【Zatsu】次のトレンドを考える9
みなさんこんにちは。シリーズ「次のトレンドを考える」のお時間です。
第9回は、新しいトリックアート美術館を考えるです。
かまびすしい蝉の声もやわらぎ、気づいてみればもう9月ですね。今年の夏は思い出らしい思い出も作れなかったなぁ。となれば次の季節に期待するしかない。これからは食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、そして観光の秋、でもあるわけです。思い付きでぷらっと旅行に出てみたくなる。
旅行といえば、どの観光地でも、きまって目にする施設があるじゃない? ガラス工房しかり、オルゴール博物館しかり。ご当地ものや名産品とは縁もゆかりもないんだけど、でも必ず見かけるよね。ホテルや旅館のフロントに割引券が置いてあったりしてさ。そんな箱もの観光資源の代表格といえば、やはりトリックアート美術館だと思うんです。
トリックアートの起源を紐解くと、ルネサンス期の透視図法(遠近法)、さらには古代ギリシャの影描写にまでさかのぼる。要は立体(3次元)を平面(2次元)でどうやって表現するか。当時の人々はそこにあるはずもない空間を理性で理解しつつ、しかし眼では知覚する、という“不思議な感覚“を積極的に楽しんでいたんだ。
例えるなら、手品を見ているようなものかな。
そんなわけない、でもそうとしか思えない、という。
しかし、最初の頃こそ物珍しかったこの仕掛けも、やがて写実主義の技法として一般化されると、誰もが当たり前のように使用するようになり、当初の遊び心やおどろきは急速に失われていった。
だが、ここで転機が訪れる。
時は1990年代の日本。劒重和宗なる人物が「那須とりっくあーとぴあ」で参加型トリックアートを仕掛けたところ、これが爆発的な人気を呼び、全国に同じようなコンセプトの施設が乱立した。
トリックアート美術館ブームの到来である。
これまでの、かしこまって遠くから静かに眺める一方通行の絵画鑑賞から、自分が絵画の世界へ入っていくインタラクティブ参加型アートへ。しかもその参加先がトリックで描かれた不思議の国という。
まるで、RPGゲームの主人公として創作の世界と一体化するかのようなあの感覚、没入型体験アートが人々の圧倒的支持を受け、その余波が今なお続いているってわけ。
トリックアート美術館を構成している要素はとくに目新しいものではない。技法は古代ギリシャ時代からあるし、体験型サービスもいってみれば「ごっこ遊び」と同じで、観光地の顔出し看板から覗いたり、子ども時代にお面をかぶってキャラクターになり切った経験はだれにでもあると思う。
でも、このふたつを掛け合わせたのが画期的だったんだろうね。爆発的ブームの背景にはそんな秘密があったと思うんだ。
ごっこ遊びを、アートの技法と世界観で包み込んだ不思議体験。これは「積極的に自分を騙すという高尚な遊戯」といっても過言ではない。
───と長々と書いてきましたが、えー、ご存じのとおりブームはいつしか過ぎ去るもので、全国に点在するトリックアート美術館の経営はなかなか厳しい状況にあります。
それでも、人々のこころは飢え、乾いている。いつもの自分とは別の役割を演じたい、非日常を体験したいという思いが募っているはずで、ストレスのたまりやすい現代であればなおさらその傾向は強まっているんじゃないか、とさえ思う。
あえて言おう。30年前に産声を上げたトリックアートの熱いムーブメントは、この現代においても変わらず息づいていると。まだまだ勝機はある気がしてならないんだが、どうだろうか。
もっとも、時代とともにニーズも変わるから、表現手段を工夫してストレスフルな世の中にマッチした新しいトリックアート美術館を考える必要はあるけれど。
そこでだ。30年前の学生時代の旅先で仲間とワイワイ楽しんだ当時を懐かしむ余裕もなく、日々の仕事に忙殺されている40~50代のビジネスパーソンに向けて、赤ちゃんプレイ(成人ファンタジープレイ)の館をご提案したい。
そこのアナタ。まあ、落ち着いて話を聞きなさい。
トリックアート美術館の本質は、先に書いたとおり「ごっこ遊び」なんだ。そして、ごっこ遊びとは「役柄を演じ切ること」がその醍醐味である。多忙を極めるビジネスパーソンは常にストレスからの解放と、こころの安らぎを希求している。したがって、もう「赤ちゃんプレイ」以外の選択肢はあり得ないよね。これは自然の摂理、大宇宙の意志であろう。
ただ、おれ自身もごっこ遊びと赤ちゃんプレイの明確な違いについてよく理解できていないので、企画に先立ってChatGPT先生に聞いてみたところ、以下のような回答をいただきました。
ほらきた。まさにドンピシャじゃないですか。続けて、こんなこともおっしゃっています。
なんと、リラックス効果どころか、自己探求の時間まで持てるとか、もう最強ですね。企業は意味不明なストレスチェックとかに費用をかけていないで、人材教育としてもっと社員へ赤ちゃんプレイを強要すべきです。
いろいろアイディアがわいてきたので、ここまでの流れを嫁に説明したんです。「新しいトリックアート美術館で3次元を2次元で……」
そうしたら「存在しないものが目の前に展開するって、いまでいうところのメタバースじゃないの? わざわざ美術館なんて建てなくても、すでに実現してるじゃない」と。
そ、そうか。実現していたか。いや、だが……まだだ。まだ足りない。このコンセプトの要である赤ちゃん要素。これを抜きには語れまい。
現代の労働者よ、団結せよ。このストレスフルな世の中から逃れ、いっときの安らぎを。日常から非日常へ、時空を超え、赤子いや生誕さえ超越したその先の世界へと。この究極の体験型イベントをMeta-birth™(メタバース)としてプロデュースしようと、おれ自身が日々の仕事でイライラしながら妄想にふけっているんだ。
この秋こそは、ストレス解消に旅行でも行こうかと思ってます。空気のきれいな高原へ、星空でも見に行こうかな(疲)。