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食べ物の選択と脳の仕組み

特に決めたわけではないのに、普段買うものは体に良いものが多い。

小松菜、ブロッコリー、キャベツ、ニラあたりは定番だが、調べてみると体質的に大事な栄養素が含まれているのがよく分かる。では、なぜこれらのものを自然と買うようになったのだろうか。

人間の脳には大きく分けて2つの仕組みがある。一つは「好きだ!」という快楽感情を司る仕組みと、もう一つは「欲しい!」という追求感情を司る仕組みである。

Berridge & Robinson, 2016, figure 1を参考に筆者作成


つまり、ケーキを口に運んだ時あふれる幸福感は「好きだ!」で処理され、ケーキを買いたい、もう一口、口に運びたいという欲求は「欲しい!」で処理されることになる。

通常、この2つは一緒に動いているが、時には離れてしまうことがある。さほど好きではないのにやめられない状態がこれに当たる。ネット依存症や薬物依存症など様々だが、これらは好きとほしいが乖離することで生じてくる。

Berridge & Robinson, 2016, figure 1を参考に筆者作成

では、食べ物を食べたときには、この「好き!」と「欲しい!」はどのようにして立ち上がってくるのだろうか。ある研究によると「好き!」は味覚で引き起こされ、「欲しい!」は栄養吸収によって引き起こされるという。

味覚は口に入れてすぐなので、「好き!」はすぐに立ち起こるが、「欲しい!」は食べ物がバラバラに分解されて栄養になるまで立ち上がらないので時間がかかる。それゆえ「好き!」と「欲しい!」には時間的なギャップが生じる。

また栄養があるものは、さほど美味しくないものでも最終的には「欲しい!」という感情を高めることが、シミュレーション結果からも出ている。

下の図は「甘い・栄養なし(緑)」、「少し甘い・栄養あり」、「甘くない・栄養あり」の食べ物を繰り返し食べた時に、価値がどのように変化するかを示したものだ。

甘いが栄養のないものは食べてまもない時期には「欲しい!」が高まるが、最終的には価値がないものとして認識されるようになる。

それとは逆に甘くはないが栄養のあるものは時間をかけて価値があるものとして認識されるようになるのがわかる。


Dayan, 2022, figure 4


しばしば健康食品のサンプルは1ヶ月お試しなどで送られてくるが、この図を見る限り、理にかなっているのかなと思うがどうなのだろう。

体に良いものは内臓が判断してくれて「欲しい!」を引き起こす。そしてそれには少なくとも30回近く食べる必要がありそうだ。体の声に耳を傾けて、身体が欲しがるものを手に取るのがいいのかもしれない。

【参考文献】

Berridge, K. C., & Robinson, T. E. (2016). Liking, wanting, and the incentive-sensitization theory of addiction. American Psychologist, 71(8), 670–679. https://doi.org/10.1037/amp0000059

Dayan P. (2022). "Liking" as an early and editable draft of long-run affective value. PLoS biology, 20(1), e3001476. https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3001476


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