【第2話】美容師楽しくない(ストーリー編)/あのスタッフなぜ辞めてしまったのか?
辞めていくスタッフは、実は離職のサインを出している。
「オーナー」と「 辞めていく人」、2つの視点から語られる 、
エピソードを基に、離職を防ぐポイントを探る第2回。
文・解説/多田 暢[melt]
第2話 美容師楽しくない ストーリー編
「希望に満ちた美容師ライフ」
登場人物
オーナー………今年、初の新卒生2人を加え、
翌年に2号店の出店を目指している。
アシスタント…美容学校を卒業したばかりの
新米美容師(女性)。
オーナーの視点
僕を含めたスタイリスト4人と、デビュー間近のアシスタントが1人の、計5人で1店舗を運営している。4月からは、新卒生が2
人加わる予定。今後の展開を考えると、大事に育て、全員、立派なスタイリストになってほしいと思っている。
4月、新人たちの歓迎会を行なった。2人は、期待に胸を踊らせているようだった。これからが楽しみだ。
ある日の営業後、アシスタントの2人が先輩スタイリストから注意を受けていた。そのスタイリストは、細やかな接客でお客さまからの指名も多い(➀)。
その後もよく、2人は同じスタイリストから注意を受けていた(➁)。最近は、サロン全体のお客さまも増え、忙しい。私は忙しさの中に、何だかサロンの空気が少し曇っているようにも感じていたが、それは、まだチームとして慣れていないからだろう、と思っていた。
ここ数ヵ月は、サロンの売上も上がり、忙しくなっていることに心地よさを感じていた。このまま、もっと予約で埋まるサロンにしたい!と、接客マナーや単価アップなどの勉強会を積極的に実施していった(③)。
ある日、バックルームに入ると、アシスタントの1人が机に突っ伏して寝ている。その後もたびたび、休憩時間を寝て過ごす彼女の姿を目にすることが多くなった(④)。私は、まだ入社して3ヵ月程度だから、疲れがたまっているのかな…と心配していた。
「時間をもらえますか?」
それから1ヵ月後、そのアシスタントから急に聞かれた。
「辞めたいです」。その一言に、何も言えなくなった。
退職の思いはどうやら強いみたいだ。いつから離職を考えていたのだろうか(⑤)。
私は、どこで間違えてしまったのだろう。
アシスタントの視点
私の髪をずっと担当してくれていた美容師さんは、いつも笑顔で楽しそうだった。私も、いつの間にかそんな美容師さんに憧れて、美容学校に進んでいた。
4月から希望のサロンで働くことになった。うれしい。初日には歓迎会も開いてくれて、みんな優しいし、本当にこれからが楽しみだ。ワクワクする。
ある日、先輩から注意されてしまった。私の中では、一生懸命やっているつもりだったけど、やっぱり気付けない部分もまだある。なかなか思ったようにうまくできない(➊)。
また今日も、注意されてしまった。一体、どこが悪かったんだろうか(➋)。同期の子は、よく気が利く。何となく、先輩は2人に言っているようで、本当は私だけに伝えたいんじゃないかな、と思うようになった。
最近は、やけに勉強会が多い。美容師の仕事が忙しいことは、頭では分かっていたけど、“楽しい”かどうかが、最近は、分からなくなってきてしまった(➌)。
同期の子は、できる子だ。サロンワーク中の会話も自然にできているし、お客さまからも好かれているように見える。私も頑張らないと。
疲れが取れない日が多くなった。ちゃんと寝ているのに、なんだか眠い。考えることが多くなって、“楽しい〞より、〝大変〞と思う日が多くなっていた(➍)。
同期の子とは、頻繁にご飯を食べにいっている。私は、ある日、悩みを打ち明けてみた。「一緒に頑張ろう」と彼女は優しく言ってくれたけど、何だか、私の気持ちは別の方へ向いていた。
8月、オーナーに辞めたい意思を伝えた。とても残念そうで、落ち込んでいるのが目に見えて分かった。
でも、私はもう決めていた。美容師という仕事は、私には向いていない、と(➎)。
「今のこの環境から離れたい」と、ただ、思っていた。
離職のサインはどこにあったのか?
解説編に続く☞
PROFILE 多田 暢(ただ・のぶる)/1988年生まれ。東京都出身。日本美容専門学校卒業後、都内の大規模店に就職。6年間在籍し、広報部門やプロジクトリーダーなどを担当したことで、人事や労務、働き方に興味を持つ。
2015年、吉祥寺に「melt」をオープン。その後、’18年に2号店の「emis」、’20年に3号店の「cofy」を同じく吉祥寺に出店。「スタッフの生活水準の向上」と「質の良い働き方」をテーマにサロンを運営中。