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【試訳】独島イン・ザ・ハーグ【11】

第5章 サクラの復活

사쿠라의 부활


午前三時、日本海。

月末の月の下の暗闇には、空と海の区別がなかった。

四隻の軍艦が引き起こす四筋の泡が、鉄の熊手で引っかいたように痕跡を残していた。旗艦の艦橋では、松井海佐護衛隊司令官が演説を行っていた。

「今宵、我々は『サクラの復活』の主人公となる。今日以降、日本人は、春を見て美しく咲いて散る桜を思い出すように、竹島を見て我々を思い出すことだろう」

続いて、絹織物を結び付け、短刀を差して回天に乗り込んだ祖父の覚悟を思い出し、松井海佐が太平洋行進歌を歌い始めると、部下たちが勇ましい声で続いて歌い出した。

咲いた花なら 散るのは覚悟
みごと散りましょ 国のため
貴様と俺とは 同期の桜
血肉分けたる 仲ではないが
花の都の 靖国神社
春の梢に 咲いて会おう(※)

※・・・ここで引用されている歌詞は「太平洋行進歌」ではなく軍歌「同期の桜」の一節。

松井司令官は、前の画面を見ながら指示を始めた。画面では航海将校の渡辺大尉が報告していた。

「現在地報告! 北緯36度56分12秒、東経132度40分43秒、針路・速力、300度、20ノット! 竹島方位・距離、 265度、39マイル」

「船首方位角2・6・5、速度は25ノットに高進しろ」

「はっ。船首方位角2・6・5、速度は25ノットに高進」

松井司令官は横に立っている高坂三等海佐に尋ねた。

「無敵艦隊と地球艦隊は出発したか?」

「はっ、二つの艦隊とも、竹島に向かって進撃中であります」

無敵艦隊と地球艦隊は、それぞれ四隻の駆逐艦あるいは揚陸艦で構成されていた。

韓国の目をだますために、無敵艦隊は北側から、 地球艦隊は南側から、それぞれ独島へと進撃しているところだった。

韓国は、日本の海上自衛隊の奇襲に全く気付いていなかった。

鬱陵島の海軍早期警報戦隊で日本の軍艦を発見はしたのだが、その地域では普段も日本の軍艦の動きが頻繁なので、特別だとは認識しなかったのだ。

交戦規則上も自衛隊(※)が独島の15マイル前方まで接近するまでは対応することができなかった。しかし、15マイルは、全速力で向かえば30分もかからない短い距離だった。

自衛隊・・・原文では「日本軍」となっていますが、これまでも「自衛隊」という表現が用いられているため、「自衛隊」に統一しました。
 なお、「護衛隊」はそのままにしています。

暫くして、ようやく日本の船を発見した韓国海洋警備艦が放送を始めた。

「こちらは大韓民国警察です。所属と、いま大韓民国領海に入る目的を明らかにしなさい」

日本側から何の返事もないと、韓国側の交信内容は緊迫したものになった。

「即刻停止し、身元と目的を明らかにせよ。即刻停止せよ。直ちに帰れ!」

日本の艦船は気にも留めずに独島に向かって走り出した。

少ししてから、渡辺海尉が報告した。

「司令官、韓国が対応を始めた様子です。日本海沖合の一艦隊が独島方向へ艦首を回しました。

大邱(テグ)と江陵(カンヌン)空港の戦闘機が離陸準備をしており、釜山沖合の広開土王艦をはじめとする駆逐艦も出撃準備をしています。

鬱陵島にいる二隻の警備艦も既に出撃しました」

「構わん。竹島に向かって全速力で突進せよ」

韓国の駆逐艦は独島まで来るのに3時間以上かかるため、作戦の妨害にはならなかった。

韓国空軍のKF16は、独島まで飛んで来れば8分もたたずに戻らねばならないほど、作戦時間が短かった。

韓国の海洋警備艦3隻では、三方向から押し迫ってくる12隻の最新鋭の日本の艦隊を防ぐことはできなかった。

しかし、最大の脅威はKF15だった。作戦時間が50分と非常に長かったため、 大邱空港から独島まで来るのにかかる15分を引いても、35分程度を作戦に充てることができた。

「司令官、韓国空軍のKF15編隊が出撃しました。全部で12機です。間もなくKF15のハープーン対艦ミサイルの射程圏内に入ります。

我々が先に撃たなければ撃たれます。艦対空ミサイルを準備しますか?」

高坂海佐が切羽詰まった声で尋ねたが、松井司令官は特に返事することもなく、首を振り、目の前のモニターを注視しているだけだった。

モニターでは、韓国の戦闘機を表示した赤い点が速い速度で近づいてきていた。

少しして、渡辺海尉が報告した。

「司令官、韓国のKF15編隊が竹島から10マイルの距離まで接近しています。我々護衛隊との接触は9分後と推定されます」

「よし、なら今から電撃撤退だ」

「・・・はい? い、今、何とおっしゃいましたか?」

隊員たちは、意外な命令に耳を疑った。

「聞こえないのか? 全艦隊、全速力で撤退せよ」

隊員たちは呆気にとられながらも、落ち着いて司令官の命令に従った。

戦闘情報室で船首を回すと、軍艦全体が重たくきしむ音と ともに、大きな円を描いて方向を変えた。

自衛隊よりも慌てたのは韓国軍だった。

海洋警備艦や軍艦は独島へ向かって接近中だったが、燃料が限られているため飛び続けることができないKF15編隊は、領海の外へと撤退を始めた日本の軍艦をそれ以上追跡せずに、朝鮮半島の方向へきびすを返した。

松井司令官は、モニターで韓国の戦闘機を示す赤い点を注視していた。少しして、その赤い点が大邱空港と独島の中間点まで戻る と、再度指示を下した。

「一斉に艦首を180度転回せよ。竹島へ再び進撃する」

「はい? また戻るんですか?」

隊員たちは互いに顔を見合わせ、怪訝な顔をした。

竹島へ進撃したら、突然艦首を回して日本へ帰るのかと思えば、数分も経たないうちにまた竹島に進撃しろと命令するとは。

「何をしている。全員全速力で竹島へ進撃せよ!」

12隻の日本の軍艦は、再度船首を回して全速力で独島へ向かって進撃を始めた。

韓国のKF15艦隊は慌てふためいた。

独島へ 再び戻るには燃料が足りないし、基地に戻って再び出撃するとなると燃料の補充と整備のために時間がたくさんかかる。

KF15編隊はどうすることもできず、陸地に向かった機首をそのまま維持するほかなかった。

日本の艦隊は、三方向から全速力で独島に向かって突進した。

韓国の海洋警備艦1隻が折よく食い止め、機関銃と艦砲を発射したが、うまく命中しなかった。

その間に日本の艦隊が艦砲を発射した。海の上に巨大な水柱が跳ね上がり、その間で砲撃を受けた海洋警備艦はバランスを崩し、くるくると回ってエンジンが切れてしまった。

松井の艦隊は、あたかも敵軍が捨てた無人の城を奪い取るかのように、たやすく独島へと押し入った。

十余隻の軍艦は船尾に船尾をつける形で独島を円形に囲んだあと、艦砲の狙いを定めた。海の上に城郭を作り上げた形となった。

「サクラの復活」作戦は大成功だった。血を一滴も流さずに独島を奪い取ったのだ。

軍艦ごとに君が代が力強く響き渡り、1500人を超える護衛隊隊員が一斉に万歳を叫び、抱き合った。

「天皇陛下万歳!」

「日本万歳!」

空が白む水平線を背にして、軍艦ごとに掲揚された旭日旗が力いっぱいに棚引いていた。

【12】へつづく

【画像】shell_ghostcageさま【Pixabay】