分けがよく育ち、純粋であったことが伝わってくる。人の言うことを他の人よりも真面目に受け入れてきた受容性と処女性という意味での "透明" がまずは表現されていると思った。
そして事件により、自身の尊厳が踏み躙られ、苦しみ、そこから再び心の器を満たしていくまでの詳細が綴られているが、その空っぽになった心・全てを失った自分という意味の "透明" も捉えることができた。
さらに、彼女はInstagramにPTSD時の症状を逐一投稿してきており、それが、PTSDにした人たちに対して、私の言論を止めることはできないと示すためでもあったと言う。透明性の高い世界を望むという意味でも "透明" を使用しているのだろうと思った。
エッセイ全体を通して、キラキラした日々や心が、汚れた社会に踏み潰される悔しさと、それでもなお立ち直って生きるという強いメッセージが伝わってくる。
母の影響
エッセイの中で、PTSDで苦しむ日々の描写と同じくらい驚いたことが、母親が発した言葉だ。大事な娘に対して、本当にこんな言葉を投げかけるものなのかと、今でも信じがたい。
事件が起きるまでも起きて以降も、彼女がやけに上昇志向であることが読み取れるのだが、家庭環境の影響なのではと感じた。とくに長女には母親の影響が色濃く現れるものだ。
物心つく頃に母からこう教えられたのを思い出す。「気のない男の人と密室で二人きりになってはいけないよ」と。「警戒心を持ちなさい」と。しかし、彼女はそうではなかったようだ。理由がどうであれ、二人きりになるべきではなかったと思う。なぜ、この教育がなされていなかったのか、または、なされていても機能しなかったのか、わからない。
彼女がエッセイの中で、他の人は少しおかしいと思うかもしれないが、これが私の母親なのだと疑いなく受け入れており、そこに私は、彼女がまだ理解していないかもしれない闇を見つけてしまった。正直、書かれていることが本当であるならば、彼女はいつか毒親に気づくだろう。捉え方に齟齬があっただけ、などであれば良いのだが。
彼女は休む暇なく、馬車馬のように頑張り続けるように育っている。もちろんそれで、他の人より多くを経験して、人生が楽しいほうに振れるだけなら良いのだが、今回のように、大きな悲しみまで引き寄せてしまうなら、もう少し安全運転で!と私は言いたくなってしまう。
壊れた心の再生とその難しさ
うつ病にはハイとローがある。そういった状況を目にしたことがあるので、現在の状態が完全に治っているとは言えないことはわかる。
鬱になった知り合いが数人いて、彼らを見るに、一度壊れた心が完全に元に戻ることはないと感じている。みんな、繊細な心を守りながら、刺激を減らして生きているように見える。それくらい、一度大きく損傷した心は壊れやすいのだと思う。
だからこそ、読むと彼女にPTSDを引き起こした人たちのことは許せないと思う。フォトエッセイという形式をとりつつも、フラッシュバックの詳細や加害者への怒りを綴ることで、告発の要素も強く感じられた。
以上が、私の率直な感想だ。
エッセイ全体を通して、リアルで生々しい心情や病状の中身が記載されていて、誰が読んでも学びになると思った。
今後の彼女の人生がより良くなることを祈りたい。