ドイツ語学習者が古英語を覗いてみると

仮定法をきっかけに英語史に興味を持ち始めました。
今回の記事は「英語史入門」(橋本功著、2005年)の受け売りです。

ドイツ語学習者として興味を持ったのは古英語(西暦700~1100年)です。

古英語は複雑な語形変化を持っており、ドイツ語との類似点が多いためです。

英語を今のイギリスにもたらしたアングロ・サクソン人の故郷が今のドイツのシュレスヴィヒとホルシュタインなので、似ているのもうなずけます。

本来なら比較するドイツ語の方も同時代のものとすべきですが、今回は現代ドイツ語学習者が古英語の文法を見たらどう思うか、に焦点を当てます。

性が3つ、格が4つある

名詞には現代ドイツ語と同様、男性、中性、女性の区別があり、4つの格に合わせて変化していました。

「day」は男性名詞、「speech」は女性名詞、「house」は中性名詞です。
対応するドイツ語と見事に一致しますね。

そして、当時は代名詞は名詞の性と対応するものを使っていました。
「woman」は男性名詞「wife」は中性名詞だったので、それぞれ現代英語で言うところの「he」「it」で受けていました。

この点もドイツ語と似ていますね。

そして、「house」の古語に当たる「hūs」の語形変化(単数形)は以下の通りです。横に現代ドイツ語を並べてみます。

3格の語尾「e」は、ドイツ語にも「nach Hause」「zu Lande」などに残っています。ちなみに、古英語では母音に挟まれた「s」は「ザ行」の発音になり、これも現代ドイツ語に通じます。

「21」は「1と20」

「21」のような2桁の数字は、今の英語では「twenty-one」と言いますが、古英語では「ān and twēntiġ」つまり「one and twenty」と言われていました(gの上に点があるのは、今の「y」の発音と同じです)。

実はこの数字の数え方は、古英語だけでなく17世紀のシェイクスピアの時代でも使われていたそうです。

動名詞の語尾は「-ung」、現在分詞の語尾は「-ende」

ドイツ語では動名詞は学びませんが、「sitzen→Sitzung」のように、「-ung」の語尾を使って動詞から規則的に女性名詞を作りだせますよね。

実は英語の動名詞も、昔は(動詞的な働きを持たない)完全な名詞で、その語尾もずばり「-ung(e)」「-ing(e)」で、しかも女性名詞でした。

一方の現在分詞の語尾の方は「-ende」でした。
こちらは「sitzend」という現代ドイツ語の現在分詞とも形がよく似ています。

英語の動名詞と現在分詞は、紆余曲折があり、動名詞の語尾「-ing」が現在分詞にも使われるようになり、形の上では見分けられなくなったそうです。

受動態の主語になれるのは4格だけ

英語の受動文も、古英語の時代は能動文の4格(直接目的語)しか主語に取ることができませんでした。この規則は現代ドイツ語にも生きています。

今の英語のように、間接目的語(3格)も受動文の主語として使われるようになったのは、近代英語(1500年~1900年)の初期になってからだそう。

He was given a book. という構文は、比較的新しいものなんですね。

なお、受動文の行為主は今の英語では多くの場合「by」を用いますが、古英語時代は「from」を使っていたそうです。「von」に通じるものがありますね。

受動態の作り方が2つあった

現代ドイツ語では、動作受動は「werden+過去分詞」、状態受動は「sein+過去分詞」で表されますが、現代英語では「be+過去分詞」が動作受動と状態受動の両方を表します。

ですが、古英語の段階では、「be+過去分詞」と、「weorþan+過去分詞」の2種類が存在しました(「þ」は「th」の音を表すかつての文字です)。

この「weorþan」は現代ドイツ語の「werden」に相当する語で、動作受動文を作るために使われていましたが、12世紀前半に消えてしまったそうです。

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いかがでしたでしょうか?
他にも、現代ドイツ語を知っていると気づく類似点が多く見つかりました。

英語もやはりゲルマンの言葉なんだなと再確認するとともに、どうしてドイツ語は英語ほど変化をしなかったのだろう?と新たな問いも浮かびました。

ここまでお読みいただきありがとうございました!