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日本人の名前と中国語の発音 ちょっとだけ『名探偵コナン』に触れます(記事65)

前回、日本人の姓と中国語に関して書いたので、今回もそのつながりで。

中国は漢字の国なので、日本では平仮名やカナカナを使う事物でも、全て漢字で表記します。
外国人の名前も
ベートーヴェン → 贝多芬(bèi duō fēn)
マルクス → 马克思 (mǎ kè sī)  
ワシントン → 华盛顿(huá shèng dùn)
といった具合に漢字で音訳されます。

日本人の名前はもともと漢字を使うので、山田太郎は「山田太郎(日本と同じ)」、鈴木一郎は「铃木一郎(簡体字)」ですが、発音は中国語になります。
鈴木一郎 → líng mù yī láng
 (むりやりカタカナにすると「リンムー イーラン」)
山田太郎 → shān tián tài láng
 (同じくカタカナにすると「シャンティエン タイラン」)

しかし日本には漢字を使わない名前もあります。その場合は名前の音や意味を元に漢字が当てられます。
例えば
志村けん → 志村健(zhì cūn jiàn)
浜崎あゆみ → 滨崎步(bīn qí bù)
宇多田ヒカル → 宇多田光(yǔ duō tián guāng)
です。

宇多田光(yǔ duō tián guāng)は字面も響きもかっこいいですね。男っぽい気もしますが。
対して滨崎步(bīn qí bù)はちょっとかわいそうです。カタカナにすると、「ビン チー ブー」…。「ブー」って、高木ブーさんかブタさんか、という感じです。
(ただし、中国人にとっては、「ブー = 豚」という感覚はないので、
「bīn qí bù」の音をおかしいという中国人には会ったことがありません)

「歩」の中国語は bù(ブー)なので、『名探偵コナン』の「歩美ちゃん」でも同じことが起きます。歩美ちゃんの中国語は「bù měi(ブー メイ)」。
中国語吹き替え版の『コナン』を見ていると、「bù měi」「bù měi」と呼ばれていて、「美人じゃない(不美)」ってからかわれているのか?と思えてきます。

中国語版『名探偵コナン』の一コマ

ところで、名探偵コナンの苗字「江戸川」は「江戸川乱歩(中国語は jiāng hù chuān luàn bù)」が元になっていることは周知のとおりですが、江戸川乱歩の元は誰かというと、エドガー・アラン・ポー(英語表記は Edgar Allan Poe)という19世紀のアメリカの小説家になります。アラン・ポーは「推理小説の父」ともよばれています。
そして、エドガー・アラン・ポーの中国語は「埃德加·爱伦·坡(āi dé jiā ài lún pō)」となり、「江戸川乱歩」とは似ても似つかない音になってしまいます。
つまり、日本語では「江戸川コナン」から始まり、「江戸川乱歩」を経て「エドガー・アラン・ポー」まで行きつくことができるのですが、中国語の発音では「江戸川コナン」と「エドガー・アラン・ポー」がつながらないのです。

こういう状況は頻発していて、例えば『コナン』に出てくる「阿笠博士」の「阿笠」は「アガサ・クリスティー」が元になっていると思いますが、中国語の発音「ā lì」では「アガサ・クリスティー(中国語は「阿加莎·克里斯蒂/ā jiā shā kè lǐ sī dì)」)につながりません。
コナンたちが住む「米花町(べいかちょう)」も、シャーロック・ホームズが住んでいたとされる「ベイカー街」が元になっているはずですが、「米花町」の中国語は「mǐ huā dīng」、「ベイカー街」の中国語は「贝克街(bèi kè jiē)」なので、やはりまったく違う音になってしまいます。

もちろん、日本語が優れているとか、中国語は他言語をうまく翻訳できないとか、そういうことを言っているのではありません。中国語の妙をうまく日本語にできないという例もたくさんあります。
ただ、他の言葉に翻訳した時、本来の言葉がもつ意味がごっそりそぎ落とされてしまうのは、なんとももったいないことです。なので、マンガにしても文学にしても、本当に興味があるのなら、無理してでも原文に触れてみた方がいいと思います。
(ちなみに私も中国の歴史に興味があって、『三国志演義』などの原文を読みたいという思いから、(日本の漢文ではなく)現代中国語の学習を始めました。その後、中国に半移住状態になるとは思いもよりませんでしたが)

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サノマ(中国生活をつづったり、写真・画像を整理するノート)
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