
【弾圧文学の2】籠の鳥
【弾圧文学】は逮捕、ガサ入れ、収監など、弾圧をテーマにした掌編のシリーズです。
籠の鳥
8歳年上の白ヘルの活動家に坂上という男がいた。俺とは世代も違うし、ヘルメットの色も違う。が、この人のことはよく覚えている。
1987年の春から夏にかけて、坂上はH大の学生会館を住みかとしていた。その時、坂上は保釈中の身、坂上の保釈条件には「長野県の実家に住む」という項目があったが、実家では毎日が親子ゲンカ。それで、学館に避難してきたのである。
坂上は学館の奥の部屋からめったに出てこなかった。東京のH大にいることがバレると保釈は取り消される。それで身を潜めていたのだ。だから、坂上の顔を見ることはめったになかったし、坂上がいることを知っているものも少なかった。
そんな坂上と二回話をする機会があった。
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