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「古典版」民主主義
19世紀初頭から20世紀中盤にかけて、欧米各国が近代国家建設を進めた際の政治モデルを「古典版」民主主義と呼ぶ。「古典版」民主主義は、民主政治に対する基準が緩く、質が低いことは特徴的である。
第一に、「古典版」で近代化を図る際、欧米各国は今日ほどの自由と権利の水準を確保できていなかった。例えば、労働に関して言えば、組合結成権或いはストライキ権等は認められておらず、人権水準は必ずしも高くなかった。加えて、選挙の質は低く、一定額以上納税者・白人・男性など一部の者だけが、最初に選挙権を持ったことは事実である。
第二に、人種差別問題はかなり深刻であった。ジムクロウの執行・1880年代~1920年代にかけての黒人リンチ・教育機会の削減(黒人学校の焼討・黒人教師の低賃金)などにも関わらず、政府の説明責任は今ほど求められていなかった。そうした状況の中で、猟官制(スポイルズ=システム)が採用されており、選挙に勝利した政党が、政府役職(中央・地方公務員)任免権の大部分を担った(閣僚から郵便局職員まであらゆる役職が政治任用の対象であった)。
第三に、市民社会の成熟度は低かった。確かにトクヴィル「アメリカのデモクラシー」という本の中では、 利益団体(NPO、NGO)、政治インフラ(シンクタンク、財団、大学、メディア監視団体)、地方自治が、当時最先端を誇っていたが、今日と比較すればやはり未熟なものである。
「古典版」民主主義は、1877年~1966年にかけてPolity5の数値が「9」と評価されている。この数値は、現代で考えるとインドネシアと同じ(2014年~2018年)である。「最新版」民主主義のハードルが、「古典版」と比較して、如何に高くなっているかを物語っているのではないだろうか。
参考文献
岡山裕「アメリカの政党政治」中公新書2020年
岡山裕 前嶋和弘 「アメリカ政治」有斐閣ストゥディア2023年
ジェームズ・M・バーダマン(訳森本豊富)「アメリカ黒人史」ちくま新書2020年
INSCR Data Page (systemicpeace.org)