![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/50214787/rectangle_large_type_2_d3803ab5d9907b5e23bde0da4b08a345.png?width=1200)
エピソード6 想い出のアルベルト
12月8日。
9年前の今日、弟であるアルベルトが突然死んだ。
アルベルトは兄弟の中でもとりわけ優しい性格で、昔から正義感が強い子だった。長女のイレーネは忙しい母に代わり、よく彼の世話をしていた。
イレーネは4カ月前に子どもを産んだばかりで、産まれた子はアルベルトによく似ている。アルベルトが亡くなった時に1番悲しんだのは姉のイレーネだった。生まれた子にはアルベルトJr.と名付けた。
イレーネがテキサスからカリフォルニアへ観光も兼ねて来ると言うので二人でアルベルトのお墓へ行くことにした。
「ホセ・ロドリゲス!」
空港のゲートで懐かしい声が聞こえた。ホセと言う名前も、ロドリゲスと言うファミリーネームもよくあるから、フルネームじゃないと反応出来ない。
アルベルトJr.を抱き抱えながら大量の荷物と共に待ち構えていた。前より大分ふっくらして、たくましい母親になっていた。
「オラ、イレーネ。長旅で疲れてない?会うのは久々だね。」
「ホント、クタクタよ!アンタはまた痩せたんじゃない〜?この子とは初対面だっけ?」
俺は初めて会う甥っ子にハイと声をかけた。すると、アルベルトJr.はニコニコと笑った。
墓地に着くと、かわいいピンクや黄色の花が所々に咲いていて空も青く、小さな雲がゆったり移動している。アルベルトが亡くなった時はあんなに悲しかったのに、今は穏やかな気分だ。
そんな時、花の影から何かが素早く移動した。アルベルトJr.がそれを見てゲラゲラ笑ってる。オレはその青くてボールのように、ぼよ〜んぼよ〜んと跳ねる動きから、その正体がヨーナスだって気付いた。姉のイレーネはヨーナスの存在に全く気づいてない。アルベルトJr.が笑う様子を見て、「この子、アルベルトに会えて嬉しいんだわ!」なんて呑気な事を言っている。ヨーナスはアルベルトJr.を散々楽しませて去って行った。不思議なやつだ。
「ねぇ、ホセ。アルベルトは、兄弟の中でも特別な子だったわよね。赤ちゃんが泣いてると、この子はお母さんと一緒に居たいんだよとか、お尻がうんちでかぶれて痛がってるとか、赤ちゃんが何を訴えているのか分かってたわね。おかげで兄弟姉妹の世話がしやすかったわ。」とアルベルトの墓をぼーっと見つめながらイレーネが言った。
「俺らが初めてアメリカに来た時も、誰も英語なんて話せないし理解出来なかったのに、なぜかアルベルトは周りのやつらが話してる事が分かってた。だから、みんなアルベルトに話しかけてたよな。」と笑いながら俺は話した。
大人はもちろんアルベルトに驚いていたけど、俺も子どもながらコイツはなんなんだ、特殊な能力を持っているのか?なんて、彼の凄さにいつもモヤモヤしていた。
アルベルトの葬式ではそれはもうみんな悲しそうで、アイツが太陽みたいな存在だったんだと気づかされた。俺が死んでもあんなに悲しんでもらえるだろうか。
スペシャルなヤツめ。
しかし、オレはわざわざあの少女のためにあんな危険を犯さないと未だに考えてしまう。
確かに、彼女は可哀想な子だ。
アルベルトがいなければ今頃どうなっていたのか分からない。幸せな生活は送れていないだろう。
アルベルトは彼女とその家族のために手取り早く稼げる仕事をした。金を謎の組織へ渡し、その仕事から足を洗おうと考えていた帰り、運悪く、ギャングの闘争に巻き込まれてしまった。流れ玉がアルベルトに当たって、彼はその場に倒れた。警察が来た時にはもう息はしていなかった。
そんな事を思い出しながらしんみりしていると、イレーネが「ホセはいつも私が早起きして作ったランチボックスを忘れて学校に行ってたわね。アルベルトがいて助かったわ。」と言った。
「アルベルトの朝は優雅なもんだ。オレにランチボックスを届ける余裕すらある。」と答えた。
すると、「アルベルトはホセと違ってちゃんと前の日に準備してたから、朝、慌てずに済んだのよ。」とイレーネが言う。
オレは前もって準備する事が苦手だから、朝は大忙しだ。イレーネに持って行くように!と毎日釘を刺されても、ランチボックスなんてすぐに頭から抜けてしまう。
「学校が終わったら寝る前まで、ゲームに集中しないといけないから、アルベルトのようにはいかないのさ。」と言うとイレーネは全くこの子は‥と母親の顔をした。